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第四章 ダークネス・カイザー様の行方

48話 お願いごと

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デビルンがイビルンを制圧し、無事にダークネス・カイザー様を救出するのに成功した。
彼の意識は覚醒したが、バステトはまだお香の効果が聞いているようでぐっすりだ。

(覚醒したせいで、膝枕の時間はもうおしまいだ。ぐすん)

「――デイネブリスパピヨン!? 何故お前がこの世界に居るというのだ!!」

寝起き早々、めいっぱい目を開いて聞いてきた。

「えっと、話せば長くなるんですけど……簡潔に言うと私も契約者だからです」

「契約者……? まさかお前にも悪魔からのささやきのラインが来るのか?」

「えっと、私はラインではなくて実際に会話してしゃっべているのですが……あっ、はい、これダークネス・カイザー様の魔道具でございます」

私はそう言って、彼の持ち物であったスマートフォンを返す。

「これは……我が魔の結晶」

「ごめんなさい! 私その……ダークネス・カイザー様の個人情報を少しだけ見てしまいました! 帰ったあかつきにはどんな罰でも攻めでも耐え抜いて見せます!」

「……………………そうか、暗証番号を突破したのだな。さすがはデイネブリスパピヨンと言ったところか……」

「…………あの~~、怒らないんですか……?」

「何故起こる必要がある。我はこれを一度捨てたのだ。まさか間抜けにも我が観覧車に落としてきた。という話でもしているのではあるまいな」

「捨てたって……? どうしてそんなことを……」

「悪魔と契約してここまで来れたのであろう。ならば契約者ならわかるはずだ、我がどうしてここに来たのかを……」

「えっと食べられるため?」

「――その通りだデイネブリスパピヨンよ。我は願いを叶え、喰われるところだったのだ」

ダークネス・カイザー様は周囲を見渡していた。そして状況を察した。

「この惨状を見るにイビルンはお前の悪魔にやられてしまったようだな。さっきはこの魔の結晶を捨てたと言ったな。違うぞ、あれは我が最後にあの世界に居た証として、故意に置いて来たんだ」

「ダークネス・カイザー様には見えているんですか? あの悪魔たちが……?」

「見えるようになったのはこっちの世界に来てからだ。その口ぶりから察するにお前は人間世界でも悪魔が見えていたということか?」

「はい、ついでに幽霊たちも……」

「ほう、なるほど。それで遊園地に居たときはあんなにはしゃいでいたんだな」

「それは、その通りです(実際に力を使うのは超楽しかったわ)」

「それで! そこの悪魔よ! このデイネブリスパピヨンを食おうという腹積もりでこちらの世界に来たのか!」

突然ダークネス・カイザー様は立ち上がりデビルンと目を合わせた。

「――ちげーし! お前を助けたいって気持ちを尊重してここまで連れて来たんだぜ」

「ふむ、そうか、なるほど状況は大体把握した」

「では、そろそろバナナ遊園地へ帰りましょう皆も心配して探してくれてますし」

私も立ち上がった。

「気持ちはありがたいが、残念だ。そちらの言うことを聞けないのが悪魔と交わした取引だ。今更、契約破棄も出来んし、するつもりもない約束を守って大人しく喰われてやることにしたんだよ」

「そんな! ダークネス・カイザー様このまま人生をお仕舞いにしてしまおうというのですか!?」

「そうだ。何せ我の願いごとは無事イビルンが成就してくれたのだからな」

「願いごと……わかります世界征服ですよね! でもツイート数や遊園地の再園だけでは世界を牛耳ったとはとても言えませんよ……?」

「その口ぶりだと、黒い流れ星を見てデイネブリスパピヨンも何かお願いごとをしたようだな」

「はい……ダークネス・カイザー様はやっぱり世界征服ですよね」

「違う。我の要求した願いはそんな大それたものではない。もっとささやかなことだ」

「えっ……(意外だ。いつもいつも世界征服世界征服と言っていた先輩が違うことを願うなんて……)それは一体なんですか? お願いごと聞かせてください」

「お前の成長だ」

「えっ――私の成長?」

「そう、我とビーブリオテーカはもうすぐ卒業の時期だ。いずれはオカルト研究部から去る。だからその前に我は願ったのだ、あの黒い流れ星に――どうか後輩たちが部を存続できるようになる力をお貸しください――とな」

「たったそれだけですか? それだけの為に命を掛けたのですか」

「そうとも、後続が育たねば次に入ってくる部員たちにも申し訳が立たんだろう。だから――」

「――――――馬鹿!!」

私は思わず叫んでしまった、そのおかげで教会中に大きな声が響き渡る。
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