稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

32.異様な集団

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 パーティー会場は異様な空気に包まれていた。
 俺はパーティーというものをとても煌びやかなものだとイメージしていた。でも実際はどうだろうか。
 ある一部の集団がとても楽しそうにしているのだが、それ以外の集団は一様に暗い。
 何か不幸でもあったのかと思わせる様子であったが、どの集団が楽しそうにしているかということを知って納得した。

 楽しそうに騒いでいる奴らのいるところは、引きつった笑みを浮かべるミーと、それに付き従う口では言えない名状しがたい感情を見ているだけで感じるようななんとも言えない男達だった。その中にはシンシアの婚約者である名前の言えないあの王子もいた。

 王子はミーにべったりで、どこからどう見ても惚れているように見えるのだが、あの見た目だ。気持ち悪さの方が目立つ。最悪な気分になってきた。
 見ているだけで周囲の気分を悪くさせる王子が近くにいるのだ。ミーもつらいことだろう。というか、いつにもましてつらそうな表情を浮かべていいた。

 その理由は一目で分かった。
 あの気持ち悪い集団に囲まれているのもそうだが、今回はあの得体のしれない気持ち悪い王子がミーの手に触れているのだ。
 見ているだけでもアレなのに、触れられるとか、とても最悪な気分になるだろう。

「先生、何を見ている……うう、気持ち悪い」

 シンシアが俺の見ている方向に視線を向けて、気持ち悪そうに口元を手で押さえていた。普通そういう反応になってしまうよな。
 リセとイリーナはかたくなにあの王子を見ようとはしないが、逆にアッシュがあの王子をみて驚いた表情を浮かべた。

「あいつ、すごいな。あんな人間がいるなんて」

 その言葉に首をかしげたくなるが、そこでふと思うことがあった。
 あの存在するだけで周囲を不愉快にさせる存在だ。アッシュの言っていた魔王軍幹部に関係のある存在に違いない。もし違ったとしても、何かしらの影響は受けているだろうと思った。

 普通の人間なのに、周囲を不愉快にさせる一国の王子とか、ありえないだろうという俺の考えは、たぶん間違ってはいないだろう。それにアッシュは一緒にいるが元魔王軍の幹部クラスの鬼人だ。敵の姿ぐらい知っているに決まっている。

「あの男、普通の人間で特に魔法的な影響も一切ないように見えるのに……あれだけ人を不愉快にさせるだと。あれはある意味で才能だな。俺はいらないが」

 ……俺の考えとアッシュの感想は全く違った。おう、アレ、素なんだ。なんというか、とても哀れな存在にすら見えてきた。可哀そうに。

 そんなことを思っていると、リセとイリーナが俺の服を引っ張った。視線を移すと、シンシアも混ぜた三人が怪しげなものを持ってキラキラとした眼差しでこっちを見上げていた。

「諸刃っ! 見てよコレ。すっごいんだからねっ」

 ドヤ顔でリセが見せてくるのは、タロットカードのようなものだった。絵柄は死神の正位置。確か死神の正位置は変化を予兆するものだったような気がする。それに対して受け入れるか、抵抗するか、その二択が迫られるような場面に出くわす。もし今の関係が上手くいっていない場合は、関係を断ち切ったほうがいいということを示していたような気がした。

 飛鳥のなんちゃってタロット講座で覚えたものなので、ぶっちゃけよく分からないが……。それを俺に見せつけて、こいつは何を考えているのだろう。

「シンシアをね、占ったの。そしたらこれが出てきたんだよ。すごいよね。婚約破棄しろって示しているのっ!」

 興奮気味に力説するリセの勢いは凄かった。俺の服を掴み、鬼気迫るような雰囲気を漂わせている。はたから見たら、俺が襲われているように見えるのではないだろうか、そう思わせるほどにすごかった。
 ただ、あの気持ち悪い王子たちがいるおかげで周りの反応は特になかったので、ちょっとだけ安心した。

