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第3章 ゆるやかな流れの中で
瞬の不安
しおりを挟むすっかり冷えきった瞬の身体を温めなくてはと榊は思い、部屋に戻る事にした。
「寒くなって来ましたね。
もうそろそろ部屋に戻りましょう。身体がこんなに冷たくなってしまいましたし、すぐお風呂にしましょう」
そう言うと瞬はもじもじと何かを言おうとする。
「はい、あの!」
「何ですか?」
「チューターも冷たくなってしまいましたし、お風呂に入った方がいいんじゃないですか?」
意外な提案だった。
「それは私にあの狭い風呂に一緒に入れという事ですか?」
「いえ!あの!違います!でも、その、あの!代わり番こでというのはどうですか?」
「先に瞬を入れたら、次に私に入れという事でしょうか?」
そう聞かれると瞬はしどろもどろで顔に更に赤味が増していく。だがコクコクと頷いた。
すると意外にあっさりと榊は瞬の提案を了解したのだった。
「わかりました。
瞬を先にお風呂に入れたら、私もシャワーを浴びさせていただきます。
その代わり瞬には課題を出します。
私が風呂に入っている間に鏡の前でご自分の身支度を全部して下さい。
その下着も制服も、自分で一から着けられたら、鏡に向かって正直な今の気持ちを言ってみてください。
私は風呂に入っていて見ていませんから、その鏡の向こうにお父様が居ると思って…」
そこで榊は瞬に魔法の言葉を唱えるように指示した。
それを聞いた瞬の目は大きく見開かれ黒目が一気に大きくなったような気がした。
「それって何か意味があるのですか?」
「あると思いますよ。多分きっとその想いはお父様に届くと思います。だから心を込めてそう言ってみてください」
そう教えてやると瞬の瞳はゆらゆらと揺れるように動いた。
そしてあっという間にそこが潤み、透明な液体がどっと溢れ出して来た。
瞬にだって本当はその言葉の意味だってわかっていた。
その言葉に意味が無いわけがない。
『一生自分だけを愛してください』そして『早く迎えに来てください』
そんな言葉を言っていいものか今まで恐れ多くてずっと言えなかった言葉だった。
そしてあの部屋の大きな鏡の存在は、はじめから何か不思議な力を感じていたものでもあった。
あの鏡の向こうに主人と繋がる秘密がある事もずっと想像して来た事でもあった。
瞬は昔から本が好きで色々な物語も読んだ。
鏡には不思議な力が宿ったり、その鏡に映る世界の奥には違う次元が広がっていて、手をかざしたらその中に引き込まれて出られなくなるとか、鏡に映る世界はこの世とは真逆で、まさに現実とは反転した世界が広がっているとか、色んな事を想像して楽しんだ事もあった。
ずっと孤独だった瞬には鏡に映る自分さえ孤独を紛らわせる格好の遊び相手だったのだった。
そんな鏡には特別な思い入れもあった。
躾けをされる時は常に鏡を意識するように言われ、そこにお父様が見ていると思って必ず秘部を曝け出すようにも言われていた。それが何より恥ずかしかったが、自分が喘ぐ姿を意識していると、あれは鏡の世界の自分だと言い聞かせても来た。
現実世界の自分ではなく鏡の世界の自分があの中に居ると思うと、少しだけ気持ちも楽になるのだった。
そうしてわずかながらの余裕が出来ると自然と榊の手の動きも視界に入ってきて、それがいずれは主人の手になるだろう事を想像すると胸の中がカッと熱いものが込み上げてくるようだった。
榊が主人の代理なのだったら、早くその主人に会いたいと思う気持ちも確かに本物だった。
榊に想う気持ちは、所詮主人への気持ちの代替えなのだと教え込まれて来た。
だから間違ったらお仕置きをされる。
それでも何度も榊自身に愛されたいと想う気持ちは抑えきれなくて、度々間違えを犯して来た。
ここで躾けは終わりになるなら瞬ももう失態は晒さなくて済みそうだと思う反面、もう榊から躾けもお仕置きもされないのかと思うと、急に寂しさがこみ上げて来た。
例えまだ一度も会ってはいなくとも、その主人への忠誠は忘れてはいない。
そうやって三年間躾けられたのだから、何をおいても主人への忠誠心が一番だった。
だが、榊への想いは主人とは違った意味で瞬には絶対的なものになっていた。
三年も毎日一緒に暮らしていたのだから、榊がそばに居なくなる不安は絶大だった。
他の躾けを受けていた少年達は自分の躾け役と別れる時どうだったのだろうかと考える。
だが彼らの顔にはそんな悲愴感は感じられなかった。
一年近くも一緒に過ごしてきたはずなのに、主人に迎えに来てもらった子供達は皆ホッとしているようで嬉しそうだった。
それを窓から見ていて羨ましいと思ったのは初めの一年くらいで、それから先はむしろ不安ばかりが頭から離れなくなった。
さっきまであんなに主人に会いたいと思っていたはずなのに榊と別れるのかと思うと急に怖くなってきてしまった。
またそんな事で不安だとか言えば鞭で打たれるかもしれない。
でも湧き上がる不安を口にせずにはいられなくなっていた。
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