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稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった
9.冒険者ギルドの定番イベント
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凄い役者がいたものだと、俺は感心した。のじゃロリとリセは、慌てふためいているが、俺には分かっていた。ズタボロにされたフロア。足の壊れたテーブル。どっからどう見ても暴力事件がありましたと主張しているような冒険者ギルド内部。そして真ん中で死んでいるように倒れている、一人の女。赤い血のようなものを吐き出して、苦しそうにうめき声を出している。
隣でその女性を支える一人の男。そしてもう一人、ガタイのいい男が仁王立ちしていた。
「この悪魔め、罪のない人を傷つけて、成敗してやるっ!」
いや、無理があるだろう。
俺たちは、普通に冒険者ギルドに訪れた。いきなり異世界に転移させられて、洞窟の中に放り投げられて、生活するための金もない。ちょっとハードな設定過ぎません? とか思っちゃうわけだけど、ある程度リセに教えてもらって何とかなっている。
この冒険者という、害獣駆除組合に所属すれば、その日を暮す程度のお金は稼げると聞いたので来てみれば、扉を開けただけでこの状況。意味が分からない。
というか、今来た俺たちが犯人なわけないだろう。ちょっと考えればすぐにわかる。
ガタイのいい男は、マジで俺たちを犯人だと思っているらしく、武器を構えてこちらに向かってきた。
俺は慌てるのじゃロリにこういう。
「とりあえずあいつをぶっ飛ばそう」
『儂は両刃なのじゃ。切ったら死ぬのじゃ』
「お前どう見ても片刃だろうっ! え、どういうこと?」
『その辺は、そういう仕様だと思ってくれればいいのじゃ』
「そういう仕様って……」
「ちょちょ、何二人で喋ってんのよ。あいつが来るよぅ。私、回復関連は一流以上に使えるけど、他は全然ダメなのっ、ぎゃー、こっち来るっ。諸刃っ。女神な私を助けなさいっ」
お前、戦えないのにあの洞窟に来てたんだな。どんだけ無謀なんだよ。
…………あー、そうか。あの性格だもんな。魔物にすら避けられるってないな。
「ぎゃー、こっち来るんですけどっ どうしようっ、もろはー」
「っち、しょうがねえな」
俺は刀を抜かずに構えた。鞘に入れておけば、とりあえず相手を殺すことはないだろう。俺はのじゃロリのことをいまだに片刃だと思っているが、本当に両刃なのだろうか。だって刀だぞ?
「なめやがって、死ねっ」
大きな武器、あれは……槌か。あの肉体だもんな、なんて考えながら、腕を十字にするように構え、ぐっと力を溜める。
のじゃロリで横薙ぎをするような動きに、もう片方の腕で押し出す力を加えた斬撃は、普通に振られた斬撃より、圧倒的に早く、力強い一撃となる。
「鬼月流火の型一式、劫火斬っ」
のじゃロリの性能なら、相手の腕を簡単に切り落としてしまうだろう。だが、のじゃロリは鞘の中。相手の腕を攻撃して、槌を落とさせれば、俺の勝ちっ、そう思って狙い、思惑通り相手ははじかれた勢いのまま後ろに倒れてしまった。ってちょっと、受け身は? 思いっきり頭を打ったみたいなんだけど。
「いでぇよ、かーちゃーん」
「…………は?」
「ぶえええええええん」
巨漢の男が、かーちゃんとか言いながら泣きわめくって、なんじゃそりゃ。しかも一撃与えただけでここまでなるか。ちょっと頭痛くなってきた。
周りの冒険者は、なぜかうれしそうな顔をしていた。
「よかったね、諸刃。みんなにすごく歓迎されてるよ?」
「は? 何が歓迎されてるって」
「周りの皆を見てごらんよ、すごいルーキーが来たって喜んでる」
周りを見ると、なぜか顔を逸らされて、下手くそな口笛を吹かれた。絶対にリセの勘違いだと強く感じた。だって、本当に俺たちを歓迎しているのなら、そんな胡散臭い顔でこっち見ないだろう。
とりあえず、泣きわめく巨漢にもう一撃入れてやると気絶した。かーちゃん、かーちゃん、うるせぇ。
するとどうだろうか。周りからひそひそと声が聞こえてくるようになった。
「やべーよ、鬼子だ。こえぇ」
「ちょっとからかっただけじゃねえか。なのにあの仕打ち、きっと悪魔だね」
「悪魔だとしたら、きっとインキュバスだね。僕掘られたいな」
悪魔とか鬼子とか訳の分かんないことを。最後に言ったやつ、絶対に見つけて距離を取ろう。なぜだか身の危険を感じる。
「粛に、これはいったい何の騒ぎだ」
奥からドスの効いた甲高い声が聞こえた。正直、何を言っているのか俺も分からない。けどそう表現するしかないような、不思議なこえが聞こえてくる。
「諸刃、やばいよ。ギルドマスターだ」
「ギルドマスターって、何がやばいんだよ」
「あわわわわわわ」
『リセが使い物にならんので儂が説明してやるのじゃ』
「のじゃロリ、たまには役に立つじゃん。んで、ギルドマスターって?」
