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福引きとプレゼント
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「…………ふふっ」
燦然と星の輝く、ある夜のこと。
夕食と入浴を終え、ベッドにうつ伏せになりながら声を洩らす。我ながら、ちょっと気持ち悪い笑い声を。
でも、仕方ないよね。だって……そんな思考の中、あたしは今日の出来事――そして、昨日目にしたあの光景を思い出す。彼が、見事1等を引き当てたらしいあの光景を。
『おお、おめでとう兄ちゃん! ほら、景品の藤崎テーマパーク年間特別招待ペアチケットだ』
昨日の夕さり頃。
カランカランカランカラン――そんなハンドベルの音と共に、わりと遠くからでも聞こえるほど大きく明るい声でそう告げる男性。そして、今まさに祝福を受けている兄ちゃんとは、紛うことなきあたしのよく知る男の子で。
……そっか、当たったんだ。良かったね、琉人。ずっと、頑張ってたもんね。何をどう頑張ってたかは全然知らないけど、ずっと頑張ってたもんね。……これで、あの子を誘え――
『…………へっ?』
直後、一人ポカンとするあたし。いや、だって……遠目からでも分かるくらい、あたしの視界には予想だにしない光景が広がって――
その後、ほどなく琉人の姿が見えなくなったのを確認し抽選所の方へと近づく。そして、例のハチマキのおじさんに先ほどの光景について尋ねてみると――
『……ん? ひょっとして、あの兄ちゃんの知り合いかい? 姉ちゃん。いやーさっきは驚いたよ。折角1等が当たったってのに、4等のぬいぐるみと交換してほしいなんて言い出すもんだから。それも、別に限定品でもない、確かこの近くの雑貨屋にも置いてるような品物なのにな。まあ、俺からすれば断る理由もねえんだけどな』
そう、快活な笑顔で話すおじさん。そこに琉人を馬鹿にしたような様子はなく、言葉の通りただただ純粋に驚いているようで。そして、それを聞いた私は――
『……ん? どうしたんだ姉ちゃん? 随分、嬉しそうな表情して』
「――ほら、もう7時半よ。起きなさい藍李」
「うーん、あと5時間」
「せめてあと5分と言いなさい」
翌朝、自室にて。
寝ぼけ眼を擦りつつ、徐に身体を起こす。すると、視界に映るは呆れたようなお母さんの表情。まあ、あと5時間も寝てたら遅刻どころの騒ぎじゃないしね。
「…………あら」
ふと、ポカンと口を開くお母さん。そんなお母さんの視線は、布団をはがしたあたしの胸元――正確には、そこに抱きかかえられたぬいぐるみへと向けられていて。そして、少し間があった後、お母さんは暖かな微笑を浮かべて言った。
「――あら、お気に入りが変わったのね、藍李」
燦然と星の輝く、ある夜のこと。
夕食と入浴を終え、ベッドにうつ伏せになりながら声を洩らす。我ながら、ちょっと気持ち悪い笑い声を。
でも、仕方ないよね。だって……そんな思考の中、あたしは今日の出来事――そして、昨日目にしたあの光景を思い出す。彼が、見事1等を引き当てたらしいあの光景を。
『おお、おめでとう兄ちゃん! ほら、景品の藤崎テーマパーク年間特別招待ペアチケットだ』
昨日の夕さり頃。
カランカランカランカラン――そんなハンドベルの音と共に、わりと遠くからでも聞こえるほど大きく明るい声でそう告げる男性。そして、今まさに祝福を受けている兄ちゃんとは、紛うことなきあたしのよく知る男の子で。
……そっか、当たったんだ。良かったね、琉人。ずっと、頑張ってたもんね。何をどう頑張ってたかは全然知らないけど、ずっと頑張ってたもんね。……これで、あの子を誘え――
『…………へっ?』
直後、一人ポカンとするあたし。いや、だって……遠目からでも分かるくらい、あたしの視界には予想だにしない光景が広がって――
その後、ほどなく琉人の姿が見えなくなったのを確認し抽選所の方へと近づく。そして、例のハチマキのおじさんに先ほどの光景について尋ねてみると――
『……ん? ひょっとして、あの兄ちゃんの知り合いかい? 姉ちゃん。いやーさっきは驚いたよ。折角1等が当たったってのに、4等のぬいぐるみと交換してほしいなんて言い出すもんだから。それも、別に限定品でもない、確かこの近くの雑貨屋にも置いてるような品物なのにな。まあ、俺からすれば断る理由もねえんだけどな』
そう、快活な笑顔で話すおじさん。そこに琉人を馬鹿にしたような様子はなく、言葉の通りただただ純粋に驚いているようで。そして、それを聞いた私は――
『……ん? どうしたんだ姉ちゃん? 随分、嬉しそうな表情して』
「――ほら、もう7時半よ。起きなさい藍李」
「うーん、あと5時間」
「せめてあと5分と言いなさい」
翌朝、自室にて。
寝ぼけ眼を擦りつつ、徐に身体を起こす。すると、視界に映るは呆れたようなお母さんの表情。まあ、あと5時間も寝てたら遅刻どころの騒ぎじゃないしね。
「…………あら」
ふと、ポカンと口を開くお母さん。そんなお母さんの視線は、布団をはがしたあたしの胸元――正確には、そこに抱きかかえられたぬいぐるみへと向けられていて。そして、少し間があった後、お母さんは暖かな微笑を浮かべて言った。
「――あら、お気に入りが変わったのね、藍李」
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