召還師と教師の不祥の弟子たち

落花生

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他国の教育システムは非効率的のように見える

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 サモナーは、ミチルをつれて空を舞っていた。
 高校という建物に付属している、校庭という広い庭。木々が植えられているわけでもない、硬い土が敷き詰められた庭はサモナーには異質に見えた。
 この世界にあるものの大半が、サモナーには異質に見える。だが、きっとサモナーには分からない利便性があるのだろう。それでも、あの地面に叩きつけられるのは痛そうだとサモナーはワイバーンの背の上で考えた。
 ワイバーンは乗り心地は悪いが、機動力は優れている。問題なのはワイバーンに攻撃手段も防御手段もないことだが、サシャが前線に立っていてくれるおかげで何とかその問題は解決できた。
 サシャは、バンの剣戟をよけながら戦い続けている。
 長くは頼りに出来ない。ミチルの話によれば、サシャが戦い続けられるのは五分が限界なのである。それ以上戦わせれば、サシャが消えてしまう。ミチルからも「それだけは、駄目よ」と釘を刺されていた。
「――世界は創作された。呼び声に答えよ。あなたを、私が作った」
 サモナーはワイバーンの背の上で、新たなモンスターを呼び出す。レイピアを持った成人男性並みの大きさの猫である。カズキは「長靴をはいた猫」と言っていた。
「戦ってください」
 猫は、サシャとともにすばやくバンの懐に入る。
 そして、甲冑と甲冑の隙間にレイピアの刃を差し込んだ。真っ赤な血が、銀色の鎧から溢れてくる。サモナーの後ろに乗っていたミチルが「やったわ!」と喜んだのがわかった。だが、安心は出来なかった。
 サシャも猫も、素早いが攻撃力にかけるのだ。
 そして、サシャの活動限界も近づいている。
 バンは、サシャの頭を鷲づかみにした。猫はサシャを助けようと飛び上がるが、バンのたった一振りで胴体と頭が離れ離れになっていた。
 サモナーは、思わずそれに目を背ける。
 苦手なのだ。
 人間でも生物でも、死を見せ付けられるのが怖いのだ。世界から一から作り出し、呼び出すモンスターたちはいつもいとも簡単に他人に殺されてきた。だからサモナーは死が怖いし、死をモンスターに与える普通の人々も少し怖い。
「――世界は創作された。呼び声に答えよ。あなたを、私が作った」
 サモナーは、次のモンスターを呼ぶ。
 金色のドラゴンだ。
 実は、ドラゴンを呼び出すのが最も苦手だ。ドラゴンの鱗や牙は高値で売れたから、父親が殺したがった。殺されるものを生み出すのはつらいのに、サモナーの父は最期まで分かってくれなかった。
 ドラゴンは巨体で吼えて、バンに向かって炎を吐き出す。その直前に、サモナーはもう一度呪文を唱えた。
「――世界は創作された。呼び声に答えよ。あなたを、私が作った」
 今度は大量の虫を呼び出し、サシャの周りを飛ばせる。あの虫は大量に密集することで、結界の役割を果たす。サシャと最初に戦ったときも、この虫を呼び出した。
 虫は、ドラゴンの炎からサシャを守った。
 サモナーは、息を切らせる。
 疲労感で、今すぐにでも倒れて寝てしまいそうであった。こんなにも連続で魔法を使ったのは久々だし、今はもう魔力の貯蓄もなかった。カズキの傷を治す再に、すべて使ってしまったのだ。あそこで魔力の貯蓄を使わなければ、カズキは救えなかった。そのことについて、サモナーに後悔はない。だが、ここで死ぬことには未練がある。
 ドラゴンが吐いた炎の煙が収まると、すぐにバンの姿をサモナーは確認しようとした。だが、サモナーがその目で彼を捉えるより先にバンはドラゴンの眼前にいた。
「どうやって、炎を防いだんですか!」
 サモナーは、はっとする。
 バンは、サシャをつかんだままである。サシャに施した結界を盾代わりにわれたのである。バンは、再び大口を開けたドラゴンの上顎と下顎を切り離した。止めとばかりに、炎の弾丸が放たれる。金色のドラゴンは、その熱さに焼かれながら息絶えた。