『ギルドマスターはここの長、以上、なのじゃ』
「いや、そんなの分かってんだよ。そうじゃなくて、リセが怯える程のやつなんだからどんな奴か知りたいんだよ」
『そんなこと言われても知らんのじゃ。だってここくるの初めてじゃからのう』
俺は無言でのじゃロリに塩を振った。のじゃロリから『錆びるのじゃぁぁぁぁ』なんて声が聞こえて来たが、無視する。そもそも塩振ったぐらいで、鬼伐刀は錆びたりしない。そういうものなんだからな。
「ほう、刀に塩を。その行動にどんな意味があるのか分からんが、なかなか面白いことをする奴が現れたものだ」
現れたのは、鬼のように膨らんだ筋肉を持つ巨漢だった。ただし、恰好は、その、なんというか個性的だった。
淡い青色をメインにした、ふわふわのドレス。かわいさよりも、清楚さ、美しさを表現しているように見えた。だけど着てる奴がなー、ひげもじゃだもんなー。
「ところでリセ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
ギルドマスターに声をかけられて、リセは背筋を伸ばす。そんなに怖いのか、このひげもじゃ。
「ゴブリンは退治できたか」
「で、できました、諸刃がゴブリンキングを退治しましたです、さー」
「ほう、この男が……」
ギルドマスターにじろりとみられる。背筋がぞっとした。俺は、このギルドマスターのようなムキムキタイプの鬼と何度も戦ったことがある。そいつらと戦っている時でさえ、こんな背筋が凍るような目で見られたことがない。別の意味で危機を感じる。
「だがこの男はまだ冒険者じゃない。お前が討伐したものは?」
「…………討伐出来てません」
「討伐失敗の違約金」
「………………はいぃ」
リセは涙目になりながら、懐から財布を取り出し、お金を払っていた。なるほど、依頼に失敗すると、違約金を払わなければいけないのか。失敗例が目の前にいると勉強になるな。
受付で泣いているリセを見ていると、肩をたたかれた。ふと後ろを向くと、ギルドマスターが俺の近くにいて、思わず声を上げそうになる。
「君が、あの子を助けてくれたのか?」
「まあ、成り行きで」
「あの性格だ、少々付き合いづらいかもしれないが、あいつも好きでああなったわけじゃない。容姿だけはいいから、パーティーを組んでもすぐにトラブルが起きて解散するようなことばかりだったんだ。多少人間不信になりかけているところはあるが、君にはなついているように見える」
「なついているって……あいつは動物か何かですか」
「はっはっはっ、なかなか面白いたとえをするね、君。まあなんだ、あいつのこと、よろしく頼むよ。回復魔法しか使えんし、見栄はって一人でやっているがいつも寂しそうにしている奴なんだ」
「あいよ」
まあ、あいつの性格に難があるのは知っているし、かといってこのまま見捨てるのもな。パーティー組むって言っちゃったし、最後まで面倒見るよ、そう心の中で思ったが、口に出さなかった。それを口に出すのは、なんだか照れ臭いような気がしたから。ただ、ギルドマスターにすら心配されるあいつのことを、しっかりと面倒見てやろうと、そう思った。
『のじゃあああああ、錆びる、さびるのじゃあああああ』
…………すべてが台無しだ。
隣でその女性を支える一人の男。そしてもう一人、ガタイのいい男が仁王立ちしていた。
「この悪魔め、罪のない人を傷つけて、成敗してやるっ!」
いや、無理があるだろう。
俺たちは、普通に冒険者ギルドに訪れた。いきなり異世界に転移させられて、洞窟の中に放り投げられて、生活するための金もない。ちょっとハードな設定過ぎません? とか思っちゃうわけだけど、ある程度リセに教えてもらって何とかなっている。
この冒険者という、害獣駆除組合に所属すれば、その日を暮す程度のお金は稼げると聞いたので来てみれば、扉を開けただけでこの状況。意味が分からない。
というか、今来た俺たちが犯人なわけないだろう。ちょっと考えればすぐにわかる。
ガタイのいい男は、マジで俺たちを犯人だと思っているらしく、武器を構えてこちらに向かってきた。
俺は慌てるのじゃロリにこういう。
「とりあえずあいつをぶっ飛ばそう」
『儂は両刃なのじゃ。切ったら死ぬのじゃ』
「お前どう見ても片刃だろうっ! え、どういうこと?」
『その辺は、そういう仕様だと思ってくれればいいのじゃ』
「そういう仕様って……」
「ちょちょ、何二人で喋ってんのよ。あいつが来るよぅ。私、回復関連は一流以上に使えるけど、他は全然ダメなのっ、ぎゃー、こっち来るっ。諸刃っ。女神な私を助けなさいっ」
お前、戦えないのにあの洞窟に来てたんだな。どんだけ無謀なんだよ。
…………あー、そうか。あの性格だもんな。魔物にすら避けられるってないな。
「ぎゃー、こっち来るんですけどっ どうしようっ、もろはー」
「っち、しょうがねえな」
俺は刀を抜かずに構えた。鞘に入れておけば、とりあえず相手を殺すことはないだろう。俺はのじゃロリのことをいまだに片刃だと思っているが、本当に両刃なのだろうか。だって刀だぞ?
