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「あの人、かなり優しそうでした」
「優しいというよりかはちゃんと話を聞いてくれる人なんだろうな」
「それもあるかもしれません。ただ、私のことを聖女じゃないと疑いませんでしたね。てっきりすぐに言われるのかと思いました。聖女は人前に立つことなんて滅多にありませんし、私の姿を知っているのって貴族だけでしょう?あんな都合のいいことなんてあり得るわけがありませんし」
「聖女のオーラとか、そういうのが出ているんだろう。実際、私もそれは感じてる。人とは違う超越した何かをアデリーナから感じ取れる」
「なんですか、それ。やめてください」
「本当のことを言ったまでだ」

 彼女とて人とは違うオーラなんか出したいわけではない。それにそう言われると自分の体臭を周りに散らばしているようで彼女にとって良いものではなかった。

「ところでですが、あなたの元妻は聖女ではなかったのですか?」
「ああ、そうだ。というのもこの国が建国されて以来聖女がこの国に来ることはなかった。小さい国であるし、聖女がいる必要性はなかったからな」
「なるほど、そうなんですか。この国が廃れたとなると一度は繁栄していたようですが、聖女がいなくとも国は発展するものなのですね」
「まぁ、開発は全て外交ありきだった所以だろうな。皇居の周りは隣国のワードに頼みやってもらった。今となっては開発の手が止まり衰退の一途を辿っている」
「そうなんですか。なるほど」

 聖女というのは元々の起源を辿れるほど正確な情報というものはないのだが、聖女は自分が産んだ一人の子どもにしか聖女の力を授けることはできない特質上、聖女が増えるということはない。ましてや、戦争が後を絶たなかった時代では聖女を殺すことが国にとって大きな打撃であったが故にその時代、聖女は暗殺され、数が減ってしまった。確かに今は全ての国に一人の聖女を配置するというのは難しい。

「クロスさんは外交が得意のようですね。聖女がいなくとも国として一応は機能させたと考えると」
「国が残っているのも外交のおかげだが、結局は民のことを放置していてそれに集中していたに過ぎない」
「それが有効な策には違いありませんから」

 民の信頼を得るか国の安泰を得るか。彼にとっては国の安泰を取る方を選んだということになるが、それが一番の選択であることに違いはないだろう。国を放棄することになれば、侵略される。つまり、戦争が始まってしまうことは誰でも分かる。そうなると苦しい生活はもっと苦しくなるだろうし、結局は国を守る方が正解なような気もする。
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