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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!
24.返却するけど、とにかく強く生きてほしい
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状況は予想外の方向へと進んでいた。
「この化け物め!」
何とか王子たちは俺とアッシュのことを化け物だと言いつつも、魔法を放つ手をやめなかった。化け物じみた悪役からお姫様を救うつもりなのだろう。まあ、実力差があるので俺たちが負けるわけがないのだが、必死になって頑張っている姿にはほほえましいものがあった。
「シンシア、ミーの様子はどうだ?」
「えっと、激しく動揺していますが、まだちょっと苦しそうですね。あの気持ち悪いのが来たからでしょうか? 落ち着くまで時間をください」
ちらっとミーの様子を見ると、あのなんとか王子を見ながら青ざめた表情を浮かべていた。あの王子、本当はやべー奴何じゃないだろうか。実際どうなのか分からず、憶測の域を抜け出すには証拠が足りないので敵と断定するにはまだ早いだろう。
だけど、こいつらこそ魔王軍の関係者で、何かよからぬことを企んでいるに違いないと思ってしまうのも無理はなかった。
何せこいつら、後ろにミーやシンシアがいるにも関わらず大規模な魔法を使って攻撃しやがる。おれとアッシュがいなければ後ろにいるシンシア達が大怪我しているところだ。
まあ、そんなやわな育て方をしていないのでシンシアなら何とかしてくれると思うのだが、ミーを守りながらとなるとそれも難しいだろう。
早くミーを返却して平和な実地演習に戻りたいものだ。
さて、青ざめているミーには悪いが、こいつらにミーを返却しなければいけないわけで、それにはこいつらにいったん落ち着いてもらい、話を聞いてもらえる状況を作らなければならない。だけどこいつらは怒りで我を忘れているのか、俺たちが声をかけてもそれを無視して魔法を放ち続ける。
そこはさすが王族とでもいうべき威力なので、すこしは見所があるのかもしれないが、かといって手を出してもいいものかと疑問に思ってしまう。
相手は王族だ。下手に手を出すとこっちに危険が降りかかるのではないだろうか。
ちらりとイリーナに目をやる。あいつも一応ゴブリンの皇族なんだよな。でもイリーナはゴブリンで魔物だ。いざという時に仲介役になってもらいたいのだが、さすがに魔物の国が仲介に入るのを相手の国が認めてくれないだろう。
相手がイリーナに手を出そうものなら、俺が全力で叩き潰すけどな。その時には飛鳥にも協力してもらおう。
「呼んだ?」
ちょうど飛鳥に助けてもらいたいなと考えていたところに、飛鳥率いる勇者一行が現れた。
俺とアッシュが魔法で襲われているというのに、能天気な表情を浮かべて楽しそうにこちらに声をかけてくる。
お前はもう少し危機管理ができる奴だと思っていたのに、この世界に来てポンコツ化が進んだな、オイっ!
「諸刃っ! あんた何一人で遊んでいるのよ。楽しそうだから私も混ぜなさい」
「この状況を見てどうしてそうなるんだよっ!」
俺が何とか王子に魔法を放たれて、肉壁になっている様子がどうして遊んでいるになるのだろうか。どっからどう見ても襲われているという反応になるのが普通だろう。
飛鳥の感性はよく分からない。
「飛鳥、ちょっと助けてくれないか」
「待って諸刃、後ろにアッシュがいるっ! 敵っ! ガルルルル」
そういえば飛鳥にはアッシュが仲間になってくれたこと言ってなかった。こいつは素直な奴だ。真面目に話せば聞いてくれるだろう。
「アッシュは仲間になった。敵はあっちだ」
「おま、そんな適当な説明で伝わらないだろう。あの勇者も困惑ーー」
「分かったわっ!」
「分かっちゃったのっ! いったい何が分かったんだよっ」
「さすがのツッコミだな、アッシュ。だが長年一緒にいた俺と飛鳥ならこれだけで伝わるんだ」
そういうと、後ろでイリーナとリセがちょっぴり不貞腐れているようにも見えた。よく見るとシンシアも不機嫌になっており、ミーの世話をしている手に力が入ってミーが痛そうな表情を浮かべる。
ミーは、痛いのを我慢するも、今動いてはダメだと何か悟ったようにただ茫然と空を見上げた。何とも可哀そうな奴である。
