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7つのくてくてと放浪の賢者

借金と盗賊キラー時々ジャスティスっ!_1

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 薄暗い部屋の中にまぶしい光が差し込む。鳥の鳴き声と、隣のいびきにより目を冷ましたヴィスは、大きなあくびをして、隣に転がっているものを蹴飛ばした。

「ぐへぇ、えへえへえへへへえへ」

 変な声で鳴く借金女神ことアティーラは、ヴィスに蹴られてもなお寝続けた。寝ながら変な声を上げて、実に楽しそうだ。
 なんか幸せそうなアティーラとは違い、ヴィスの表情はとても暗い。
 その原因は、隣で幸せそうに眠っているアティーラにあった。

 アティーラにまとわりつかれたことにより逃亡生活を余儀なくされたヴィスは、アティーラを連れて人気の少なく、雨風しのげるヒミツの空き家に連れて行った。
 今にも壊れそうな見た目とは裏腹に、内装は割かし綺麗だった。
 なんでも、ヴィスがラセルアから距離を置いて一人で楽しみたいときによく使う場所だという。
 ちなみに、楽しみたいというのはギャンブルのことであり、別に怪しい女性を連れ込んであんやこんやしているわけではない。
 その辺に関して自分のこととなるとかなりまじめに考えるヴィスは、割と誠実な男なのだ。それ以外ロクデナシだが……。

 そんなヴィスの隠れ家に連れてもらえるだけありがたいはずなのに、この下着姿の駄女神痴女は、「私、女神なんですけど。この姿どう思う、下着よ下着。普通女神様にこんな格好させないんじゃないかな。ねぇ、どうにかしてよ。私を楽させてよ。借金返済してきてよっ!」なんていう始末。
 この女神もろくでもないダメな奴だった。

 イラっと来たヴィスは、ぶちのめしてやりたい衝動を抑えつつ、服を買ってやることにした。もちろん、金は全てラセルアに請求される。どこまでも他力本願なロクデナシでも、さすがに女神を下着姿のまま放置するのもあれだと思ったのだ。屑の心にある小さな優しさが起こした行動だったが、やれ服を買って帰って来てみれば、駄女神ことはアティーラは部屋の中に隠していた酒やつまみを食い漁って酒瓶抱いて寝てやがったのだ。
 さすがのヴィスも、かなり頭にきて寝てるアティーラにケリを入れた。そしたらどうだろうか。起きるどころか寝ゲロするではないか。ゲロまみれの臭い女神は、それでもなお気持ちよさそうにしている。
 近くにいたくないのと面倒を見たくないヴィスは、距離を置いて寝ることにした。

 そして目を覚ましてみれば、ゲロっと女神がヴィスの近くでいびきをかいて寝てるではないか。
 かすかに香る酸っぱい匂い。最悪の目覚めである。そりゃ寝起きに一発ケリを入れてしまう訳である。

 一刻も早くこの臭いにおいから立ち去りたいヴィスは、すぐに外に出かけ、樽一杯に水を汲んで戻ってきた。

「汚物は消毒したいけど、とりあえず水で軽く洗っとくか」

 アティーラをまるでゴミを洗い流すかのように水をぶっかけて、ブラシでごしごしと洗っていく。これにはさすがのアティーラも目を覚ましてしまう。

「ぐぇえええ、げほげほ、え、な、ぶいはあぁあぁあ、な、ぎゃええ、な、なに、ぐえぃ、何なのよぉぉぉぉぉぉぃ」

「身勝手なくそ女神に天誅だ。くてくてを一緒に探すと言ってやった途端にこれだ。捨てるぞお前。自分で借金返せよな」

「ごごごごめんなさぁぁぁぁっぁあい、それだけはゆるしてぇぇぇぇぇぇぇ」

 朝から顔面崩壊を起こすアティーラを、組んできた水で洗い流す。水に流れて酸っぱい匂いが徐々になくなっていった。
 ある程度汚れが落ちたところで、タオルとラセルアのお金で買ってきた服をアティーラに投げつけた。せっかく乾いていた服が、掃除の為にぶちまけた水によって汚れていく。

「ほら、お前のために着替えとか手に入れてきてやったんだ。感謝しろよな」

「ありがとうってすごく言いずらいんだけど、濡れる、濡れちゃうぅぅぅぅぅ」

 アティーラは慌てて服を拾うが時すでに遅し。汚い水がかなり深くまで浸透している。

「ほら、買ってきてやったんだ。まさか着ないなんて言わないよな」

「ききき、着るわよ。着ればいいんでしょうっ。……うぅ、べちゃべちゃして気持ち悪いよぅ」

 濡れて汚れた服に着替えるアティーラの目には涙が浮かんでいた。その表情を見てヴィスは満足げにうなずいた。これで昨日のゲロや酒を奪われたことに対する苛立ちが晴れたようだった。

「さて、さっきまで酸っぱい匂いがしたせいで食欲もないしな。早速くてくてについて手がかりを探そう」

 ヴィスは手掛かりを探すべく、無料配布なので貰っておいた【ティングブルムの書】の写本を開く。いくら探しても手掛かりは見つからないが、小さく、ヒントがもらえそうなページを見つけた。

(お便りコーナーなんてあるのか。えっと、くてくてって何ですか? これでいいだろう)

