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福引きとプレゼント
福引きとプレゼント
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「…………ふぅ」
ある平日の放課後。
そう、深く瞑想しながら精神統一をする。そんな僕の前には、もうお馴染みの抽選機。そして――
「――よう、兄ちゃん。今日も来てくれたんだな」
そう、いつもながらの快活な笑顔で話すお馴染みのおじさん。だけど、今日はいつもよりいっそう明るく……そして、何処か寂しそうにも見えて――
……いや、でも今は気にしてる場合じゃないか。僕だって、何としても今日は引き当てなきゃならないわけだし。今日は……今日こそは、絶対に――
「――あちゃー、残念だったな兄ちゃん」
それから、数分経て。
そう、朗らかに笑いつつティッシュを差し出すおじさん。僕は感謝を告げつつも、内心は緊張に押し潰されそうで。
……まずい、あと一回――正真正銘、これが最後の一回で。と言うのも、僕の手持ちはあと一枚。そして――今日がこの抽選会、最後の日だから。
震える手で、最後の一枚を手渡す。そして、更に震える手で抽選機のレバーを回す。……どうか、どうか奇跡よ――
――コロン。
「…………え」
「――どしたの? 琉人。突然、こんなところに呼び出して……あ、もしかして――」
「いや告白じゃなくて!!」
「あははっ、まだ何にも言ってないよ?」
「……ぐっ」
翌日、放課後にて。
そう、いつもながらの悪戯な笑顔で話す藍李。今、僕らがいるのは体育館の裏――うん、なんでこんなとこに呼び出しちゃったんだろうね。よくよく考え……いや、よくよく考えなくても、普通に帰り道で良かったはずなのに。
まあ、今さら後悔しても仕方がない。バレないようどうにか緊張を抑えつつ、ゆっくりと口を開いて――
「……あの、藍李……これ」
そう、後ろに隠していた両手を差し出し告げる。そんな僕の手には、少し長めのぬいぐるみ――以前、藍李が欲しいと言っていた白いウーパールーパーのぬいぐるみが。……まあ、普通に見えてたかもしれないけど。
「……その、僕は1等を狙ってたんだけど、4等のそれが当たっちゃって。それで、まあ、僕が持っててもしょうがないし、良かったらって思って……」
続けて、何ともたどたどしい口調で告げる僕。……うん、ほんと帰り道で良かったよね。なんでわざわざ、こんな改まったシチュエーションを用意しちゃっ――
「……ふふっ」
「……? 藍李?」
すると、ふと正面から届く笑い声。まあ、我ながら滑稽だと思うし致し方な――
「――実は、あたしも持ってるんだよね、それ。少し前に、福引きで当たっちゃって」
「…………へっ?」
すると、思いも寄らない言葉。……へっ? 持ってたの? と言うか、いつの間に――
「少し前、近所のおじさんに券を一枚もらっちゃって。それで、折角だしダメ元で引いてみたら、なんか当たっちゃった」
「…………そ、そうなんだ……良かったね」
そう、ニコッと笑い話す藍李。そして、そんな彼女の説明に、ガクリと膝から崩れ落ちる僕。……いや、良いんだけどね。良いことなんだけど……でも、こうなると僕はいったい何のために――
「――まあ、冗談だけど。ほんとは、昨日普通に買ったの。雑貨屋さんで」
「…………へっ?」
すると、倒れ込む僕に嬉々として告げる藍李。いや何の冗談!? ほんと、びっくりさせないで……いや、でも同じか。いずれにせよ、僕のしたことは全くの無意――
「……でも、その様子だと――やっぱり、あたしのためだったんだね?」
「…………え?」
すると、ふと笑顔のままそう問い掛ける藍李。そんな彼女に、僕は――
「……いや、そういうわけじゃ……」
そう、たどたどしく呟く。だけど、もう手遅れ。彼女は続けて――
「……別に、高いわけでもない……と言うか、わりと安いし、買ったほうが早かっただろうに」
「……そんなの、お金がもったいないし……」
「それが理由? これでも、あたしは琉人のことをわりと知ってるつもりだけど――どうせ、あたしのためにわざわざ買ってくれたなんて思われたくないから、わざわざ頑張って福引きで当てようとしたんだよね? たまたま当たっただけだから、って言い張るために」
「…………いや、僕は別に……」
「それにしても、そんなの福引きで当てたことにして普通に買えばもっと楽だっただろうに……意地でも福引きで当てようってのが、ほんと琉人らしいよね」
「…………」
そう、確信的な笑顔で告げる。……うん、もうダメ。と言うか、僕なんかが藍李を騙そうなんていうのがそもそも無謀なことで……まあ、それでもせめて口には出さないけれど。
……まあ、それはともあれ。
「……まあ、そういうことならこれは……ん?」
そういうことなら、これはいらないよね――そう、内心ガッカリしつつ引っ込めようとした僕の手をさっと留める藍李。……えっと、どうしたの――
「えっ、これはもらうよ? だって、折角琉人があたしのために頑張って手に入れてくれたんだもん。あたしのために」
「……いや、でも藍李はもう自分で――」
「うん、だから――はい、これ。琉人のプレゼントをもらう代わりに、あたしが琉人にこれをプレゼントするから――」
「……えっと」
そう言って、徐に僕の手からぬいぐるみを受け取る藍李。そして、僕にこれ――彼女自身が買ったという、全く同じぬいぐるみを手渡す。そして――