なんとか王子たちは、飛鳥の登場にさらに苛立ち始めた。様子を見るに飛鳥が誰なのか分かっていないのだろう。
飛鳥はこの世界に召喚された勇者だ。それもそれなりの実力を持っている勇者……だと思いたいな。見た目がポンコツ化して、最近というかかなり前からだけど中二病を患っているなという感じもあるなんとも残念な女の子なわけだけど、それでも勇者なのだ。勇者という肩書があればあのなんとか王子もひるむに違いない。
なにせ唯一魔王に対抗できるだろう存在が勇者であり飛鳥なのだから。
「お前、平民か? ならば即刻立ち去れ。そうすれば見逃してやる」
「そこの得体のしれない臭いにおいを漂わせるそこのあなたっ! この方は召喚された勇者様ですよっ! あなたこそ無礼ではないか!」
なんとか王子の態度にイラついた飛鳥のお供その1がなんとか王子にたてつく。
というか、得体のしれないとか、臭いとか、よく言えたものだな。確かに臭う。多分気持ち悪くなる原因はこの腐敗臭のような臭いに違いない。まあどうでもいい話だが。
「っふ。可哀そうな奴。そんな妄言を信じているなど。頭がお花畑だな」
「「は?」」
飛鳥とお供その1が低く、怒りに満ちたような目で王子を睨む。にしてもあの王子、臭いについてぼろくそ言われたのに、気にしないなんてある意味で器の大きい奴なのかもしれない。
「ミー、あの王子のもとに帰りたいか?」
俺がそう聞くと、ミーはかなり迷って頭を抱えて悩んだ後、コクリと頷いた。
いったい何を考えていたのだろうか。おおよそ予想はつくが、あの王子たちもなんか可哀そうなところがあるな。
まあでも、ミーの自由意志を完全に否定してはいけない。あいつらに騙されているということも考えられなくもないが、得体のしれない不気味な気配と異臭を除けばただのイケメンだ。それに金もある。そう言ったところがデメリットを帳消しにしているのであれば、ミーがもしかしたら好意を寄せているという可能性も捨てきれない。
俺が壁役になり、アッシュにミーを呼んでもらった。ミーはよろよろとしながらなんとか王子たちの元へ向かおうとするのだが、ここで何とか王子のポンコツが発揮される。
「くたばれっ! 誘拐犯っ」
なんと王子はミーが戻ってくる場面で極大の魔法を放ちやがった。なんとか王子の魔法がミーを襲う。おれとアッシュが助けようとしたのだが、俺たちの前にミーを護る者が現れた。
「ちょっとアンタたちっ! いきなり何してんのよ。臭いのよ。気持ち悪いのよっ!」
「なっ! 僕の魔法を切っただとっ!」
飛鳥が前に出て何とか王子の魔法を切り裂いた。なかなか様になっている。いっぱしの剣士と言ってもいいだろう。もっと鍛えれば立派な鬼狩りになりそうだ。うちのじっちゃんが教えているんだからな。鬼狩りっぽくなるか。
「そんなことより、アンンっ! いきなり何してるのって聞いてるのっ。そして臭いのよ」
「俺は……ミーを助けようとっ」
「■■王子っ。私は大丈夫です。王子たちが戦っている間に敵に襲われそうになったところを助けてもらっただけですので大丈夫です」
ミーはそう言った後、こちらをちらりと見て目で合図した。話を合わせろと言っているようだ。俺たちがやったのは気持ち悪くてつらそうなミーを奪って薬を渡してあげただけだ。敵からミーを護るなんてしていない。けどそういう話にしておいた方が都合がいいだろう。
それにしても、こんな状況でもあいつの名前分からないんだな。耳が名前を知ることを拒絶しているような気がする。
「なあ諸刃、俺達そんなこと……」
「アッシュ、ちょっと黙ってろ。今は話を合わせるぞ」
「「ねえ諸刃……そんなことしてたっけ?」」
「いいやね、話合わせようよ。リセもイリーナも黙ってよっか」
「ねえ諸刃。諸刃はそんな立派なことしてないよね? ねえどういうこと?」
「いやお前何も見てないんだから黙ってろよっ」
飛鳥まで口出してきたが、飛鳥が現れたのは最後だけだ。何も知らないのに余計なことを言わないでほしい。
そして何とか王子の反応はというと……。
「ふん、そんなこと信じられるか。シンシア、お前が変なことを考えてミーを襲ったんだろうっ。だがまあいい。ミーは返させてもらう。もう大丈夫だぞ、ミー。俺たちがあの性悪な女から守ってやる」
性悪な女ってシンシアのことだろうか。だとしたらあいつの目は腐っているに違いない。
ミーは最後にこちらをちらりと見た後、すごく悲しそうな目をしながらなんとか王子たちのもとへ戻っていた。
