稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

23.主人公?を拉致ります

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「っく、ミー、大丈夫ですか」

「ミーに怪我一つ追わせません。ここは私達がっ」

 イケメンだけど、奇妙な不気味さというか、気味悪さというか、視界に入れているだけで不愉快な気持ちを抱かせる王子たちが、ミーを視界にいれずに戦いに専念する。木に隠れながら、敵に向かって魔法を放ち、敵が近づくと一目散に逃げてこっそりと隠れてまた魔法を放つ。何ともチキンハートな戦い方だった。俺やアッシュが戦い方を教えたシンシアのような前線に出て戦うタイプとは違う、こう、なんというか、とても残念な戦い方だ。
 そんな戦い方をしていたからだろう、とても隙だらけでミーを連れ出すには簡単だった。

「よし、連れ出すのはアッシュに任せた」

「は? なんで俺がそんなことをしなきゃなんねぇだよ。そんなことしたらめんどくせぇことになるじゃねぇか」

 俺は小さく「ちっ」と舌打ちをする。アッシュはそれに気が付き、少しイラっとした表情を浮かべた。俺の狙いが何なのかわかっていたようだ。

「先生っ! 私が連れ出します」

「いえ、お嬢様、私がやりましょう。うえへへへへ、あの豊満な……いや、豊満でもない? うーん、でも女の子だからなっ」

「……先生、ゼイゴのことをよろしくお願いします」

「分かった、こいつはどうにかしよう」

 俺はゼイゴをどうにかして、シンシアがミーを連れ出した。

「なっ! ミーっ!」

 気持ち悪い男達の一人がこちらの行動に気が付く。だけど敵に襲われている最中であり、追ってくることはなく、俺たちの”初めての誘拐っ!”は成功したのだ。

 見た目だけはイケメンなのに口では言い表せないなんとも言えない不気味な気持ち悪さを持つ野郎どもからミーを救出した俺たちは、ゴール手前まで移動した。
 そこでシンシアがゆっくりとミーを降ろす。俺はモノを投げるかのようにゼイゴを落とした。

「いたいっ! これが、愛の鞭ってやつなんですね」

 そんな鞭、こいつに与えた覚えはない。
 シンシアは困惑するミーに対し、優しく微笑みかける。

「こ、これ」

 だというのに一瞬でつんけんした表情に変えてクスリとエンブレム的何かをミーに突き付ける。

「これは……これはっ!」

「落とし物。拾ったの。別にアンタが大変そうだとかそう言うことを思って持ってきてあげた訳じゃないんだからね。これはそう、あんたみたいな平民が困っていると思ったからやっただけなんだからね」

 シンシアの言葉がただの親切な人になっている。悪役令嬢を意識して頑張ったのだろうが、これは……どうなのだろう。まあでも、悪役令嬢になって破滅するよりはましなのでまあいいか。
 ミーは呆然としながらもシンシアからエンブレム的何かと薬を受け取った。リセがそっと水を差しだすと、ミーは薬を口に含み水で押し流した。
 ミーは小さく息を吐いて落ち着きを取り戻すと、なぜか俺とアッシュを睨みつける。

「あなたたち、これはいったいどういうこと」

 何故俺とアッシュに言うのか分からないが、俺は素直に答えることにした。

「我らがお嬢様が、薬を返すついでに、あの気持ちの悪い名状しがたい王子たちから救ってあげようと言ってくださった。だから、お嬢様のお慈悲に感謝しなくてはならないんだな」

 できるだけ悪役っぽくいってみると、シンシアがぷくぅっとほっぺたを膨らませる。

「私、そんな風に言った覚えがないんですよ。嘘はいけません、嘘はっ!」

「でもシンシア、悪役令嬢になるんだろう? 俺がそれっぽく演じてやるから、な」

「悪役令嬢……」

 シンシアはコクリと頷いて、俺にすべてを任せてくれた。
 アッシュは、黙り込んでいるが、じーっとミーのことを見つめてないか考えている様子だ。

「どうしたんだ、アッシュ」

「いやなに、こいつ、どっかで見たことあるような気がしてな……」

「ギクッ」

 今、ギクッて聞こえたような気が……気のせいか。そんな分かりやすいことを言う奴なんてそうそういないだろう。

「ふぅ」

 どっかで安心しきったようなため息が聞こえたが、これも空耳だ。
 ミーはきょろきょろと周りを見た後、俺たちをほんわかした目つきで睨んできた。いや、これは睨んできたというより、涙目になって怯えた女の子が怯えながら見ているといった様子だ。
 この場合、安心させるように声をかけてあげるべきなのだろうが、俺の頭の中にロリコン疑惑事件が一瞬よぎってしまい、声をかけることを躊躇してしまう。

