婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

文字の大きさ
28 / 96

屋敷にて4

しおりを挟む
「それで、ご両親のお帰りはどれぐらいの予定だったかな?」

「えぇっと、まだしばらく掛かると聞いてますわ。でも、良かったんですの?お父様とお母様に内緒でこんなこと……」

「もちろん!これは僕と君との輝かしい未来のため……どうしても僕は君と一緒になりたいんだ、可愛いリリア。僕の言う通りにしておけば大丈夫だからね」

「そうなのね……子爵様、あなたがそう仰るなら……」

自信たっぷりに笑いかけられ、リリアも子爵へと笑みを返した。



「しかし、あの塔はどうする?ご両親がお帰りになる前にどうにか直せないものか……」

「そうですわね……でも、そんなものは……」

そんなものは姉に、と言いかけて気づく。そういえば追い出したんだった。

(でも、別に大丈夫だわ。うちの魔石があればあのくらいのもの)

いくらでもある。大丈夫だ。物心がついてからずっと、うちに魔石が存在しない時なんてなかったのだから。


考えに気を取られて、少しだけ黙ったリリアへ子爵が声をかける。

「……リリア?」

「あ……失礼しましたわ」

リリアは、気を取り直すように、にこっと笑った。

「大丈夫です、地下の保管庫に魔石がございますから。そちらを使いましょう」

子爵は少し、うろたえたようだった。

「だ、大丈夫なのか。その……あんな建造物を直すには魔石を大量に使うのでは?」

「魔石はまだまだ有るから大丈夫ですよぉ。
それでは取って参りますので~」

「あ、あぁ。リリアがそういうなら……」

何か言いたげにしている子爵を置いて、リリアは客間を後にする。



地下への階段を下りて、保管庫の前に立つリリア。
厳重な扉だが、リリアは開け方を知っている。以前、父がこの部屋に入り、魔石を取っていくのをこっそり見たことがあったから。

この部屋は親族にしか入れない造りになってるらしい。
扉の横にある石へ掌をくっつける。すると、魔力を感知したのかカチッと錠の外れる音がした。

(ほんとは、勝手に入っちゃいけないって言われてるけど……)

ギィ……
「んん~……」

重い扉を少しだけ開ける。中は真っ暗だ。
扉を開けた分だけ、ちょっとだけ光が差し込まれて、目をこらすと薄らとだが何かが置いてあるのがわかる。

「あっ。きっと、あれね」

袋を発見して近寄る。触ってみると、確かに魔石の感触があった。

「うん、これだけあれば十分……あら?」

持ち出そうと引っ張ると、腕が何か木の札のようなものに当たる。

「なにこれ、邪魔よ……よいしょ」

札を腕でどかして、袋を持ち上げようとするリリア。

「……?」

一瞬、リリアの胸の内に黒いシミのような不安が落ちた。
その不安を、頭を振ることで追い払って、ずしり、と重たい袋を腕に抱く。

これは求められたこと。わたしのすることは全部褒められること。
手が震えるのは、重たいものを持ったからだ。

今目の前にいる人を、失望させるわけにはいかない。



リリアは、魔石の入った袋を両手で抱えて保管庫を後にした。




もし、この時に魔力でも魔石でも使って、ほんの少しの明かりを点けていたら、リリアにも木札の文字が読めていたかもしれない。
大きく「確保分・使用厳禁」と書かれていた文字が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...