追放された最高魔力の偽聖女が、真の聖女と呼ばれるまで

銀麦

文字の大きさ
36 / 37
第三章 偽聖女の初陣

黄昏の空

しおりを挟む
 黄昏時。エレノアは西側の外壁に腰を掛け一人佇んでいた。
 この一週間で村周辺に残る小鬼ゴブリンの掃討は完全に終わり、一週間前は小鬼ゴブリンが敷き詰めていた外周部分も安全になっていた。
 エレノアはじっと燃え落ちる西日を眺め続けていた。待ち人がいるのである。

「お帰りなさい」

 やがてエレノアは、遠くに待ち人の姿を確認すると、聞こえない事を承知で虚空に向けて声をかけた。
 遠くには飛行フライトの風魔法で移動するグレイの姿。
 
「……エレノアさん。もしかして待っていてくれたのかな」
「座ったらいいわ。沈む夕陽が綺麗なのよ、一緒に見ない?」

 城壁に着地したグレイの問いかけに、エレノアは否定も肯定もせず、隣に座るように促した。

「……では、そうしようかな」

 グレイは、ゆっくりとエレノアの隣に腰を掛け、同じように沈む夕陽を眺めていた。

「お疲れ様。調査はどうだったの」
「成果はあったよ」

 グレイは薄汚れた羊皮紙の本を取り出して、エレノアに手渡した。
 エレノアが本を開くと、見慣れない形の文字が書かれているが、それが砂王国で使われている筆記体だと分かった。

「これが小鬼ゴブリンの本拠地に?」
「ああ。明日の早朝ノーラス村を発ち、剣王国に帰ろうと思う。君も連れていくけど構わないかな」

 グレイがエレノアに確認をした。
 元よりそのつもりだったが既に一週間経ち、エレノアも村の生活を謳歌している。約束を違えないか心配になったのかもしれない。

「ええ。そうして貰えれば。仕事先があるといいのだけど。一応、民兵団から受け取った報酬があるから、しばらくの生活は大丈夫そうだけどね」
「母上の家に一度来て貰えないかな。君の紹介も兼ねてね。……それと、水術師の異父妹が居るんだ。君と年齢も近いし、僕と違ってさっぱりとした明るい性格だから、良い友人になれると思う。是非仲良くして欲しいな」

 グレイには母方に妹がいるらしい。初耳である。ただ宮廷で水術師を務めていたという母方の子で父親違いとなると、その関係は複雑かもしれない。

「貴方と妹さんとの仲はどうなの?」
「良好な関係を築けているよ。まあ、知っての通り僕の家庭環境は複雑でね。今の母上の夫は再婚相手なんだ。最初の夫は日常的に暴力を振るう人で、それに同情的だった父上との一度の過ちがあって、僕が生まれたという事になって」

 グレイが複雑な面持ちで自らの出生の過程を語った。
 過ちをもって生を受けた身としては、その情事を完全否定も出来ないのかもしれない。

「王様との情事は、最初の暴力夫にも原因があったという事ね。……今の旦那さんはどうなのかしら」
義父とうさんは優しくて尊敬できる人だ。母上はベタ惚れでね。……いい歳して見せつけてくるのはどうかなと思うくらいだよ」

 苦笑いを浮かべつつ、グレイはさらに続けた。

「剣王都ファルシオンに僕の所属している民間の魔法研究所がある。そこにエレノアさんを紹介しようと思っている。内定と思ってくれて構わないよ。……君ほどの才能なら剣王国も欲しがるだろうけど、少なくとも今は自重したほうが良いと思ってね」
「それはそうかもしれないわ。聖王国と剣王国は同盟関係みたいだし」
「……まあ、後は国仕えになったら、君は国の意向に逆らえなくなってしまう。聖王国の事も根掘り葉掘り聞かれるだろうし、望まぬ戦争に駆り出される可能性も否定できない」

 その言葉からはエレノアと聖王国に対する配慮が窺えた。
 国の利を考えれば、王国の中枢に近い位置に居たエレノアから聖王国の情報を引き出す事は国の利に適う事である。

「僕としては、そうあって欲しくない。何よりエレノアさんが目の届かない処へ行ってしまうかもしれないのはね」

 グレイが隣に座っているエレノアを抱き寄せると、エレノアはそのままグレイの肩にもたれ掛かった。
 鼓動が少し高まっている。未だ慣れることはなかったが、こうやって少し寄り添うくらいであれば冷静に努める事が出来た。

「……仮に研究所に行ったとして仲良くできるかしら。エリングラードの魔法院では、一人のライバルを除いて腫れ物扱いされていたの。……私が悪かった面もあるけど」
「癖のある人ばかりだけど、魔法騎士ルーンナイトが所属する王立魔法局よりは遥かに穏やかだよ。ただ、君の魔力に嫉妬する人はいるかもしれないけど、こればかりは」
「まあ、そういうのは経験からわかるわ。……以前は私も反省する点があったから。聖王国では心に余裕がなかったの。低い身分で聖王国に引き取られた身だったから」

 エレノアが反省の弁を述べると、グレイが心配ないと言いたげに頷いた。

「あとは、王立魔法局と魔法研究所は微妙にライバル意識と対立があるから、その辺りが要注意かもしれない。……剣王国の為に対立なんてしている場合ではないのだけど」
「あら。同じ国の仲間じゃないの。仲良くしたらいいのに」
「それが難しいのは、エレノアさんだって聖王国での経験で分かっているんじゃないかな。剣王国は安全とは言い難い情勢でね。本当は身内で争っている暇なんてないはずなんだ」

 そう言われて、聖王アレクシスと第一王子リチャードの派閥争いによる対立を思い出し、エレノアは納得した。
 一枚岩というのはそう簡単ではないし、完全に国が一丸となれるのであれば苦労はない。一丸となって小鬼ゴブリンと立ち向かえたノーラス村の一件は特殊だったのだろう。それですらエレノアとグレイにすれ違いがあり、あわやという処があったくらいである。

「わかったわ。私も聖女候補だった頃と違って、もう少し穏やかに出来ると思うから。もし、悪い処があったら遠慮なく叱って欲しいわね。……冷たそうな顔と声は地だから勘弁して欲しいけど」

 そう言うとエレノアは溜息をついた。おそらくは悪い処だらけであるが、グレイは微笑むばかりで何も言わなかった。
 西空には夜の帳が下り、濃紺色の空が煌めき始めている。ここでも流れ星を幾つも見つける事が出来る。
 エレノアはグレイに寄り掛かりながら、目に映ったほうき星にそっと願いを込めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。 しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。 永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。 追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。 「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」 その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。 実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。 一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。 これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。 彼女が最後に選択する《最適解》とは――。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

処理中です...