「どうした諸刃。なんか顔が青いぞ」

「アッシュが気にするようなことは何もないぞ。俺はロリコンじゃない」

「いや、俺は何も言っていないんだが」

「シンシア、リセ、イリーナ。あとは任せていいか。この手の女の子の扱いはどうも苦手でな」

「「「らじゃっ!」」」

 シンシア達が面倒を見ているのだから大丈夫だろう。リセとイリーナは普通に接して事情説明的なことをしているが、シンシアはこうツンデレ風な感じになっている。頭の片隅に悪役令嬢という単語が残っているからこその行動だろうが、なんだろうか、非常に残念な感じになっている。

「一体、私をどうするつもりなの、シンシアさん」

「べ、別にどうもしないんだからね。なんとか王子が近くにいるせいでミーさんがつらそうとか、そんなこと思ってもいないんだからね」

 腕を組みながら「ふん」というシンシアがなんかこう、可愛い。ゼイゴが鼻血を出して辛そうにしている。
 それから女子同士で話し合いが始まり、気が付けばミーを慰めるという構図が生まれた。相当辛かったのだろう。少し泣いているようだ。それを慰めるシンシアはすでに悪役令嬢ではなかった。ただの親切な人だ。
 ただ、ミーにも何か事情がある用で、文句を言いながらも「やらなきゃいけないことがあるのよ」と幾度もなく呟いていた。俺的にはやらなきゃいけないことがあったとしてもあのなんとか王子と関わり合いになるのはごめんだ。

「ミーっ! 大丈夫か。貴様ら、覚悟しろ」

 満身創痍で駆け付けたなんとか王子一行は、ミーの泣いている様子を見た後、シンシアを睨みつけた。

「シンシアっ! 貴様、平民であるミーを誘拐して何をするつもりだっ。ミーが私たちといることを妬んでの行動だな」

「いえ、違いますよ、気持ち悪い。それよりミーさん、大丈夫ですか。気持ち悪くないですか」

「……婚約者とはいえ容赦しないぞ。覚悟しろ」

 さりげなくディスられて心に傷を作りながらも、何とかミーの為に立ち上がるなんとか王子。いい加減名前を聞いたほうがいいのかと思いはしたが、見ていると気持ち悪くなってくるために聞くに聞けない。ただ、シンシアに向かって手をかざし、魔法を放とうとする姿はちょっとな。
 俺とアッシュがシンシア達の前に出る。

 何とか王子は、まるで悪役系の悪い奴みたいににちゃりとした笑みを浮かべて問答無用で魔法を放ってきやがった。これには俺も驚いた。何せ俺の後ろにはあいつらが守りたいであろうミーがいるのだから。これはダメだろう。

 しかも何とか王子たちが放った魔法は炎系統の魔法だ。手の平に魔法陣が現れてその中央に炎の球体が出来上がる。それ相応の熱量があるのか、熱さがこっちまで伝わってくる。あれを食らえばやけどでは済まないだろう。
 あれを本当に撃つのだろうか。

「食らえっ! ファイヤーボールっ!」

「うわ、本当に撃ちやがった」

 俺は思わず驚きの声をあげる。のじゃロリを使って切り裂いてもいいが、あの熱量だ、のじゃロリが文句を言うだろう。最近あいつの小言がうるさくてたまらない。
 という訳で、俺とアッシュはただ立っているだけの肉壁になった。
 俺とアッシュは世にも珍しい魔法無効化体質を持っている。その正体は魔法への抗体が異常に高く、一定以下の魔法を一切受け付けないというものだ。
 こんな体を持っているからこそ、俺たちが何もせず肉壁になることができた。

 王子たちは魔法の直撃を見て俺たちを倒したとでも思ったのだろう。涎塗れのにちゃりとした笑みを浮かべ、勝利を確信している様子だ。イケメンなのにあんなふうに笑うんだ。本当に気持ち悪い。
 ただ、その表情は俺たちに触れた瞬間にかき消えた魔法を見て一気に変わる。

「すまんな、俺達には魔法が通じないんだ」

 俺達が笑うと、なんとか王子たちが恐怖の表情を浮かべた。何だろう、悪役にでもなった気分だ。
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