「なめやがって、死ねっ」
大きな武器、あれは……槌か。あの肉体だもんな、なんて考えながら、腕を十字にするように構え、ぐっと力を溜める。
のじゃロリで横薙ぎをするような動きに、もう片方の腕で押し出す力を加えた斬撃は、普通に振られた斬撃より、圧倒的に早く、力強い一撃となる。
「鬼月流火の型一式、劫火斬っ」
のじゃロリの性能なら、相手の腕を簡単に切り落としてしまうだろう。だが、のじゃロリは鞘の中。相手の腕を攻撃して、槌を落とさせれば、俺の勝ちっ、そう思って狙い、思惑通り相手ははじかれた勢いのまま後ろに倒れてしまった。ってちょっと、受け身は? 思いっきり頭を打ったみたいなんだけど。
「いでぇよ、かーちゃーん」
「…………は?」
「ぶえええええええん」
巨漢の男が、かーちゃんとか言いながら泣きわめくって、なんじゃそりゃ。しかも一撃与えただけでここまでなるか。ちょっと頭痛くなってきた。
周りの冒険者は、なぜかうれしそうな顔をしていた。
「よかったね、諸刃。みんなにすごく歓迎されてるよ?」
「は? 何が歓迎されてるって」
「周りの皆を見てごらんよ、すごいルーキーが来たって喜んでる」
周りを見ると、なぜか顔を逸らされて、下手くそな口笛を吹かれた。絶対にリセの勘違いだと強く感じた。だって、本当に俺たちを歓迎しているのなら、そんな胡散臭い顔でこっち見ないだろう。
とりあえず、泣きわめく巨漢にもう一撃入れてやると気絶した。かーちゃん、かーちゃん、うるせぇ。
するとどうだろうか。周りからひそひそと声が聞こえてくるようになった。
「やべーよ、鬼子だ。こえぇ」
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「諸刃、やばいよ。ギルドマスターだ」
「ギルドマスターって、何がやばいんだよ」
「あわわわわわわ」
『リセが使い物にならんので儂が説明してやるのじゃ』
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『ギルドマスターはここの長、以上、なのじゃ』
「いや、そんなの分かってんだよ。そうじゃなくて、リセが怯える程のやつなんだからどんな奴か知りたいんだよ」
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「ほう、刀に塩を。その行動にどんな意味があるのか分からんが、なかなか面白いことをする奴が現れたものだ」
現れたのは、鬼のように膨らんだ筋肉を持つ巨漢だった。ただし、恰好は、その、なんというか個性的だった。
淡い青色をメインにした、ふわふわのドレス。かわいさよりも、清楚さ、美しさを表現しているように見えた。だけど着てる奴がなー、ひげもじゃだもんなー。
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「ひゃ、ひゃいっ!」
ギルドマスターに声をかけられて、リセは背筋を伸ばす。そんなに怖いのか、このひげもじゃ。
「ゴブリンは退治できたか」
「で、できました、諸刃がゴブリンキングを退治しましたです、さー」
「ほう、この男が……」
ギルドマスターにじろりとみられる。背筋がぞっとした。俺は、このギルドマスターのようなムキムキタイプの鬼と何度も戦ったことがある。そいつらと戦っている時でさえ、こんな背筋が凍るような目で見られたことがない。別の意味で危機を感じる。
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「…………討伐出来てません」
「討伐失敗の違約金」
「………………はいぃ」
リセは涙目になりながら、懐から財布を取り出し、お金を払っていた。なるほど、依頼に失敗すると、違約金を払わなければいけないのか。失敗例が目の前にいると勉強になるな。
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「君が、あの子を助けてくれたのか?」
「まあ、成り行きで」
「あの性格だ、少々付き合いづらいかもしれないが、あいつも好きでああなったわけじゃない。容姿だけはいいから、パーティーを組んでもすぐにトラブルが起きて解散するようなことばかりだったんだ。多少人間不信になりかけているところはあるが、君にはなついているように見える」
「なついているって……あいつは動物か何かですか」
「はっはっはっ、なかなか面白いたとえをするね、君。まあなんだ、あいつのこと、よろしく頼むよ。回復魔法しか使えんし、見栄はって一人でやっているがいつも寂しそうにしている奴なんだ」
「あいよ」
まあ、あいつの性格に難があるのは知っているし、かといってこのまま見捨てるのもな。パーティー組むって言っちゃったし、最後まで面倒見るよ、そう心の中で思ったが、口に出さなかった。それを口に出すのは、なんだか照れ臭いような気がしたから。ただ、ギルドマスターにすら心配されるあいつのことを、しっかりと面倒見てやろうと、そう思った。
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