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掴みたかったもの
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部屋に入った神官様は、壁に備え付けられている棚の中をごそごそと探している。
後ろをちらりと見てみたけど、アストはあの……得体の知れない追手の人を見張っているみたいだった。
神官様に近づいて、そっと声を掛ける。
「……神官様」
「ん?ああ、ローズ様。すみませんが、そちらの棚を一緒に探してくださいますか……」
穏やかに、そう伝えてくれる神官様に、ごくりと喉を鳴らしてから質問する。
「……あの……妹は……どうなるのでしょうか」
神官様は、一度虚をつかれたような顔をする。
「妹は……両親の、妹への接し方は……間違っているのですか……?」
声は小さくなってしまったけど、勢い込んでそう言うと、神官様は理解したように視線を落とした。
溜息を吐くように、わたしがそう言い出したことの理由へ……思い至った人の名を呟く。
「……アストか」
話が通じたことで、焦るような気持ちが湧き上がってくる。
こんなこと、神官様に聞いてどうするの?
でも……この方なら。
何かを示してくれそうな気がして。
切迫感に押されるように、わたしは神官様を見つめた。
「お答えする、その前に……ローズ様へ聞いて頂きたい話があります」
「……お話?……ですか」
「ええ、全く無関係というわけではないのですが……」
神官様は、大きな木製の棚の縁を掴む。
光の加減で、眼鏡の奥の瞳が見えなくなった。
「……子供を想って愛することと、大人の都合だけで愛玩することとは、似て異なるものです」
ああ……アストも、そんなようなことを……
…………セスティアの家は……両親は、きっと、後者だ。
「自分たちの利益、そして気晴らしのためにしか、子供に接することをしない。……残念ながら、このような風潮は……未だ珍しいことではありません」
神官様が、体の向きを変える。
まっすぐとわたしの方を見た事で、その鮮やかな翠の瞳に、燃えるような熱が宿っているのが分かった。
「子供は親の道具でも、所有物でも、愛玩動物でもない。すべての子供は……健やかな育成のため保護されているべきなんです。……僕はそう考えている」
神官様は、わたしを見ながら……水晶で覗いた、あるいは鑑定の日に出会った、子供のころのわたしを見ているのかもしれない。
もしくは、痩せ衰えて、生気をなくしてしまったあの日のわたしを。
「しかし。それは、個人の問題であると……切り捨てられてしまうことも多い」
それでも、何かやりようがあるはずなんだと神官様は言う。
…………そうですよね。
だってまともな親の……少なくとも、子供の心と体をやたらと傷つけないところで育っている貴族の方々だって、たくさんいらっしゃる……だろうから。きっと。
神官様は、まるで泣いているように微笑んだ。
「……だから、あなたが僕を思い出してくれて、中央教会まで出向いてくれて……本当によかった。……来てくださって、ありがとうございます。ローズ様」
後ろをちらりと見てみたけど、アストはあの……得体の知れない追手の人を見張っているみたいだった。
神官様に近づいて、そっと声を掛ける。
「……神官様」
「ん?ああ、ローズ様。すみませんが、そちらの棚を一緒に探してくださいますか……」
穏やかに、そう伝えてくれる神官様に、ごくりと喉を鳴らしてから質問する。
「……あの……妹は……どうなるのでしょうか」
神官様は、一度虚をつかれたような顔をする。
「妹は……両親の、妹への接し方は……間違っているのですか……?」
声は小さくなってしまったけど、勢い込んでそう言うと、神官様は理解したように視線を落とした。
溜息を吐くように、わたしがそう言い出したことの理由へ……思い至った人の名を呟く。
「……アストか」
話が通じたことで、焦るような気持ちが湧き上がってくる。
こんなこと、神官様に聞いてどうするの?
でも……この方なら。
何かを示してくれそうな気がして。
切迫感に押されるように、わたしは神官様を見つめた。
「お答えする、その前に……ローズ様へ聞いて頂きたい話があります」
「……お話?……ですか」
「ええ、全く無関係というわけではないのですが……」
神官様は、大きな木製の棚の縁を掴む。
光の加減で、眼鏡の奥の瞳が見えなくなった。
「……子供を想って愛することと、大人の都合だけで愛玩することとは、似て異なるものです」
ああ……アストも、そんなようなことを……
…………セスティアの家は……両親は、きっと、後者だ。
「自分たちの利益、そして気晴らしのためにしか、子供に接することをしない。……残念ながら、このような風潮は……未だ珍しいことではありません」
神官様が、体の向きを変える。
まっすぐとわたしの方を見た事で、その鮮やかな翠の瞳に、燃えるような熱が宿っているのが分かった。
「子供は親の道具でも、所有物でも、愛玩動物でもない。すべての子供は……健やかな育成のため保護されているべきなんです。……僕はそう考えている」
神官様は、わたしを見ながら……水晶で覗いた、あるいは鑑定の日に出会った、子供のころのわたしを見ているのかもしれない。
もしくは、痩せ衰えて、生気をなくしてしまったあの日のわたしを。
「しかし。それは、個人の問題であると……切り捨てられてしまうことも多い」
それでも、何かやりようがあるはずなんだと神官様は言う。
…………そうですよね。
だってまともな親の……少なくとも、子供の心と体をやたらと傷つけないところで育っている貴族の方々だって、たくさんいらっしゃる……だろうから。きっと。
神官様は、まるで泣いているように微笑んだ。
「……だから、あなたが僕を思い出してくれて、中央教会まで出向いてくれて……本当によかった。……来てくださって、ありがとうございます。ローズ様」
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