稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

10.夜の密会

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『のじゃ、諸刃よ。こんな夜にどこに行く気なのじゃっ』

「お前、知っていて言ってるだろう」

 そっとベッドの横に立てかけられたのじゃロリが不満げに言う。俺は適当に返答しつつ部屋を出ようとした。

『だから待つのじゃ! 儂を置いてどこに行く気なのじゃっ』

「どこって、これだよ」

 俺はメイドのゼイゴさんから受け取った手紙を取り出す。昼間の話し合いの時にこっそりポケットにいれられた奴だ。
 そこには、今夜、シンシア達と話をした部屋に来てほしいと書かれている。そこで彼女は本当の依頼を教えてくれるのだという。

 本当の依頼とは何なのか。大体予想はできる。それでも話を聞かないと分からないので俺は手紙を確認してから昼間に集まった部屋に向かおうとした。
 そしてよく見ると小さくこんなことが書かれていた。

 一人で来てください。決して、他の人を連れてこないでください。あの人たちは、話をややこしくさせます、めんどくさい。

 この文はあの場にいる時にしか書けない。がやがやしている中でこれを書くってすごいなと思いながら手紙を読んだ。
 そして俺はのじゃロリをそっとベットの横に立てかけたのだ。

 手紙には一人で来いと書かれている。つまり、のじゃロリすら置いていけってことだよな。
 幸いにも、俺は無手でも戦える。鬼月流は剣術だけじゃない。対鬼用に考えられた体術もしっかりある。むしろ体術をある程度できるようになってから剣の修行が始まるからな。そんじょそこらの鬼に負ける程やわな鍛え方はしていない。

「という訳で行ってくる」

『という訳ってどういうわけなのじゃ。なんで儂も連れて行ってくれんのじゃ! 寂しいのじゃっ!』

 いや刀に寂しいって言われたってなー……。
 別にうれしくとも何ともない。のじゃロリは喚くが、俺は連れて行く気なんて元からなかったので、そのまま置いていった。


 ◇◆◇◆◇◆


 真夜中の学園ほど不気味なものはない。
 薄暗い廊下、外から入ってくる月の明かり以外に光源はない。妙な静けさが人の恐怖心を刺激する。

 鬼が好みそうな場所だけど、ぶっちゃけこの学園に鬼はいない。何せ貴族の学園だからな!

 肝試し感覚なのに結構本格的な怖さを感じてしまい、周りを警戒しながら俺は待ち合わせ場所にたどり着いた。

 扉の前に立つと、弱いけど明かりが漏れている。多分部屋の明かり出はないのだろう。

 ノックをして扉を開ける。まず目に入ってきたのはテーブルの真ん中に置かれたロウソクだった。

 魔法という技術が発展している。その魔法の光は夜を照らす。だからこんな薄暗いロウソクの明かりじゃなくて光魔法を使えばいいのにと思ってしまった。

「ようこそおいでくださいました。薄暗い場所で申し訳ありません。予約が取れなかったので、セキュリティを解除して勝手にしています。そのためこの部屋に設置された明かりが使用できず、代わりにロウソクで……。はっ! 薄暗い会議室で男女二人、私に何かしようとしても心までは奪われませんからねっ!」

「おい、何言ってんだこいつ?」

 思わず素で言ってしまった。マジで何を言ってるんだろう。予約をとれなかったのはまあいいだろう。そういうときだってある。だからってセキュリティを解除して薄暗い環境を用意して、「私、あなたに襲われても負けないわ」みたいな宣言されても困るだけだ。ここにのじゃロリやリセたちがいたら、それはそれは騒がしいことになっただろうな。

「襲うつもりもない。めんどくさい」

「まあそうですよね。あんな美人に囲まれてイチャコラしてたら私なんかに興味ありませんよね。はぁ、早く結婚してこんな職場辞めたい。ねえあなた。私をもらってください。夜のお供から夜のお供までしっぽり対応しますから。それ以外は私の自由と言うことで」