 サモナーは次のモンスターを召還しようと考え、惑う。
 ミチルが、サモナーの背に頭を預けたのだ。見ればバンの手のなかにあるサシャもぐったりしていて、動く気配がない。魔力が、つきかけているのだ。
 サモナーの魔力も、おそらく後一回の召還が限度である。
 その一回で、バンを倒せるのかがわからない。ならば、いっそのことミチルだけをつれて逃げたほうが得策ではないのか。いや、サシャを見捨てることはできない。だが、サシャを助けるには魔力がたりない。
 サモナーが迷っている次の瞬間には、バンは大きく飛び上がりワイバーンに――サモナーに切りかかろうとしていた。人間が跳べる高さではないが、きっと魔力で身体機能を強化させたのであろう。サシャも使用していた魔術であるが、サモナーはバンがこんな魔術を使うとは思っていなかった。
 故に、頭が真っ白になった。
 ワイバーンが泣き声をあげて、バンから遠ざかる。我に返ったサモナーはワイバーンをなだめながら、バンを見た。先ほど飛び上がったせいで、バンの兜はとれて顔があらわになっていた。
「……バン」
 サモナーが知っている幼い少年の面影は、もうそこにはないような気がした。自分が殺された後――死んだあと。彼がどんな道をたどったのかは、知るすべはない。
 幼いころ、サモナーは自分が魔法使いだと知った。
 魔法は、誰かに危害を加えられるほどの力を持っている。故に、魔法使いは和を乱す卑しい存在なのだと父に教えられた。父はサモナーを疎んでいたわけでもなく、嫌っていたわけでもなかった。それが、サモナーのいた世界では事実だった。
 母は、サモナーの魔法使いとしての力を悲観していつも泣いていた。
 そんな母に、物語のなかにしか存在しない美しいモンスターたちを見せてあげたくてサモナーは召還という魔法を学んだ。現実はいつも辛いから、幻想のなかには幻のような美しさや楽しさがあると信じていた。なにより、母はそういう物語を好んだ。
 父は、それは金になると言った。
 サモナーの呼び出したモンスターたちは、もう母の慰めになるような幻想の住人ではなくなった。金品に変わる、毛皮や牙という品物だった。兄はサモナーの同情し、随分と仲良くしてくれたが、それでもサモナーは自分の魔法に対してどんどんと懐疑的になっていた。
 ――きれいだね――。
 だが、とある少女がそう言ってくれた。
 森で傷つき、そこで見取った名も知らぬ少女はサモナーのモンスターたちをちゃんと見てくれた。そして、「きれいだね」と言ってくれた。
「あなたに、師匠として最後の魔法を見せます」
 サモナーはワイバーンの背を叩き、バンから少しばかり距離をとった。
 そして、地上に近づいてもらいワイバーンの背からサモナーは飛び降りる。そのまま、ワイバーンには飛び立ってもらった。サシャは逃がせなかったが、まだ生きているミチルを道連れにするよりは格段によい手だと思った。
「……私たちの魔法は、本来は人を傷つけるためにあるものじゃないんです。ただ、綺麗なものを作り出せるだけ。そういう、ものなんです」
 サモナーの眼前で、分厚い本が勝手にページをめくりだす。ここには「きれいだね」と言ってくれた少女のお守りはない。だから、もしかしたら自分はここで魔力を使い切って死ぬのかもしれない。
 普段ならば、死はとても怖いものだった。
 だが、今だけはサモナーは死を恐れていなかった。
 突如、サモナーの体に変化が生じる。
 肉体が、魔力で満たされたのだ。休息によって魔力が回復することはあるが、こんなに急速な回復はありえない。誰かから、魔力を供給されないかぎりは。
「――世界は創作された。呼び声に答えよ。あなたを、私が作った」
 呪文を唱えながら、サモナーは校舎を見る。
 そこには、カズキがいたような気がした。
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