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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

11.なんか疑われてるんですが!?

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 ゼイゴとの話はとりあえず終わった。
 俺はまっすぐ自分の部屋に帰る。部屋にはのじゃロリしかいないはずだが、出る前にあれだけ騒がれたのだ。きっと小言ぐらい言われるだろう程度しか考えていなかった。

 俺は馬鹿だった。あいつを一人? 一本残して部屋を出て、何も起こらないはずがなかったんだ。

「ちょっと諸刃、どこに行っていたのよっ」

「そうですよ主殿。夜這いですか? 夜這いなら私のところに来ればいいのにっ!」

 部屋の扉を開けると、そこにはいないはずのリセとイリーナがいた。その近くにはのじゃロリがいて『ひょほほほほほ』と笑っている。あの笑い方が神経を逆なでしてイラっとさせてくる。なんかすごくムカつく。

 それよりものじゃロリのせいでまた修羅場が復活してしまった。あのロリコン騒ぎでも大変なのに仕事初日、いやまだ仕事していないから初日とは言わないか。ともかく、仕事のために学園に来たのに初っ端から面倒ごとを起こしてほしくない。
 なのにどうしてこう、これから修羅場な展開になりますよ的な状態になっている。これっておかしくないか? 俺何もしてないのにっ!

『のう諸刃よ。儂をなめておらんか?』

「なんだよのじゃロリ。一体どういうことだ」

『儂を一人にするからこうなるのじゃ。お主が始解を一度で使ってくれたおかげで、儂は、儂は……離れた部屋にいるリセを呼べるぐらいになったのじゃっ!』

「てめぇ、俺がいなくなった後にこいつらを呼んで余計なことを吹き込みやがったなっ」

『にょほほおほほほ、当たり前なのじゃ。儂を連れて行かん諸刃なんて修羅場になってしまえばいいのじゃっ!』

 このクソ刀、いつか鍛冶屋で包丁に作り直してもらおう。自我がなくなるほど徹底的にな、くそ野郎っ。

 俺はイライラしながらリセとイリーナの前に目の前に立つ。そして……。

「俺は無罪だ、何もやってないっ」

 無実だと言い張った。だけどそれが悪かったのか、イリーナとリセの表情が暗くなる。

「そう、そんなこと言うなんて、やましいことがあるのね」

「私は主殿を信じています。出所したら……一から一緒にやり直しましょう」

「だから何もやってねぇって。というか出所って……それいっさい俺のこと信じてないってことだよなっ!」

 まさかの犯罪者扱い。俺本当に何もしてないのにこの扱いおかしくないかな?
 俺がやったことと言えば、依頼内容を聞いたこととゼイゴからお嬢様可愛いという話を聞かされたことと、あいつの鼻血で汚れた部屋を掃除したぐらいだ。ちゃんと部屋を出る時に確認した、問題はない。
 これのどこにやましいところがある。俺は別に変なことをしていないじゃないか。
 だから俺は素直に言う。きっとちゃんと話せば俺の言葉がちゃんと届いてくれるはずっ。だから、俺は誠意を込めて言ってやった。

「俺は何もやってない。本当に無実なんだっ」

「「それを言うのは犯罪者だけよ」」

 うぐ、確かに、言われるとそんな気がする。何も説明してないのに「俺は無実だ」しか言わないなんてやましいことがあると言っているようなものじゃないか。

 今は言えないけど、本当におれは無実なんだ? は? 馬鹿じゃないの。その言えないことのせいで疑われているのに……というのが今の俺の状態。こりゃ疑われても仕方がない。別にやましいことはないので、俺はちゃんと一から丁寧に説明した。



 一通りイリーナとリセに説明した。俺がちゃんと説明すると言って話始めたら素直に聞いてくれたので助かった。もし聞いてくれなかったら……とってもめんどくさいことになっていたかもしれない。
 仲間との信頼が再確認できて、素直にうれしいという気持ちが込み上げる。
 仲間とは、良いものだな。

『騙されるでないぞ。そいつは嘘を言っているのじゃっ。儂にはわかる。儂はそいつの刀じゃっ! 諸刃からは、女と乳繰り合った気配がするのじゃ。口では言えないような、超ハードな乳繰り合いをしたに決まっているのじゃっ!』

 信頼を確認したと同時に、のじゃロリの精一杯嫌がらせをしてやろうという気持ちを感じ取れた気がした。
 刀だから、表情こそ分からないが、もし人間だったらすげぇうざそうな顔をしているに決まっている。声からしてそうだ。人を馬鹿にしたような風の声を出しやがって。むかつく刀だ。