「嫌だよそんな関係。愛もないもないじゃないか。というかさっさと本題に入ろう。なんかお前と二人っきりでいると身の危険を感じる」

「まあ、お前だなんて……照れるわ」

「照れんなよ、怖いわっ」

 なんだこのメイド。普通に放しているだけで調子が悪くなってくるような感じがする。

「私達からの本当の依頼は、お嬢様のことを見て、ヤバそうなことをしたら止めてほしいのです」

「唐突だな、オイ」

 凄いひどいタイミングでいきなり本題に入ったぞ、こいつ。

「ある日を堺にお嬢様は変わられました。自ら破滅へ向かうべく行動をとろうとするなど、普通ではありません。洗脳魔法の疑いもあり、検査を行ったのですが特に異常は見られず……。あんなにかわいいお嬢様が悪役を演じようとして……ぶふぅ」

 ゼイゴはいきなり顔を抑えて苦しそうな顔をする。手の隙間からぽたりと血のようなものが見えた。

「おい、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫です。お嬢様が可愛すぎて鼻血が……」

「少し心配した俺が馬鹿だったわ」

 この女、頭大丈夫だろうかと、少しだけ心配してしまった。自分の主人に対して可愛いと思うのはまあいいだろう。漫画でもそう言った表現はあった。でも鼻血はやり過ぎだろうと思う。一部の小説とか漫画にそう言った表現はあったが、リアルではないだろうと思っていたけど、まさか目の前で起こるとは……人生何があるのか分からないな。

「とにかく、うちのお嬢様は自ら破滅しようとしているのです。神の声、というのが何なのか、我々にはわかりません。本当に神様の声を聴いて、お嬢様が自ら破滅するようにと言ったのかもしれませんが、そんな理不尽、私達は認めていません。どうかお願いします。お嬢様を助けてください」

「いや、助けてと言われても……」

 正直、助けてと言われても困る。俺の知らないところで彼女にお告げがあった。彼女はそのお告げに従って悪役令嬢と言うものになろうとしている。ぶっちゃけバカバカしい話だが、問題は本人がいたって真面目で、それに取り組もうとしていること。
 当然家のものは心配する。シンシアのお世話係であるゼイゴも心配するぐらいだからな。

「うぇ~~い。お嬢様の写真でお酒ががぶがぶ飲めるぜぇ」

 こいつ本当に心配しているのだろうか。シンシアに対して異常な執着があるのはなんとなく伝わってくるのだが、こう、変態じみた何かを強く感じてしまい、こいつの本心はよく分からない。まあ、こいつのことはどうでもいいか。

「まあ要するに、お嬢様が下手なことしないように見張っておいて、何かやらかしそうになったら止めて、やばそうな展開になったら助ければいいんだな」

 自分で言ってちょっと恥ずかしくなった。何だろう、この語彙力のなさ。こんなんでちゃんと伝わるのだろうかと思っていたら、ゼイゴは「うんうん、大体あってる」と肯定してくれた。このメイド、本当に適当過ぎやしないかな?

「私達の大事なお嬢様。彼女はまじめでかわいくて、天然入っていておっちょこちょいで小動物のように可愛らしく、まるで天使みたいな人なんです。そんな人が不幸なっていいはずがないっ!」

「言ってる言葉はちょっとだけかっこいいなって思ったけど、鼻血垂れ流しながら息を荒げて言っても説得力ないな、このまま憲兵に突き出してやろうか、この変質者っ」

「望むところです。ことお嬢様に関しては譲れないものがあります。それは、お嬢様に対するこの気持ち! 私はお嬢様を愛している。心の奥底から愛しているのです。だから仕事辞めたい。そして私は一人の女としてお嬢様の隣を歩くのです」

 まずはこいつをどうにかしないといけないと思った。でも大体やらなきゃいけないことは分かったし、まあいいだろう。

「あ、ちなみに期限は3か月後に行われるパーティーまでです。お嬢様が言うにはそこで最終イベント、婚約破棄が訪れて破滅するのだとか。是非ともそれを阻止してください。絶対ですよ」

「まあ、それぐらいなら任せておけ」

 飛鳥のおかげで悪役令嬢もののラノベは色々と読んだ。予習は出来ている。
 俺は、いや俺たちは、なんとしてもシンシアの破滅エンドを回避させてやる。
 そして、もう一度お店を立て直すんだっ!
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