 それからリセをどけるようにしてイリーナが前に出た。

「主殿、これを見てください!」

 イリーナが持っていたのは、名状しがたい何かだった。真っ黒でうねうねしていてとても気持ち悪い。ちょっとまて、なんだこれ……。
 きっと俺以外の人間もこれを見たらそう思ってしまうだろう。だけどイリーナは誇らしげに俺の前に差し出してきた。

「ゴブリン帝国に伝わる魔よけのうにょうにょです。漆黒バージョンを取り寄せました」

「いや、漆黒? どうでもいいんだけど、それってどう使うの?」

「よくぞ聞いてくれました。これは……こう使うんですっ」

 そう言ってイリーナはうねうねしている名状しがたい漆黒の何かをもにょもにょし始めたい。表現的に意味が分からないのは自分でも分かっている。けど見ている俺からしても、もにょもにょしているとしか言いようがないことをしていた。

「こうすることで邪気を払うのです。あの得体のしれない奴らを払ってやりましょうっ!」

 ドヤ顔をするイリーナは年相応の子供のように見えた。ただ、あの名状しがたいくねくねが全てを台無しにしている。

『諸刃よ……お主育て方を間違えてないか?』

「俺、イリーナの親になった記憶ないんだけど、それでも同じこと思った。一体どこで間違えた?」

 親に自慢する子供のようにはしゃぐイリーナであったが、今あの黒いうねうねを取り上げると抵抗しそうなのでそっとしておくことにした。

「それで、シンシアはいったい何を……」

「ふっふっふ、見て驚かないでください。これ、ですっ!」

「こ、これは…………」

『なんじゃ、そんなに驚く……これはっ!』

 のじゃロリですら驚きの声を上げる。それほどまでにすごいもの、というわけではなかったが、それはシンシアにとても似合わないものだった。

「なんでそんな、センスの悪い扇子を持っているんだよ」

『のじゃ、悪趣味すぎるのじゃ』

 ふわふわの何かが付いた、いかにもって人が持っていそうなセンスの悪い扇子だった。あの名状しがたい王子とその仲間達と比べるととても可愛らしいことのように思えるが、ふわふわとして天然入ってるなーって性格のシンシアが持つと違和感が半端なかった。
 どうしてそんなものを持ってきたのかと問うてみたかったが、それは自分から話してくれた。

「どうですか先生。これで少しは悪役令嬢に見えますか?」

 制服なので、悪役令嬢かどうかを判断する部分が扇子しかないんだが、まあ見えるのではないだろうかと適当に返事を返した。その言葉に素直に喜ぶシンシアはとてもいい子だ。ゼイゴも鼻血が垂れそうになっているのを必死に抑えている。

 さて、俺たちがいろいろと馬鹿なことをやったおかげか、会場の雰囲気がいつの間には分かれていたようだ。あの得体のしれない名状しがたい王子どもの吐き気を催す異様な雰囲気と俺達シンシアののんきでどうでもいいほんわかとした雰囲気だ。周りの人間のほとんどがこちら側に集まって、優雅にパーティーを楽しんでいる。
 一部の子息令嬢は権力の方が魅力的だったのか、あの気持ち悪い集団の集まる場所へと足を運んでいた。確かに、あいつらは権力を持っているモノばかりだ。あの集団の筆頭は名前が分からないけど王子だからな。
 いや、もしかしたら王太子なのかもしれない。次期国王だとするならば、コネを作りたくて学園に入学した者は、是非ともあの王子とお近づきになりたいことだろう。
 俺は絶対に嫌だけどな。

 ひと悶着無いよう一定の距離を取りつつ、様子を窺っていると、権力者のごますりにいった生徒の一人からなんとも言えない不気味な雰囲気を漂わせ始めた。あの何とか王子と同じ、いるだけで人を不愉快にさせる名状しがたいものだ。俺はひそかに驚く。あれって感染するんだ……。絶対にお近づきになりたくない。
 そう思っていると、ミーを連れた何とか王子とその一行が俺達に気が付き、それはそれは気持ち悪い笑みを浮かべながらこちらに近づいて来たのだ。

 どうしよう、波乱の予感がする。
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