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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!
17.怖い衣装と女の意地?
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逃げるための訓練については、後日やるということにして、シンシアには基礎の魔法訓練や体力面での訓練の面倒を見て、その日の授業は終了した。
怖がらせるための衣装なんて思い付きで考えたものだったから、すぐに準備することが出来なかったのだ。行き当たりばったりなせいで、準備を怠ってしまった自分を少しだけ恥じた。
そしてその日の夜、イリーナとリセに衣装を準備してもらった。ものすごいものが来た。ものすっごいものが来た。大事なことなのでもう一度言おう。ものすっごいのが来たのだ。
これはちょっと……人が大泣きするどころか恐怖で気を失うようなリアルなデザインだった。特にリセの持ってきた衣装がやばい。
「ねえ諸刃、これ、すごくかわいいと思わない? 私はかわいいと思うんだけど、皆泣くの。そして私のそばから去っていく……」
「いや、その、な。かわいいかコレ?」
『さすがの儂もこれはないと思うのじゃ……」
「あばばばばば」
イリーナに至っては、恐怖のあまり泡拭いて気絶していた。命に別状はなかったのだが、人によってはここまでの恐怖を与える衣装なのだ。ちなみに、イリーナが持ってきてくれた衣装は、まだ作りものっぽい感じのある、鬼のような衣装だった。
何に使うのか訊いたら、豆まきだそうだ。ゴブリンって一応小鬼……だよな? 鬼が鬼を払うって、なんだそれ?
不思議な文化が残っているゴブリン帝国について今考えるべきことじゃないので忘れておこう。
とにかく、俺たちはリセが用意した衣装を採用することにしたのだ。これが正解かどうかは分からない。だけど一つだけわかっていることがある。
それは、確実にシンシアが泣く、ということだ。
◇◆◇◆◇◆
「ぴぎゃああああああああああああああああああああ」
シンシアは奇怪な声を上げて全力で逃げた。その場にほかの子息ご令嬢がいるというのに、そんなことお構いなしに逃げて叫んで、魔法を打ち込んでくる。
高度な訓練を行わなきゃ、移動しながら魔法なんて使えないと言っていたシンシアが、移動しながら魔法を使っている。人間、極限状態になるといろんなことができるようになるらしい。
とりあえず俺は……。
「わりぃ子はいねぇかぁ!」
シンシアを全力で追いかけることにした。時にはのじゃロリを使い、すべての魔法を切り裂く。
「何! 新手の魔物っ!」
飛鳥がやって来て、今の惨状に驚生き、刀を構える。だけど飛鳥のそばにイリーナとリセが近づいて、ちゃんと説明してくれているみたいだ。
「大丈夫、あれは諸刃よ。怖い恰好をして幼女を追いかけているの」
オイ、リセの野郎、何誤解されるようなことを言ってやがる。
「大丈夫ですよ。アレも修行の一環です。あの怖い恰好は……そう、シチュエーション作り! 魔物に実際に襲われたシーンを想定して訓練をしているのです! ガクブル……」
震えて、こちらを見ないようにしているイリーナがいいことを言ってくれた。そうだよ。シチュエーション作りみたいなものだ。決して、怖い恰好をして女の子を追いかけまわしたいとか、そんなこと思っていない。
「ぴぎゃあああああああああああああああ」
「あ、ちょ、ま、落ち着け!」
「ごわいいいいいいいいいいい」
お嬢様っぽさのかけらもなくなって、必死に逃げる。シンシアはすでにキャラ崩壊しているように見えた。ここまで怖がらせるつもりはなかったが、リセから借りた衣装の破壊力が強すぎたせいでこうなってしまった。
つまり、すべてリセが悪い。
「あんな化け物の衣装を使って悪役を演じるなんて、やるわね……」
「あーあー、あんなにかわいい衣装なのに、なんで皆嫌がるんだろう? あのきゅっとしたところがいいのに……」
飛鳥とリセの意見が食い違った。二人は互いに顔を向かい合わせ、首を傾げている。
互いに言ったことが理解できていないか、理解しがたいことを相手が言っていた時の表情によく似ていた。
まああっちはこれ以上気にしないでもいいだろう。シンシアの方に集中しよう。
「さあシンシア、鬼ごっこを始めよう」
「こっちに来ないでください、化け物! うわぁああああああああん」
シンシアお嬢様がガチ泣きしている件について。そしてもう一つ問題があった。
「いいですね、良いですよお嬢様、最高に良いです」
シンシアの周りをうろちょろするゼイゴが何やら変なアイテムを使ってパシャパシャと何かしている。音と行動から、たぶんカメラみたいな道具で写真を取っているのだろうと思われる。ゼイゴは欲望の化身のような、危ない変質者のような表情をして「ぐへへへへ」と笑っていた。地獄絵図ってこういうことを言うのかな?
