81 / 96
聞こえてきたもの(子爵視点)
しおりを挟む
セスティア家の屋敷に近い箇所で取った宿の一室で、ブランはひとり焦っていた。
リリアと離されてから幾日目かの朝を迎えた。
かの屋敷には連日尋ねてはいるが一向に会ってはもらえない。
昨日からは外出をするとして夫婦ともども屋敷を留守にされてしまった、当主の話ではリリアも同行しているらしいが……
側近のアルからの通信も一方的なために、こちらから連絡をすることもできない。中央に着いた時に一報は来たが、そこからは連絡も途絶え、リリアに会えぬ日々と同じように数日が経っていた。
窓枠でさえずる小鳥が元気そうなために、最悪の事態に陥ったわけではなさそうだが。
訪ねていくべき相手は屋敷を空けてしまい、婚約者を追う側近とは連絡が取れない。
それに、敷地の裏手に広がる森から時折仄暗い気配がしていることも気にかかった。
主の不在時に訪ねて何が出来るわけでもない。ブランは知らず親指の爪を噛んだ。
そこへ、ばさばさと小鳥が騒ぎ立ててやって来る。
『ブランさまああああ』
不意の通信にブランは驚き、体裁をほとんど忘れて窓際へと飛びついた。
「お前、何してたんだ無事か!?」
窓を開けて部屋の中へ小鳥を迎え入れると、小鳥は胸元へ飛び込んできた。鳥類特有の枝のような足へ、足場を作るように腕へ止まらせるように支えながら窓を閉める。
『無事っちゃ無事でまずいといえばまずいです』
と、側近の声でさらりと不穏を滲まされてブランはぎょっと目を剥いた。何が起こったと言うのだろうか。
『今教会にいるんですけど』
「は?」
『ローズ様も今隣にいまして』
「はあ???」
『捕まって脅されたんで全部バレちゃいました』
「情報量!!!待て、どういうことだ、一から話せ……」
額を抱えるようにして混乱しそうになる状況を整理しようと試みるが、アルとつながっている小鳥はバサッと羽根を広げて更なるピンチを告げて来た。
『それよりリリア様が危ないらしくて!』
「!?」
眉を寄せながら続きを待つブランのところへ届く声が、途中でノイズ交じりになる。小鳥が小鳥らしい鳴き声を上げた。
『あっ、ちょっ……ピギャッ」
「おい」
この上まだ何が起こるのか、と声を上げたブランの元へ、聞こえたのは女性の声だった。
『言いたいことも聞きたいこともあるけどとりあえず用件以外は置いておくわ。そっちの様子はどうなっているの?』
ああ、この声は。
通信によってやや変質をしているけれど、ブランには知れた。
彼が退けた婚約者のものなのだと。
リリアと離されてから幾日目かの朝を迎えた。
かの屋敷には連日尋ねてはいるが一向に会ってはもらえない。
昨日からは外出をするとして夫婦ともども屋敷を留守にされてしまった、当主の話ではリリアも同行しているらしいが……
側近のアルからの通信も一方的なために、こちらから連絡をすることもできない。中央に着いた時に一報は来たが、そこからは連絡も途絶え、リリアに会えぬ日々と同じように数日が経っていた。
窓枠でさえずる小鳥が元気そうなために、最悪の事態に陥ったわけではなさそうだが。
訪ねていくべき相手は屋敷を空けてしまい、婚約者を追う側近とは連絡が取れない。
それに、敷地の裏手に広がる森から時折仄暗い気配がしていることも気にかかった。
主の不在時に訪ねて何が出来るわけでもない。ブランは知らず親指の爪を噛んだ。
そこへ、ばさばさと小鳥が騒ぎ立ててやって来る。
『ブランさまああああ』
不意の通信にブランは驚き、体裁をほとんど忘れて窓際へと飛びついた。
「お前、何してたんだ無事か!?」
窓を開けて部屋の中へ小鳥を迎え入れると、小鳥は胸元へ飛び込んできた。鳥類特有の枝のような足へ、足場を作るように腕へ止まらせるように支えながら窓を閉める。
『無事っちゃ無事でまずいといえばまずいです』
と、側近の声でさらりと不穏を滲まされてブランはぎょっと目を剥いた。何が起こったと言うのだろうか。
『今教会にいるんですけど』
「は?」
『ローズ様も今隣にいまして』
「はあ???」
『捕まって脅されたんで全部バレちゃいました』
「情報量!!!待て、どういうことだ、一から話せ……」
額を抱えるようにして混乱しそうになる状況を整理しようと試みるが、アルとつながっている小鳥はバサッと羽根を広げて更なるピンチを告げて来た。
『それよりリリア様が危ないらしくて!』
「!?」
眉を寄せながら続きを待つブランのところへ届く声が、途中でノイズ交じりになる。小鳥が小鳥らしい鳴き声を上げた。
『あっ、ちょっ……ピギャッ」
「おい」
この上まだ何が起こるのか、と声を上げたブランの元へ、聞こえたのは女性の声だった。
『言いたいことも聞きたいこともあるけどとりあえず用件以外は置いておくわ。そっちの様子はどうなっているの?』
ああ、この声は。
通信によってやや変質をしているけれど、ブランには知れた。
彼が退けた婚約者のものなのだと。
14
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる