あほんだら

月夜の晩に

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反省してるつもりの男

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恋人の浮気現場にぶち当たるのは何度やっても慣れない。脇にはべらせている女性のシックなドレスだとか、ボディラインだとか、随分親しげな雰囲気だとか!

この雰囲気、昨日の今日ので知り合った相手じゃないなと察知できるやつだった。

昌也あああ……!!!!

怒りと悲しみでぶるぶると拳を震わせていた時。


昌也が少し姿勢を変えて、遠目にもウッと顔をしかめて脇ばらを押さえたのだ。

それを見て僕はハッとした。そしてずかずかと昌也のところに近づいていった。

「昌也!!こんなところで何してるんだよ!」
「げえっ寧々」

さすがにヒッと青ざめた昌也。
げえって何だこのやろう~!!!!

「昌也!あんた刺されてるんだよ!?刺し傷開いたらどうするんだよ!変な後遺症だって残るかもしれないんだから。浮気なんかやってる場合かあああーーー!!!」

むんず、と昌也の手首を掴み僕は出口へと向かった。

「あっちょっ」
「病院!!!!!!戻るの!!!!」

ブチギレた僕。連行される昌也。そこに後ろからセクシーな甘えた声を掛けた人がいた。

「ちょっとお、昌也ぁ。ここの支払いどうすんのよお。負けちゃってるじゃないあんたぁ」

「悪いコレで何とかしといてえ~」

昌也は財布からクレジットカードを彼女に投げて渡していた。

目眩がする。クレジットカード渡すって……正気か……!!!!

でも一方、渡せるような仲なんだろうなとも思い至ってグサッと胸が痛んだ。

しかしそんな胸中など知らない昌也。


「おい、寧々!」
「ごめん巽、また連絡するから!」

巽にはそれだけ言い残してカジノを出た。






タクシーを捕まえかっ飛ばしてもらい病院へ向かう。

「もう!昌也!!!本当許さないからね!!!」
「ごめん寧々え。でも本当ありがとう~、うっいってええ……!あ、やべ血が滲んできちったハハ……」
「!?すみません運転手さん、急いで!!」

タクシーは更にスピードを上げた。





夜間救急から昌也を病院に押し込んだ。迷惑患者だけど、お願いするしかない。看護師さんにすみませんと頭を下げる。

ドタバタがあった後、個室の病室にて。

ベッドに昌也を寝かし、一安心したもののドッと疲れた。

「はあ……疲れた……」
「いやー本当ごめんな。ありがとう、助かったよ。寧々だけが俺の身を心配してくれたよ」
「え……?」

「カジノに一緒にいた子、いたでしょ?あの子は俺の刺し傷なんか何のその、って感じだったもんなあ。痛いの?ふーん、みたいなさ。つめてえ~ま、仕方ねえか俺みたいなクズには」

「……」

分かってんじゃん、とは言わなかった。どうしてなの?自分をちょっとは律しろよ昌也ぁ……。

「ごめんなあ寧々。手間かけて」
「……」

浮気さえやめてくれれば僕はどんな手間だって気にしないのに。

「やっぱ俺のこと1番分かってくれるのは寧々なんだよなあ。寧々のそういうとこが俺はだいっ好きなんだ」
「…………」

「寧々、こっち向いて。顔あげて」

頬に手を添えてキスされそうになるのを、ふいと避けた。

けど逃げれなかった。強引に両方の手で頬を抑えられてキスされた。

「……俺は寧々がだいすきだよ」

甘く囁く。
こういう雰囲気作りだけは一丁前。ほんとばか
……。



これが僕にだけ見せてくれる顔だったら良かったのに。

でも叶わない。

むしゃくしゃしたようなやるせない気持ちを抱えて席を立つ。

「じゃあね昌也。次脱走したら本当死刑だよ」
「はあい。分かったよ。寧々、また明日も来てくれる?」
「……良いよ」
「やった!待ってる。またりんご剥いてくれよな。あ、やっぱ明日は桃が良いや」


美貌をにこにこ少年の様に笑わせて、昌也は僕に甘えて言った。

「はあ、分かったよ。じゃあね」
「寧々!帰り気をつけろよ。あ、俺の財布から金抜いていきな。帰りのタクシー代」







暗い病院の廊下をとぼとぼと歩く。

タクシー呼ぶって言ってもなあ。この時間じゃあなかなか来ないだろうなあ。歩いて帰れば1時間半くらいかなあ?

うっイヤすぎ……。

はあ、とため息をはいて病院を出た時。

「寧々」
「ヒエッ!!!!!?」

暗がりから声をかけられて心臓が飛び出た。

「巽……」
「電話でねーしメッセージも返信来ねーしこうするしかねーだろうがよ」

今のいままで待っててくれたの!?こんな寒い中!?申し訳なさに身が縮まった。

「ううっごめん巽~!!」
「良いよ。別に俺は良いよ。いーよいーよいーよ別に。寧々はどうしてるのかな?大丈夫かな?って俺が勝手に心配して勝手についてきただけだしな」
「巽い……」


「ほら帰るんだろう?車。用意してあるから」

視線の先には黒塗りの車……。






ブロロと車が走り出す。巽が運転してくれた。

心底ありがたかった。気が抜けてホッとした。

「……で?どう?昌也の様子は。まあ寧々が帰れるってことはどうせ命に別状はないのだろうなあ」

「うん、大丈夫だった。ありがとね」

「あ~あ、人妻の旦那ももっと深く刺せよなぁ。踏み込みがあめーんだよ。おもしろくねえ」

「ちょっとお」
「冗談。悪いね。まあ、良かったじゃん。寧々が泣くとこなんか見たくねえや」

「巽……」

巽の優しさが身に沁みた。

「まあ、でもどうするんだ?昌也のことだ。どうせ病院でもアレコレちょっかい出すんじゃないのか?俺の勘で言うとあいつは新人の看護師ちゃんでも狙うんじゃねえかな。あるいは売店のオネーサンか」

「辞めてよお!!」

充分あり得るのが怖かった。

あっはっはと巽は笑った。

「はあ、まあそれはそれとしてだな。
寧々。ここからは真面目な話だ。

昌也、金の管理あいつズサン過ぎるんじゃないか?オンナと金にだらしないやつは大体本当に破滅するから気をつけろよ」

「だっ大丈夫だよう。流石に。昌也のお家はお金持ちだし……」

ふんと鼻で笑った巽。

「そういうやつが危ね~んだよ、いちばん。坊ちゃんで生まれた時から金に苦労せず、でもだらしいないあほんだら。あいつは金を溶かすぜ。

まあ、あいつが借金まみれになってくれても俺は構わないが。
金の取り立てなら容赦しないで済むしな」


借金取りでヤクザの彼の本領を一瞬覗かせた巽に、僕は少しゾクとした。

だけど僕はギュッと手のひらを握って答えた。


「それでも、僕は昌也をなんとかする……!」
「!はは、寧々。借金取りを甘く見てんだろう。俺たちは地獄の底まで集金に伺うけどね」

ぎらりと先を見つめた巽。

でも……でも……!

「でもっ僕は昌也をほっとりたりしない!そんなんなったら、僕がなんとかする!」

「……なんとかって、どうするんだよ」

「昌也ビンタしても、えっと借金取りの人に土下座してもっなんとか……なんとかするっ!」

「!」

運転しながら僕を二度見してきた巽。その形のいい唇が何か囁きかけたけど、言葉にはならなかった。

こいつアホだなあと思われちゃったのかな。ううううう……。

どうせ僕もあほんだらですよっ……。






「じゃあまたな。また飯いこうな」

僕の家の前について、車を停めた巽。

「巽、今日は本当色々ありがとうね」
「いいよ。……あ?おい、寧々」

車内のオレンジのライトの下、じっと見つめられて少したじろぐ。

「なっなに?」
「……口紅ついてる」
「え!!?やだやだそれ早く言ってよ!」

ごしごしと唇を拭う。うわ~昌也の浮気相手のやつ!?確かに派手にリップだったしあの子!

巽に『うわコイツ昌也とキスしてきてる~』って思われてたのかな!?超恥ずかしい!死にたい!!

それを見て巽は苦笑した。

「寧々はホントに素直だなあ~。別に何もついてないよ。でもその反応すると、昌也となんだかんだとちゅっちゅちゅっちゅしてきました、って吐いてるようなモンだぞ」

「うぐ……!」

さすが借金取りだ(?)。

「いや、その、これは違くて、別に合意だったわけじゃなくてちがくて」

謎にアタフタしてしまった僕。

「別に良いけどお~恋人たちは楽しくって良いですねえ~~ほらほら、車降りた!またな寧々。風邪引くなよそんじゃな」

僕を降ろしてびゅうんと去っていった車。
なんか最後の方結構矢継ぎ早だったような……?

まあ良いか。巽も早く家に帰りたかったのかもしれない。付き合わせちゃったなあ。





◾️◾️◾️


道を曲がり、寧々がバックミラーから消えてしばらくして巽は車を停めた。

ダン!と運転席に拳をぶつけた。

やり場のない敗北感だった。



昌也が借金だらけになれば、さすがの寧々も愛想つかして昌也から離れるかもと期待してさっきはあんな話をふっかけてみたのだが。

あの様子では本当に昌也が借金を負ったところで絆が強固になるばかりな気がする。借金付きの男なんか普通はさっさと捨てるだろうに。昌也の金目当ての女達だったら潮が引くようにいなくなるだろう。

……でもそんな昌也であっても寧々は捨てたりはしないと言った。浮気されて既に散々な目に遭っているのに。



どうにか寧々を昌也から引き離す方法はないんだろうかと、巽は今日もひとり悶々と思い悩んでいる。



寧々にもう泣いて欲しくなかった。







続く
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