その姿はまるで売られていく仔牛のようで。澄んだその瞳が潤んで今にも泣きだしそうなほどつらそうな表情を浮かべていた。
なんだろう。あの子がとても可愛そうに見えてきた。
俺は全く関係ない人間だけど、とにかく強く生きてほしいと思ってしまった。
「この化け物め!」
何とか王子たちは俺とアッシュのことを化け物だと言いつつも、魔法を放つ手をやめなかった。化け物じみた悪役からお姫様を救うつもりなのだろう。まあ、実力差があるので俺たちが負けるわけがないのだが、必死になって頑張っている姿にはほほえましいものがあった。
「シンシア、ミーの様子はどうだ?」
「えっと、激しく動揺していますが、まだちょっと苦しそうですね。あの気持ち悪いのが来たからでしょうか? 落ち着くまで時間をください」
ちらっとミーの様子を見ると、あのなんとか王子を見ながら青ざめた表情を浮かべていた。あの王子、本当はやべー奴何じゃないだろうか。実際どうなのか分からず、憶測の域を抜け出すには証拠が足りないので敵と断定するにはまだ早いだろう。
だけど、こいつらこそ魔王軍の関係者で、何かよからぬことを企んでいるに違いないと思ってしまうのも無理はなかった。
何せこいつら、後ろにミーやシンシアがいるにも関わらず大規模な魔法を使って攻撃しやがる。おれとアッシュがいなければ後ろにいるシンシア達が大怪我しているところだ。
まあ、そんなやわな育て方をしていないのでシンシアなら何とかしてくれると思うのだが、ミーを守りながらとなるとそれも難しいだろう。
早くミーを返却して平和な実地演習に戻りたいものだ。
さて、青ざめているミーには悪いが、こいつらにミーを返却しなければいけないわけで、それにはこいつらにいったん落ち着いてもらい、話を聞いてもらえる状況を作らなければならない。だけどこいつらは怒りで我を忘れているのか、俺たちが声をかけてもそれを無視して魔法を放ち続ける。
そこはさすが王族とでもいうべき威力なので、すこしは見所があるのかもしれないが、かといって手を出してもいいものかと疑問に思ってしまう。
相手は王族だ。下手に手を出すとこっちに危険が降りかかるのではないだろうか。
ちらりとイリーナに目をやる。あいつも一応ゴブリンの皇族なんだよな。でもイリーナはゴブリンで魔物だ。いざという時に仲介役になってもらいたいのだが、さすがに魔物の国が仲介に入るのを相手の国が認めてくれないだろう。
相手がイリーナに手を出そうものなら、俺が全力で叩き潰すけどな。その時には飛鳥にも協力してもらおう。
「呼んだ?」
ちょうど飛鳥に助けてもらいたいなと考えていたところに、飛鳥率いる勇者一行が現れた。
俺とアッシュが魔法で襲われているというのに、能天気な表情を浮かべて楽しそうにこちらに声をかけてくる。
お前はもう少し危機管理ができる奴だと思っていたのに、この世界に来てポンコツ化が進んだな、オイっ!
「諸刃っ! あんた何一人で遊んでいるのよ。楽しそうだから私も混ぜなさい」
「この状況を見てどうしてそうなるんだよっ!」
俺が何とか王子に魔法を放たれて、肉壁になっている様子がどうして遊んでいるになるのだろうか。どっからどう見ても襲われているという反応になるのが普通だろう。
飛鳥の感性はよく分からない。
「飛鳥、ちょっと助けてくれないか」
「待って諸刃、後ろにアッシュがいるっ! 敵っ! ガルルルル」
そういえば飛鳥にはアッシュが仲間になってくれたこと言ってなかった。こいつは素直な奴だ。真面目に話せば聞いてくれるだろう。
「アッシュは仲間になった。敵はあっちだ」
「おま、そんな適当な説明で伝わらないだろう。あの勇者も困惑ーー」
「分かったわっ!」
「分かっちゃったのっ! いったい何が分かったんだよっ」
「さすがのツッコミだな、アッシュ。だが長年一緒にいた俺と飛鳥ならこれだけで伝わるんだ」
そういうと、後ろでイリーナとリセがちょっぴり不貞腐れているようにも見えた。よく見るとシンシアも不機嫌になっており、ミーの世話をしている手に力が入ってミーが痛そうな表情を浮かべる。
ミーは、痛いのを我慢するも、今動いてはダメだと何か悟ったようにただ茫然と空を見上げた。何とも可哀そうな奴である。
なんとか王子たちは、飛鳥の登場にさらに苛立ち始めた。様子を見るに飛鳥が誰なのか分かっていないのだろう。
