稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

36.全てはこの時の為に

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 ニンジャっぽく構えたシンシア、どこからともなく手錠を持ち出して、「けっけっけ」とあくどい笑みを浮かべるリセ、そしてタコ焼きをほふほふさせるイリーナが俺の前に立つ。三人は、行動こそこの場にふさわしくないことをしているが、目だけはしっかりとミーを睨んでいた。

「え、ナニコレ、私はどういった反応を求められているの。こんな作品、知らないわよ」

 この世界がゲームとでも思っているかのような発言だった。まあ、乙女ゲームをリアルに再現しようとしたほどの猛者だからな。勇者である飛鳥のオタク力を遥かに超える。
 戸惑いを見せるミーの前に、シンシアが一歩前に出た。

「さあ、決着を付けましょう。悪役令嬢として、私があなたの前に立ちふさがります。そう、私はこの時の為に生まれてきた」

「いや、その悪役令嬢って、うちのジェネが言った……」

「そんなことは関係ありません。そう、私は悪役、すごく悪い子なのです。この前食事でピーマン残しました」

 悪いことのレベルが小さい。食べ物を残すという行為は本来褒められた行為ではない。食べるは生きるために絶対に必要な行為だ。せっかく手に入れた食料を無駄に使うのは生物の行動としてはありえない。
 人間の場合、農業革命により食料に余剰ができたため、多少無駄に使ったところでほかの食材が手に入れられなくなるなんてことはない。

 だから、食べ物の好き嫌い自体は、褒めるような事ではないにせよ、そこまで悪いか? と思わせる程度のものでしかない。そんな小さなことをドヤ顔で「私は食べ物残したの、悪い子なのよ」と言っちゃうシンシア。ミーは顔を俯かせている。さすがに人選を誤ったことを自覚して後悔しているのだろうか。

「あは、はははは、はーはっはっはっはっ。そうよね、そう、そうなのよ。悪役と主人公は競い合い、高め合い、戦う宿命を背負っているの。そう、私はこういう場面を求めていた。勝負よ、シンシア。主人公パワーで、私が勝つ」

 実力的には魔王軍幹部であるミーの方が圧倒的に強い。だけど、ミーはこの状況を楽しむために、シンシアと同等レベルまで実力を落としてくれるそうだ。なんというか、なんであんな残念な子が魔王軍で幹部なんてやってんだろうね。魔王という存在に疑問を持ってしまう。

 さて、主人公と悪役が戦うだけなら、それはもう乙女ゲーというより少年漫画のような状態になってしまっている。こんなバトルモノ展開になっている時点で、乙女ゲーとはかけ離れているような気がするが。でも、この場で乙女ゲー感を出すのだとしたら、攻略対象であるヒーローが前に出て主人公を護り、悪役令嬢を殺したりする場面になるだろう。
 さて、その王子様はというと……。

「ぐあはああああああああ、払われるぅぅぅぅぅぅぅ、浄化するぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 多分落とし物か、この会場のどこかにあったのであろう十字架に触れて、なんかこう、とりついていたものが払われているような状態になっていた。あれは見なかったことにしよう。

 さて、シンシア達の戦いが始まってしまったわけだが、手持無沙汰になってしまった。やることがない。本来なら俺が前に出てシンシアを守らなければならない立場であるのだが、シンシア達がやる気を出している以上こっちから口を出すことではないだろう。これも一つの修行。ヤバそうになったら手を出すだけだ。

『のじゃ、鬼畜の諸刃さんじゃ。そうやって女の子同士が傷つけあう姿を見て楽しむのじゃ。変態なのじゃ』

「黙れよクソ刀。そんなんじゃねぇよ」

『よく言うのじゃ。興奮しているくせに。興奮しているくせに!』

「なぜ二回言った。お、それよりも、あいつらが動くっぽいぞ」

 シンシア達に変化が見られた。まず前に出たのは、たこ焼きを食べていたイリーナだ。まさか、あのタコ焼きは相手を油断させるための行動だったのか。だとしたら、予想外過ぎて逆にすごいと思えてしまう。
 だがさらに予想外の展開が起こった。イリーナのタコ焼きにきをとられ過ぎて見ていなかったのが悪かった。
 突然の殺気に反応し、のじゃロリを構えると見知らぬ攻撃を受けた。それは黒くてドロドロとした得体のしれない何か。それが現れたと同時に外から悲鳴が聞こえてくる。得体のしれない黒い何かが至る所から集まって来て、一つの形になった。

