ファーストキスを奪った親友は、理想の筋肉の持ち主だった

華翔誠

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バイト

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中学に上がってから、間壁真斗はずっとバイトしていた。父子家庭ということで、貧しいわけではない。
ただ、母が入院していたころは、家にお金は無かっただろうと子供心に思っていた。
治療費が嵩むのに、両親からリトルリーグを辞めるように言われることもなく、むしろ応援してくれていたくらいだ。
だから、ずっと思っていた。大学へ行く費用は自分で稼ごうと。
中学生のバイトは基本認められる事は無いが、片親は別だ。
真斗の父親は、休日出勤もこなし、転勤も受け入れているので、普通のサラリーマンの給料は貰っている。世帯収入から考えたら、とても認められる事は無いのだが。学校というのは、片親の家庭に、そこまで強く突っ込むことはない。
昔は、世帯収入の記入欄は必須であったが、個人情報に煩い現在で、そんな事をしていたら、直ぐに問題になってしまう。だから、真斗は、任意の欄は全て空白で提出していた。
その為、中学3年間バイトする事が可能だった。

真斗のバイト内容は、基本は酒屋の仕事なのだが・・・。
「おい、終わったか?」
まだ30代前半の店長が声を掛けた。
「はい、腿上げ終わりました。」
「よし。」
「あ、あのう・・・店長。」
「何だ?」
「前から思ってたんですが、筋トレが何で仕事なんでしょうか?」
「馬鹿野郎、ちゃんと時給払ってんだろう?黙って俺の研究の材料になれっつうの。」
酒屋の店主は、地元の大学の研究室に出入りしていた。
「あー、また真斗だけトレーニングさせてるっ!」
そう言って、勇気が酒屋を訪れた。
「出たな、キラーベア。」
「おっさん、変な名前で呼ぶなよっ!」
「俺をおっさんって言うんじゃねえっ!いつも言ってるだろ。」
「じゃあ、おっちゃん?」
・・・orz
店長はこんな感じになって、凹んだ。
「なあ、俺も鍛えてくれよ。」
「前から言ってんだろ。お前の成長期がよくわからんって。」
「ちぇっ・・・。」
「もう成長しなくてもいいって言うなら、メニュー作ってやるけどな。」
「いやいい。きっと来るんだ、俺にも変声期と成長期が!」
「まあ、高校に入って伸びる奴も居るからな。真斗、次のメニューこなした後は、米の配達な。」
「はいっ。」
「米の配達もしてるんだ?」
「お前ん家にも行ってんだろが。」
「そだっけ?」
「で、何しに来たんだ?真斗なら仕事中だぞ。」
「醤油を買いに来た。」
「お前が?」
「悪いかよ。」
「緑さんはどうした?」
「怪我してる。」
「大丈夫なのか?」
「腕にひびが入っただけだから。」
「そうか、何かぶつけたのか?」
「んにゃ。俺が蹴った。」
「なっ、今更、反抗期か?って緑さん相手に、すげえなお前。」
「ちゃんとキックミットにだよ。反抗なんてしないよ。母ちゃん怖いし。」
「まあ、そりゃそうだよな。・・・・はああっ?ミットごしにっ?」
「そうだよ、直接蹴るわけ無いんじゃん。」
「そういやあ、お前、うちに藁とか麻袋を取りに来なくなったよな?」
「うん。」
「竹を蹴るのは、やめたんじゃないのか?」
「んーん、面倒だから、直接蹴ってる。」
「ちょっと、勇気、足を見せてみろ。」
そう言って、ズボンの裾を上げて、脛を確認した。
「・・・。お前、将来、何になるんだ?」
「知らないよ。おっちゃんこそ、真斗をJリーガーにさせようとしてんじゃねえの?」
「おっちゃん言うなっ!別にサッカーやらせようと何て思ってねえよ。真斗もお前も、サッカーを愛してねえだろ?」
「サッカーは好きだけど愛してはないよ。」
「だろうな。まあサッカーで言えば、お前の方が才能はあるさ。」
「あっ、おっちゃんに教えて貰ったネオライオネルショットを久々に打ったよ。」
「へえ?いつ?」
「1年くらい前かなあ。」
「あのなあ、勇気。報告するなら、もっと早く言えっつうの。で、どうだった?」
「体育の先生が、もうシュートするなって・・・。」
「やっぱり、お前はサッカーの才能あるよ。」
「Jリーガーを目指せって言うんじゃないだろうな?」
「言わねえよ。言ったろ。ああいうものは、愛が無い人間は目指しちゃいけないんだよ。」
「おっちゃんは、愛があったのか?」
「あったさ、何てったって、元Jリーガーだからな。」
「J3の癖に。」
「う、うるせえっ!これからって時に怪我したんだからしょうがねえだろ。」
「今でも愛してんの?」
「もちろん。だから後悔はしてない。」
早くに怪我をしてサッカー選手を引退した酒屋のおっさんは、直ぐに地元の大学へ入学し、卒業後は実家の酒屋を継いだ。
「まあ、お前も何か目指すもの見つけたら、言ってこい。ほれ、醤油。」
「あっ、お金忘れた。」
「つけとくから。緑さんにお大事にと伝えといてくれ。」
「うん、わかった。」
勇気は、醤油を購入し家に帰った。
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