 ヴィスがお便りコーナーに質問事項を記入すると、お便りがスッと消えた。人では考えられない超常的な現象だが、ティングブルムの書を発行しているのがそもそも人間じゃないのでヴィスも特に驚かなかった。

「ねぇ、あなたはお腹空いてないかもしれないけど、私はおなかすいたの。なんかない?」

「ふざけんな借金女神。俺は養ってもらいたいんであって誰かの世話をしたいわけじゃない。腹が減ったなら勝手に食え。どうせここにあるものは全てラセルアの金で買ったものだからな」

「ラセルアってこの国の女神じゃない。ならいっか。あの女神、お金とかすごい持ってそうだもんね。私にくれないかな。そうすれば一気に借金返済できるのに」

 借金女神はいい妄想をしたのか、にししと笑って、部屋にある食糧をあさった。

 実際、ヴィスのせいでラセルアはそこまでお金を持っていないのだが、本人が楽しそうなら別にいいだろう。

「それ喰ったら行くぞ」

「行くってどこに?」

「どこにって、くてくてを探すんだろう。見つけたらなんでも一つ願いが叶うんだぞ!」

「あー、えっと、そのことで一つお願いが……」

 すごく言いずらそうに視線を逸らすアティーラ。ヴィスはなんだか嫌な予感がした。

「お願い、明後日までに私、8万ギリ返済しなきゃいけないのよ」

「お前返済できてないから追いかけられていたんじゃないのか?」

「えっと、その、なんていうか、自分で言うのもなんだけど、ギャンブルで借金するほどの駄女神じゃない」

「まあそうだな」

 加護をくれると言いながらまだくれないアティーラのことを、本当にダメな女神だとヴィスは思う。まあ、ヴィスが駄女神の加護を欲しいと思っているかと、別にそんなこと思っていないのだが。まあそれはそれということにしておこう。

「だからお金を貸した側も私に返済ができないだろうと見込んで違法な風俗店で働かせようとしてきたのよ。まだ返済までの期間があるのにひどくない!?」

「いや、お前の方が酷いと思うよ。本当にロクデナシだな」

 ラセルアに貢がせるというロクデナシっぷりを棚に上げて、ヴィスはアティーラを罵倒した。すごくいい笑顔を浮かべているあたり、ヴィスの性格の悪さが伺える。

「ま、そういう訳でね、私に返済できるってところをあいつらに見せるために、私は8万ギリを明後日までに返済しなきゃいけないの、わかる?」

 とても上から目線にアティーラを見て、ヴィスは大きなため息をはいた。

「ああ、分かった。くてくては俺一人で探す。俺が願いを叶えてもらってうはうはな生活を送るさ。お前は頑張って金返せよな。8万ギリ返せよ。返せなかったら違法な風俗店で無理やり脂ぎった臭いおっさんと寝かされるっていうつらい人生を歩むことになると思うけど、人生いろいろあるからさ。まあ頑張れ」

「お願いまってぇ、私女神なの。女神な威厳がなくなっちゃうぅ、うわぁあぁああん、お願いだから、私に協力してよおおおおお」

 賭博の女神改め借金の女神であるアティーラは、女神のプライドをかなぐり捨ててヴィスの足元にしがみつく。もう彼女には後がないのだ。このさいプライドなんて気にしても仕方がない。まあだからと言って違法な風俗店で働きたい女神もいないだろう。だからこそ必死なのだ。
 あまりにも必死過ぎる哀れな女神を見て、さすがのヴィスもかわいそうに思えてきた。
 お金がなくてつらいと泣くのは個人的に楽しいと思うヴィスだが、ここまで落ちると流石に哀れに思ってしまい、心が痛んだ。

「本当に仕方のない女神だな。はぁ、仕事するか」

「ほんとっ! 私の為に仕事してくれるのっ!」

「馬鹿野郎っ! 誰がお前のために金を稼ぐと言った。俺にだって生活費が必要なんだよ。今の俺には貢いでくれる女が…………すぐ近くにいないんだよ」

「……ねえ、すぐ近くじゃなきゃ貢いでくれる女がいるって聞こえるんだけど」

「まあ、地方にいけば5人や8人ぐらいはいるかな。現地妻ならぬ現地お財布ってところか」

「アンタ最低よ、ほんと、ろくでもない人間だわ」

 ヴィスの屑っぷりはアティーラさえもひいてしまうほどだった。まあ、ヴィスの屑っぷりは今に始まったことではないし、ラセルアもお財布の存在だけは認めていたので今更咎められるようなことはないらしい。

「まあ、そんなわけで、俺も金が欲しい。だから働くぞ、二人で。とりあえずもうちょっといい場所で寝泊まりするためにっ!」

「そ、それもそうね。で、仕事って何するの?」

「何、俺に当てがある。ドカンと稼げるいい仕事だ、行くぞ」

「ちょ、まだ私、びしょぬれた服きて結構きわどい感じになってるんだけど……ちょ、待って、私を置いてかないでよぉぉぉぉぉ」

 ヴィスとアティーラは隠れ家を後にした。ヴィスが選んだ仕事が、後々になってアティーラをひどい目に遭わせることにつながるのだが、この時のアティーラがそんなこと知る由もなくーー

「8万ギリ返すために頑張るぞっ!」

 無駄な気合を入れるのだった。
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