でもよくよく考えると、これじゃ修行にならない気がしてきた。ここまで怖がられると思っていなかったからな……。
まあいいや。俺はとりあえずシンシアを追いかけまわした。
こういう時、周りに人が良そうだが、俺の姿を見た途端一斉に逃げて行ったので誰にも見られることもなく修行を行えた。
リセの衣装、おそるべし……。
◇◆◇◆◇◆
ある程度追いかけまわしたところで俺は止まって衣装を取った。
「あ、あぁ、せんせいだぁ~」
疲れ切ったシンシアは、へたへたとその場に座り込む。余程怖い目にあったのか、目元に涙が溜まっている。語彙力も崩壊気味だ。口調が退化している。
「ほら、今日の修行はどうだった」
「とても怖かったです。何も覚えていない……」
恐怖を与え過ぎたようだ。リセの衣装、おそるべし……。でも逃げる際に魔法を使えるようになっていた。魔法がどういった理屈で使えるのか知らないが、おそらく移動しながら魔法を使えるだけの技術を皆持っているのではないだろうか。
そうじゃなかったらシンシアが逃げている途中で魔法を使い始めるなんてこと、できるわけがない。
きっと意識して発動しようとすると、上手く使えないとかそんなところだろう。コレ、上手く訓練すればすごく強くなる気がする……けど、どうやって使えるようにしてやればいいんだろう。魔法は専門外だ。とりあえず、追いかけるか。
「そういえば逃げる時に魔法を使っていたの覚えているか?」
「え、私、魔法を……使っていた?」
「うん、無詠唱でばんばん使ってたぞ」
追いかけっこをしている時、結構えぐい魔法が飛んできたな。おれには効かなかったけど。
「私、そんなことできたんですか……」
「ああ、だから自信持て、はいこれ」
俺はシンシアに一本の木刀を渡す。
「のじゃロリ、うるさいのはどうしてる」
『のじゃ……リセとイリーナが飛鳥から全力で逃げているのじゃ。あ、飛鳥がリセを捕まえたのじゃ。鬼が変わったのじゃ』
あいつら鬼ごっこしてるのかよ。楽しそうでいいな。おれなんて女の子におびえられながら追いかけていたんだぞ。なまはげの気持ちが分かったわ。なまはげあまり知らんけど。
「よし、あいつらは放っておいてこっちはこっちで練習しよう。さっき無意識に使っていた魔法を意識して使えるようになればいいんだ。という訳で練習するよ」
その言葉を聞いたシンシアは一瞬体をビクつかせる。でもまだ目は死んでいなかった。絶対に悪役令嬢になってやるって意志を感じる。
「私は絶対に悪役令嬢になるんです。そのための修行。ここはあきらめませんよ」
いや、全部口で言ってたよ。まあでも、その強い意志は凄くいいと思う。復讐とかそういうろくでもない方向で進む努力は碌なことにならないしな。
「よし、じゃあ授業を再開するぞ!」
「はい、先生っ!」
怖がらせるための衣装なんて思い付きで考えたものだったから、すぐに準備することが出来なかったのだ。行き当たりばったりなせいで、準備を怠ってしまった自分を少しだけ恥じた。
そしてその日の夜、イリーナとリセに衣装を準備してもらった。ものすごいものが来た。ものすっごいものが来た。大事なことなのでもう一度言おう。ものすっごいのが来たのだ。
これはちょっと……人が大泣きするどころか恐怖で気を失うようなリアルなデザインだった。特にリセの持ってきた衣装がやばい。
「ねえ諸刃、これ、すごくかわいいと思わない? 私はかわいいと思うんだけど、皆泣くの。そして私のそばから去っていく……」
「いや、その、な。かわいいかコレ?」
『さすがの儂もこれはないと思うのじゃ……」
「あばばばばば」
イリーナに至っては、恐怖のあまり泡拭いて気絶していた。命に別状はなかったのだが、人によってはここまでの恐怖を与える衣装なのだ。ちなみに、イリーナが持ってきてくれた衣装は、まだ作りものっぽい感じのある、鬼のような衣装だった。
何に使うのか訊いたら、豆まきだそうだ。ゴブリンって一応小鬼……だよな? 鬼が鬼を払うって、なんだそれ?