『のじゃ、諸刃は儂をおいて行きよったのだぞ。やましいことがあるに決まっておるではないか。どうして信じてくれないのじゃっ』

 のじゃロリのことを冷めた目で見つめるリセとイリーナ。のじゃロリは必死に説得しているみたいだが、イリーナとリセは俺のことを信じてくれたようで、のじゃロリの言葉をつんと無視する。のじゃロリは全く話が通じない現状に絶望的な表情を浮かべた。
 いや、刀だから表情なんて分からないんだけどさ。こう、雰囲気的に絶望してるように見える。きっと絶望しているに違いない、絶望……。

『のじゃ、どうしてじゃ、どうして誰も信じてくれないのじゃ……』

「のじゃロリ、お前…………」

『諸刃……かなしいのぅ。誰も信じてくれないこの状況』

「いや、お前嘘しか言ってないじゃん。そりゃ誰も信じないって」

 そうなのだ。こいつは、嘘とかデタラメしか言っていない。まるでオオカミ少年のように、口を開けば嘘が出る。
 いや、嘘と言うより、思い込んだことをそのまま口に出しているみたいな感じかする。
 もうリセものイリーナも、冷めた目でしか見ていない。
 ああ、あいつはいつもこんな光景を見ていたのかと思うと、少しイラっとした。
 だってそうだろう。人が疑われてつらい目に遭っている時に、近くにいてニタニタと笑っていたんだぜ。むかつく。マジでムカつく。

 とはいっても、刀に怒っても仕方のないことだ。俺はのじゃロリを怒ることについてあきらめた。あとでアレであいつの嫌いな魚でも捌こう。

『どうしてなのじゃ。お願いだから話を聞いてほしいのじゃッ』

 ちなみに、こいつだけが知らない事実がある。のじゃロリはイリーナとリセから語られる事実が語られた。

「ねえのじゃロリ。なんで諸刃が言っていたことと違うことばかり言うの?」

「そうなのです。よく分からないけど、なんで嘘ばっかり言うのですか? 主殿が可哀そうじゃないですか」

『のじゃっ! どういうことなのじゃっ!』

「「だって事前に説明してもらったし……」」

『のじゃっ! 何がじゃ、どういうことなのじゃ』

 いや、単に話を聞きに行くことをリセとイリーナにも説明しておいただけだ。事前に説明して、二人には納得してもらっている。話して納得しなかったのはのじゃロリだけだ。こいつの性格は歪んでいるように思えるが、まさかここまで大ごとにしようとしていたとは思ってもいなかった。

「それにしても、リセとイリーナ。お前らにはちゃんと話していたのになんで最初俺のこと疑ったんだよ」

「のじゃロリが悪いのっ! 幼女に悪戯しに行くなんていうから」

 こいつ、そんなこと言ってやがったのか……。

「そうです主殿。すべてはのじゃロリが悪いんです。かわいいお姉さんのいるお店に行って足をすりすりしに行ったなんて言うから」

 ……こいつぅ。

『すべては諸刃がかまってくれないのがいけないのじゃ。どうしてじゃ。どうしていつも包丁として扱うのじゃ。儂は鬼を切る刀じゃぞ。なのに毎回魚魚魚。もうこんな扱いはうんざりなのじゃあ』

「いや、刃物なんだから魚捌いて当たり前だろう。というか、鬼なんて怪物を切るより魚を捌ける方がありがたいと思えよ」

『そんなの理不尽なのじゃっ!』

「いや、理不尽でもないだろう。鬼を切らないで魚を捌いているということは、それだけ平和だってことなんだからな」

『じゃがしかし……』

 イリーナもリセもじっとこっちを見ている。もとはといえば俺がのじゃロリを適当に扱っていたことが原因ぽいしな……。

「しょうがない。じゃあお前で魚を捌くか……」

『のじゃ……嫌なのじゃ、それは……嫌なのじゃ』

「そのあとに……お前の手入れをしてやる」

『のじゃ?』

「お前にはいつも世話になってるからな。今日は徹底的にやってやるから覚悟しろ」

『のじゃあああああああああ、やったのじゃああああああああああ』

 無邪気に喜ぶロリ声が響く。このぐらいで喜ぶなんて、こいつちょろいなと思ったのは内緒だ。
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