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塔への突入2
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分厚い布で窓を塞いだ部屋の中は薄暗く、しかし魔力の充満が肌で感じられるような場所だった。
くるりと巻いていた証文の紙帯をほどき、相手の目に入るよう大きく突き出しながら息を吸う。
奇妙な感覚があった。
急速に、頭の中をモヤが満ちていくような。
『ローズ・セスティア!貴様に──』
用意していた文句が、予想よりもテンションをかけて口から滑り出る。
部屋の真ん中に俯き座していた女が大声を上げて立ち上がった。
それは後から思えば、ブランが初めて聞く婚約者の声だった。
異常なほどの高揚があった。
たがが外れたような気分だ。胸の奥がむかむかして、同時に突き抜けたような爽快感もある。
婚約者の発する気のない返事を耳にするたび、神経を逆なでされる心地を味わった。
(何だ……?)
同時に、リリアを見ると焦げるような熱が湧く。
これは、なんだ。まるで、感情のレベルを一段、二段と無理やり押し上げられているような……
しかし、思考は長く続かない。
『慰謝料として、魔石を──……』
自分の出した声が遠くで聞こえるような錯覚がある。
(……そんな話だったか……?いや、しかし……魔石は、そうだ。あればあるほどに、よい)
そして、リリアも話を合わせてくれる。
無いと言われて憎しみが勝ち、肩を押して無理やりローズの身を退かす。
(目の前にこんなに、あるじゃないか!)
その魔石が全てクズ石になったと言われ、ブランは、一度絶句する。その後で、目の前が赤くなるほどの怒りに襲われた。
暴力的な衝動がある。すらすらと、刺々しい言葉だけが口から溢れていく。
リリアも同様なのか、ヒステリックなまでに姉を罵っていた。
婚約を誓ってから初めて対峙するローズ・セスティア。
あの日見たままの痩せさらばえた姿だったが、その姿には生気と表情があった。
思うよりもずっと雄弁に語り、こちらを誹り、ブランの無知をあげつらって見下してきた。
困惑と驚きを塗りつぶすように、ただ激しい怒りがある。
頭の片隅にほんの少しだけ正論を吐かれているという思いがあるが、ざわつくような感情の暴走が目の前を赤に染めている。
(ダメにしたなどと、言いがかりを)
『これ、魔石取り扱い授業の基礎の基礎でやりますよ?その授業全部で寝てたんですか?』
(基礎が知れるなら、苦労はない!)
それは自領の抱える問題であり他領の令嬢に罪はない。
八つ当たりであると知りながら、増した激情を止められない。
自らの有用性を強調するようなローズの言葉に、今の自分には妹がいると、自陣の有利を知らせたくてブランは叫ぶ。
しかしローズは鼻で笑うかにあっさりと破棄と追放を了承し、挙句扉から出て行ってしまう。
開け放たれた扉からは、多少、外気が流れてくるようだった。
くるりと巻いていた証文の紙帯をほどき、相手の目に入るよう大きく突き出しながら息を吸う。
奇妙な感覚があった。
急速に、頭の中をモヤが満ちていくような。
『ローズ・セスティア!貴様に──』
用意していた文句が、予想よりもテンションをかけて口から滑り出る。
部屋の真ん中に俯き座していた女が大声を上げて立ち上がった。
それは後から思えば、ブランが初めて聞く婚約者の声だった。
異常なほどの高揚があった。
たがが外れたような気分だ。胸の奥がむかむかして、同時に突き抜けたような爽快感もある。
婚約者の発する気のない返事を耳にするたび、神経を逆なでされる心地を味わった。
(何だ……?)
同時に、リリアを見ると焦げるような熱が湧く。
これは、なんだ。まるで、感情のレベルを一段、二段と無理やり押し上げられているような……
しかし、思考は長く続かない。
『慰謝料として、魔石を──……』
自分の出した声が遠くで聞こえるような錯覚がある。
(……そんな話だったか……?いや、しかし……魔石は、そうだ。あればあるほどに、よい)
そして、リリアも話を合わせてくれる。
無いと言われて憎しみが勝ち、肩を押して無理やりローズの身を退かす。
(目の前にこんなに、あるじゃないか!)
その魔石が全てクズ石になったと言われ、ブランは、一度絶句する。その後で、目の前が赤くなるほどの怒りに襲われた。
暴力的な衝動がある。すらすらと、刺々しい言葉だけが口から溢れていく。
リリアも同様なのか、ヒステリックなまでに姉を罵っていた。
婚約を誓ってから初めて対峙するローズ・セスティア。
あの日見たままの痩せさらばえた姿だったが、その姿には生気と表情があった。
思うよりもずっと雄弁に語り、こちらを誹り、ブランの無知をあげつらって見下してきた。
困惑と驚きを塗りつぶすように、ただ激しい怒りがある。
頭の片隅にほんの少しだけ正論を吐かれているという思いがあるが、ざわつくような感情の暴走が目の前を赤に染めている。
(ダメにしたなどと、言いがかりを)
『これ、魔石取り扱い授業の基礎の基礎でやりますよ?その授業全部で寝てたんですか?』
(基礎が知れるなら、苦労はない!)
それは自領の抱える問題であり他領の令嬢に罪はない。
八つ当たりであると知りながら、増した激情を止められない。
自らの有用性を強調するようなローズの言葉に、今の自分には妹がいると、自陣の有利を知らせたくてブランは叫ぶ。
しかしローズは鼻で笑うかにあっさりと破棄と追放を了承し、挙句扉から出て行ってしまう。
開け放たれた扉からは、多少、外気が流れてくるようだった。
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