不思議な文化が残っているゴブリン帝国について今考えるべきことじゃないので忘れておこう。
とにかく、俺たちはリセが用意した衣装を採用することにしたのだ。これが正解かどうかは分からない。だけど一つだけわかっていることがある。
それは、確実にシンシアが泣く、ということだ。
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「ぴぎゃああああああああああああああああああああ」
シンシアは奇怪な声を上げて全力で逃げた。その場にほかの子息ご令嬢がいるというのに、そんなことお構いなしに逃げて叫んで、魔法を打ち込んでくる。
高度な訓練を行わなきゃ、移動しながら魔法なんて使えないと言っていたシンシアが、移動しながら魔法を使っている。人間、極限状態になるといろんなことができるようになるらしい。
とりあえず俺は……。
「わりぃ子はいねぇかぁ!」
シンシアを全力で追いかけることにした。時にはのじゃロリを使い、すべての魔法を切り裂く。
「何! 新手の魔物っ!」
飛鳥がやって来て、今の惨状に驚生き、刀を構える。だけど飛鳥のそばにイリーナとリセが近づいて、ちゃんと説明してくれているみたいだ。
「大丈夫、あれは諸刃よ。怖い恰好をして幼女を追いかけているの」
オイ、リセの野郎、何誤解されるようなことを言ってやがる。
「大丈夫ですよ。アレも修行の一環です。あの怖い恰好は……そう、シチュエーション作り! 魔物に実際に襲われたシーンを想定して訓練をしているのです! ガクブル……」
震えて、こちらを見ないようにしているイリーナがいいことを言ってくれた。そうだよ。シチュエーション作りみたいなものだ。決して、怖い恰好をして女の子を追いかけまわしたいとか、そんなこと思っていない。
「ぴぎゃあああああああああああああああ」
「あ、ちょ、ま、落ち着け!」
「ごわいいいいいいいいいいい」
お嬢様っぽさのかけらもなくなって、必死に逃げる。シンシアはすでにキャラ崩壊しているように見えた。ここまで怖がらせるつもりはなかったが、リセから借りた衣装の破壊力が強すぎたせいでこうなってしまった。
つまり、すべてリセが悪い。
「あんな化け物の衣装を使って悪役を演じるなんて、やるわね……」
「あーあー、あんなにかわいい衣装なのに、なんで皆嫌がるんだろう? あのきゅっとしたところがいいのに……」
飛鳥とリセの意見が食い違った。二人は互いに顔を向かい合わせ、首を傾げている。
互いに言ったことが理解できていないか、理解しがたいことを相手が言っていた時の表情によく似ていた。
まああっちはこれ以上気にしないでもいいだろう。シンシアの方に集中しよう。
「さあシンシア、鬼ごっこを始めよう」
「こっちに来ないでください、化け物! うわぁああああああああん」
シンシアお嬢様がガチ泣きしている件について。そしてもう一つ問題があった。
「いいですね、良いですよお嬢様、最高に良いです」
シンシアの周りをうろちょろするゼイゴが何やら変なアイテムを使ってパシャパシャと何かしている。音と行動から、たぶんカメラみたいな道具で写真を取っているのだろうと思われる。ゼイゴは欲望の化身のような、危ない変質者のような表情をして「ぐへへへへ」と笑っていた。地獄絵図ってこういうことを言うのかな?
でもよくよく考えると、これじゃ修行にならない気がしてきた。ここまで怖がられると思っていなかったからな……。
まあいいや。俺はとりあえずシンシアを追いかけまわした。
こういう時、周りに人が良そうだが、俺の姿を見た途端一斉に逃げて行ったので誰にも見られることもなく修行を行えた。
リセの衣装、おそるべし……。
◇◆◇◆◇◆
ある程度追いかけまわしたところで俺は止まって衣装を取った。
「あ、あぁ、せんせいだぁ~」
疲れ切ったシンシアは、へたへたとその場に座り込む。余程怖い目にあったのか、目元に涙が溜まっている。語彙力も崩壊気味だ。口調が退化している。
「ほら、今日の修行はどうだった」
「とても怖かったです。何も覚えていない……」
恐怖を与え過ぎたようだ。リセの衣装、おそるべし……。でも逃げる際に魔法を使えるようになっていた。魔法がどういった理屈で使えるのか知らないが、おそらく移動しながら魔法を使えるだけの技術を皆持っているのではないだろうか。
そうじゃなかったらシンシアが逃げている途中で魔法を使い始めるなんてこと、できるわけがない。
きっと意識して発動しようとすると、上手く使えないとかそんなところだろう。コレ、上手く訓練すればすごく強くなる気がする……けど、どうやって使えるようにしてやればいいんだろう。魔法は専門外だ。とりあえず、追いかけるか。
「そういえば逃げる時に魔法を使っていたの覚えているか?」
「え、私、魔法を……使っていた?」
「うん、無詠唱でばんばん使ってたぞ」
追いかけっこをしている時、結構えぐい魔法が飛んできたな。おれには効かなかったけど。
「私、そんなことできたんですか……」
「ああ、だから自信持て、はいこれ」
俺はシンシアに一本の木刀を渡す。
「のじゃロリ、うるさいのはどうしてる」
『のじゃ……リセとイリーナが飛鳥から全力で逃げているのじゃ。あ、飛鳥がリセを捕まえたのじゃ。鬼が変わったのじゃ』
あいつら鬼ごっこしてるのかよ。楽しそうでいいな。おれなんて女の子におびえられながら追いかけていたんだぞ。なまはげの気持ちが分かったわ。なまはげあまり知らんけど。
「よし、あいつらは放っておいてこっちはこっちで練習しよう。さっき無意識に使っていた魔法を意識して使えるようになればいいんだ。という訳で練習するよ」
その言葉を聞いたシンシアは一瞬体をビクつかせる。でもまだ目は死んでいなかった。絶対に悪役令嬢になってやるって意志を感じる。
「私は絶対に悪役令嬢になるんです。そのための修行。ここはあきらめませんよ」
いや、全部口で言ってたよ。まあでも、その強い意志は凄くいいと思う。復讐とかそういうろくでもない方向で進む努力は碌なことにならないしな。
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