「なんだこいつ……」

 それは異形の化け物と呼ぶにふさわしい姿をしていた。俺が戦ってきた鬼とはまた異質な存在。漆黒の翼に真っ黒な人型の体。特徴的なのはヤギのような二本の角。ギジギチという音に近い人では表せないような声を上げるその存在は悪魔と呼べるものに近かった。

「#################」

 悪魔が叫ぶだけで衝撃が起こり、パーティーの為に準備されていた料理などが吹き飛んだ。そんな異質な存在を見て、ひとり間抜けな声を上げる奴がいた。

「あ、やば……」

 その存在は……なんというかミーだった。魔王軍の幹部クラスがこんなところで遊んでいるわけもなく、侵略するためにいろんな準備をしていたに違いない。そう思っていたのに、ミーとジェネから予想外の言葉が出てきた。

「やっば、どうしよう。あれの存在すっかり忘れてた。乙女ゲー企画を始めた時にうまくいくように王族その他もろもろのイケメンに低級悪魔を埋め込んだんだった。あの何とか王子……気持ち悪い原因ってあの悪魔がいたからだったんだ」

「ちょっとまってよ姉さん。あれ、どう見ても低級じゃないんだけど」

「そうね、元は低級だったんだけど気持ち悪さを感染させて力を付けていったのね。もう最上位悪魔と言ってもいいかも」

「それすごくまずいよ姉さん。あのまま力を付けると最悪あの悪魔の系列の最上位に位置する外なる神がこの世界に降臨するかもしれないよ。そうなったら……世界が終わる」

「それまずいよね。私の乙女ゲーライフが!」

 慌てふためくミーとジェネ。お前らほんとポンコツ過ぎないか! どうすんだよコレ。
 あの慌てている様子を見るに、ミーとジェネも予想していない事態になっているのだと思われる。

 魔族も戦争を起こすからにはそれなりの理由があるのだろう。覇権国家を狙うというのもあるが、もしかすると食糧事情により豊かな土地を求めているのかもしれない。であるならば、世界を滅ぼす外なる神を召喚することは本意ではないだろう。
 仕方ない、魔王軍幹部の後始末だがやってやろうじゃないか。

「こいつの相手は俺に任せろ。ほかのみんなは……」

「そう、じゃあ任せた。私はシンシアと決着を付けなきゃいけないの」

「姉さんみたいな理由ではないが、こちらもアッシュと決着を付けなきゃいけなくてね。そちらの相手は出来そうにない。頼むよ」

「おい待てこら、コイツはお前らがやらかしたから出てきたんだろう。そこらへん責任を……」

「「え、だってやってくれるって」」

 ダメだこりゃ。このバカげた存在を作り出して忘れていた元凶共は我関せずの態度をとっているようだ。しかも、元凶二人は俺たちの戦力を分散するつもりか、アッシュやシンシア達との戦いを続けている。マジ邪魔しかしない。下手をすれば世界が終わるという状況で敵対するあのバカ二人にお灸をすえるのはシンシア達に任せよう。

 俺はあの得体のしれない気持ち悪い化け物を相手にしないと。
 だけど相手の威圧感が半端なく、俺だけでは躊躇してしまいそうになる。誰かもう一人、もう一人だけ仲間がいれば……。

 そう思って周りを見渡すと、一人、何もしていない奴がぽつんと立っていた。

「飛鳥! お前勇者だろ。こういう時に根性見せろっ」

「根性ったって、こんなの相手にどうしろって言うのよ」

「大丈夫だ、勇者パワーで何とかなる」

「何とかなるって、どうしようもないわよ此畜生」

『諸刃……ゲス過ぎなのじゃ』

 まるでこの時の為に役者をそろえたような状況。ポンコツばっかりだけど、なんか勝てるような気がしてきた。
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