飛鳥はこの世界に召喚された勇者だ。それもそれなりの実力を持っている勇者……だと思いたいな。見た目がポンコツ化して、最近というかかなり前からだけど中二病を患っているなという感じもあるなんとも残念な女の子なわけだけど、それでも勇者なのだ。勇者という肩書があればあのなんとか王子もひるむに違いない。
なにせ唯一魔王に対抗できるだろう存在が勇者であり飛鳥なのだから。
「お前、平民か? ならば即刻立ち去れ。そうすれば見逃してやる」
「そこの得体のしれない臭いにおいを漂わせるそこのあなたっ! この方は召喚された勇者様ですよっ! あなたこそ無礼ではないか!」
なんとか王子の態度にイラついた飛鳥のお供その1がなんとか王子にたてつく。
というか、得体のしれないとか、臭いとか、よく言えたものだな。確かに臭う。多分気持ち悪くなる原因はこの腐敗臭のような臭いに違いない。まあどうでもいい話だが。
「っふ。可哀そうな奴。そんな妄言を信じているなど。頭がお花畑だな」
「「は?」」
飛鳥とお供その1が低く、怒りに満ちたような目で王子を睨む。にしてもあの王子、臭いについてぼろくそ言われたのに、気にしないなんてある意味で器の大きい奴なのかもしれない。
「ミー、あの王子のもとに帰りたいか?」
俺がそう聞くと、ミーはかなり迷って頭を抱えて悩んだ後、コクリと頷いた。
いったい何を考えていたのだろうか。おおよそ予想はつくが、あの王子たちもなんか可哀そうなところがあるな。
まあでも、ミーの自由意志を完全に否定してはいけない。あいつらに騙されているということも考えられなくもないが、得体のしれない不気味な気配と異臭を除けばただのイケメンだ。それに金もある。そう言ったところがデメリットを帳消しにしているのであれば、ミーがもしかしたら好意を寄せているという可能性も捨てきれない。
俺が壁役になり、アッシュにミーを呼んでもらった。ミーはよろよろとしながらなんとか王子たちの元へ向かおうとするのだが、ここで何とか王子のポンコツが発揮される。
「くたばれっ! 誘拐犯っ」
なんと王子はミーが戻ってくる場面で極大の魔法を放ちやがった。なんとか王子の魔法がミーを襲う。おれとアッシュが助けようとしたのだが、俺たちの前にミーを護る者が現れた。
「ちょっとアンタたちっ! いきなり何してんのよ。臭いのよ。気持ち悪いのよっ!」
「なっ! 僕の魔法を切っただとっ!」
飛鳥が前に出て何とか王子の魔法を切り裂いた。なかなか様になっている。いっぱしの剣士と言ってもいいだろう。もっと鍛えれば立派な鬼狩りになりそうだ。うちのじっちゃんが教えているんだからな。鬼狩りっぽくなるか。
「そんなことより、アンンっ! いきなり何してるのって聞いてるのっ。そして臭いのよ」
「俺は……ミーを助けようとっ」
「■■王子っ。私は大丈夫です。王子たちが戦っている間に敵に襲われそうになったところを助けてもらっただけですので大丈夫です」
ミーはそう言った後、こちらをちらりと見て目で合図した。話を合わせろと言っているようだ。俺たちがやったのは気持ち悪くてつらそうなミーを奪って薬を渡してあげただけだ。敵からミーを護るなんてしていない。けどそういう話にしておいた方が都合がいいだろう。
それにしても、こんな状況でもあいつの名前分からないんだな。耳が名前を知ることを拒絶しているような気がする。
「なあ諸刃、俺達そんなこと……」
「アッシュ、ちょっと黙ってろ。今は話を合わせるぞ」
「「ねえ諸刃……そんなことしてたっけ?」」
「いいやね、話合わせようよ。リセもイリーナも黙ってよっか」
「ねえ諸刃。諸刃はそんな立派なことしてないよね? ねえどういうこと?」
「いやお前何も見てないんだから黙ってろよっ」
飛鳥まで口出してきたが、飛鳥が現れたのは最後だけだ。何も知らないのに余計なことを言わないでほしい。
そして何とか王子の反応はというと……。
「ふん、そんなこと信じられるか。シンシア、お前が変なことを考えてミーを襲ったんだろうっ。だがまあいい。ミーは返させてもらう。もう大丈夫だぞ、ミー。俺たちがあの性悪な女から守ってやる」
性悪な女ってシンシアのことだろうか。だとしたらあいつの目は腐っているに違いない。
ミーは最後にこちらをちらりと見た後、すごく悲しそうな目をしながらなんとか王子たちのもとへ戻っていた。
その姿はまるで売られていく仔牛のようで。澄んだその瞳が潤んで今にも泣きだしそうなほどつらそうな表情を浮かべていた。
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