「――ちゃんと大切にしてね、琉人?」
――そう、花も恥じらう笑顔で言った。
ある平日の放課後。
そう、深く瞑想しながら精神統一をする。そんな僕の前には、もうお馴染みの抽選機。そして――
「――よう、兄ちゃん。今日も来てくれたんだな」
そう、いつもながらの快活な笑顔で話すお馴染みのおじさん。だけど、今日はいつもよりいっそう明るく……そして、何処か寂しそうにも見えて――
……いや、でも今は気にしてる場合じゃないか。僕だって、何としても今日は引き当てなきゃならないわけだし。今日は……今日こそは、絶対に――
「――あちゃー、残念だったな兄ちゃん」
それから、数分経て。
そう、朗らかに笑いつつティッシュを差し出すおじさん。僕は感謝を告げつつも、内心は緊張に押し潰されそうで。
……まずい、あと一回――正真正銘、これが最後の一回で。と言うのも、僕の手持ちはあと一枚。そして――今日がこの抽選会、最後の日だから。
震える手で、最後の一枚を手渡す。そして、更に震える手で抽選機のレバーを回す。……どうか、どうか奇跡よ――
――コロン。
「…………え」
「――どしたの? 琉人。突然、こんなところに呼び出して……あ、もしかして――」
「いや告白じゃなくて!!」
「あははっ、まだ何にも言ってないよ?」
「……ぐっ」
翌日、放課後にて。
そう、いつもながらの悪戯な笑顔で話す藍李。今、僕らがいるのは体育館の裏――うん、なんでこんなとこに呼び出しちゃったんだろうね。よくよく考え……いや、よくよく考えなくても、普通に帰り道で良かったはずなのに。
まあ、今さら後悔しても仕方がない。バレないようどうにか緊張を抑えつつ、ゆっくりと口を開いて――
「……あの、藍李……これ」
そう、後ろに隠していた両手を差し出し告げる。そんな僕の手には、少し長めのぬいぐるみ――以前、藍李が欲しいと言っていた白いウーパールーパーのぬいぐるみが。……まあ、普通に見えてたかもしれないけど。
「……その、僕は1等を狙ってたんだけど、4等のそれが当たっちゃって。それで、まあ、僕が持っててもしょうがないし、良かったらって思って……」
続けて、何ともたどたどしい口調で告げる僕。……うん、ほんと帰り道で良かったよね。なんでわざわざ、こんな改まったシチュエーションを用意しちゃっ――
「……ふふっ」
「……? 藍李?」
すると、ふと正面から届く笑い声。まあ、我ながら滑稽だと思うし致し方な――
「――実は、あたしも持ってるんだよね、それ。少し前に、福引きで当たっちゃって」
「…………へっ?」
すると、思いも寄らない言葉。……へっ? 持ってたの? と言うか、いつの間に――
「少し前、近所のおじさんに券を一枚もらっちゃって。それで、折角だしダメ元で引いてみたら、なんか当たっちゃった」
「…………そ、そうなんだ……良かったね」
そう、ニコッと笑い話す藍李。そして、そんな彼女の説明に、ガクリと膝から崩れ落ちる僕。……いや、良いんだけどね。良いことなんだけど……でも、こうなると僕はいったい何のために――
「――まあ、冗談だけど。ほんとは、昨日普通に買ったの。雑貨屋さんで」
「…………へっ?」
すると、倒れ込む僕に嬉々として告げる藍李。いや何の冗談!? ほんと、びっくりさせないで……いや、でも同じか。いずれにせよ、僕のしたことは全くの無意――
「……でも、その様子だと――やっぱり、あたしのためだったんだね?」
「…………え?」
すると、ふと笑顔のままそう問い掛ける藍李。そんな彼女に、僕は――
「……いや、そういうわけじゃ……」
そう、たどたどしく呟く。だけど、もう手遅れ。彼女は続けて――
「……別に、高いわけでもない……と言うか、わりと安いし、買ったほうが早かっただろうに」
「……そんなの、お金がもったいないし……」
「それが理由? これでも、あたしは琉人のことをわりと知ってるつもりだけど――どうせ、あたしのためにわざわざ買ってくれたなんて思われたくないから、わざわざ頑張って福引きで当てようとしたんだよね? たまたま当たっただけだから、って言い張るために」
「…………いや、僕は別に……」
「それにしても、そんなの福引きで当てたことにして普通に買えばもっと楽だっただろうに……意地でも福引きで当てようってのが、ほんと琉人らしいよね」
「…………」
そう、確信的な笑顔で告げる。……うん、もうダメ。と言うか、僕なんかが藍李を騙そうなんていうのがそもそも無謀なことで……まあ、それでもせめて口には出さないけれど。
……まあ、それはともあれ。
「……まあ、そういうことならこれは……ん?」
そういうことなら、これはいらないよね――そう、内心ガッカリしつつ引っ込めようとした僕の手をさっと留める藍李。……えっと、どうしたの――
「えっ、これはもらうよ? だって、折角琉人があたしのために頑張って手に入れてくれたんだもん。あたしのために」
「……いや、でも藍李はもう自分で――」
「うん、だから――はい、これ。琉人のプレゼントをもらう代わりに、あたしが琉人にこれをプレゼントするから――」
「……えっと」
そう言って、徐に僕の手からぬいぐるみを受け取る藍李。そして、僕にこれ――彼女自身が買ったという、全く同じぬいぐるみを手渡す。そして――
「――ちゃんと大切にしてね、琉人?」
――そう、花も恥じらう笑顔で言った。
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