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萌芽
奏多先生
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「――おはよう、暖斗くん! はい、今日のお弁当。今日もたくさん栄養つけて頑張ってね!」
「……おはようございます、奏多先生。ですが、いつも言っていますけど、僕なんかにこのような勿体ない施しをしてくださる必要などありません。……それに、そもそも僕は……」
疎らな雲が空を漂う、少し肌寒い朝のこと。
扉から少し離れた辺りにて、何とも晴れやかな笑顔でそう告げる女性。彼女は早霧奏多さん――およそ一年前まで、ここ児童養護施設にて保育士を務めていた20代半ばの鮮麗な女性で。
そして、そんな彼女とは対照的に何とも愛想のない返事をする僕。だけど、そんな可愛げも何もない僕にも彼女は気にした様子もなく優しく微笑んでくれて。……ところで、それはそれとして……どうにも、一つ大きな問題があって――
「……うん、分かってる。暖斗くんが、私に――そもそも、女性に対しどうにもならないほどの嫌悪を抱いていることは。でも、申し訳ないけどこれを止めるつもりもない。だって――」
すると、淡く微笑みそう口にする奏多先生。それからややあって、花のような笑顔で真っ直ぐに告げる。
「――だって……君にはいつか、必ず私のことを好きになってもらうから!」
「……あっ、おはよう暖斗くん! その、今日は――」
「――うん、おはよう藤野さん。それじゃ」
「……あ」
それから、数十分後。
そう、控えめに声を掛ける女の子。彼女は藤野琴水さん――僕の三つ歳下の、きっと一般的にはいわゆる庇護欲をそそられるタイプの可愛い女の子で。だけど、そんな彼女にすら淡泊に答え去っていく僕。我ながら、そしていつもながら愛想も何もない。そして、きっとこの後に――
「もう放っときなよ、あんなヤツ」
「……でも」
「そうそう、流石に感じ悪すぎでしょ。みんなに対してだけど、女子には特に」
「あいつ、あれじゃない? 最近よく聞く女性蔑視、みたいな」
「うっわ、最悪。ほんと、さっさと出てってくんないかな、施設から」
ややあって、耳に届いたのは藤野さんを含めた数人の女子による会話。どうやら、誰かの悪口を言っているようだけれど……まあ、そうなるよね。そんなふうに言われる態度を取ってる自覚はあるし。なのに、未だに僕のことを悪く言おうとしない藤野さんの方が珍しいくらいで……うん、奏多先生といい、彼女もほんと人が好すぎる。そんな二人にすら嫌悪感は拭えないという、ほんとどうしようもない僕だけど、それでも幸せになってほしいとは思う。
ところで、この状況についての大まかな経緯なのだけども――僕、比良暖斗はおよそ二年前、15歳の頃にとある事情でここ児童養護施設に預けられ、今に至るまでお世話になっているわけで……うん、大まかにもほどがあるね。ほぼ説明するまでもないくらいに。
ともあれ、そこで知り合ったのが当時保育士を務めていた鮮麗な女性、早霧奏多さんで。当時から愛想なんてまるでなかった僕に、それでもいつも朗らかな笑顔で声を掛け、いつも気に掛けてくれて……ほんと、人が好いにもほどがある。
だけど、僕の入所から一年ほど経過したある日のこと――卒然、奏多先生が退職し施設を去っていくことに。明るく優しい保育士さんとの突然のお別れに、当然のことみんなが悲しんだ。……まあ、僕を除いて、という話ではあるけれど。
……だけど、それ以上に驚いたのが――なんと、施設を去って以降、たびたび僕にその種のアプローチを掛けてきて。突然とは言え、退職に関しては何かしら退っ引きならない事情があったにしても……うん、接近は全く以て分からなくて。……それでも、一つ分かることがあるとすれば……うん、本当にすごく困る。
「……おはようございます、奏多先生。ですが、いつも言っていますけど、僕なんかにこのような勿体ない施しをしてくださる必要などありません。……それに、そもそも僕は……」
疎らな雲が空を漂う、少し肌寒い朝のこと。
扉から少し離れた辺りにて、何とも晴れやかな笑顔でそう告げる女性。彼女は早霧奏多さん――およそ一年前まで、ここ児童養護施設にて保育士を務めていた20代半ばの鮮麗な女性で。
そして、そんな彼女とは対照的に何とも愛想のない返事をする僕。だけど、そんな可愛げも何もない僕にも彼女は気にした様子もなく優しく微笑んでくれて。……ところで、それはそれとして……どうにも、一つ大きな問題があって――
「……うん、分かってる。暖斗くんが、私に――そもそも、女性に対しどうにもならないほどの嫌悪を抱いていることは。でも、申し訳ないけどこれを止めるつもりもない。だって――」
すると、淡く微笑みそう口にする奏多先生。それからややあって、花のような笑顔で真っ直ぐに告げる。
「――だって……君にはいつか、必ず私のことを好きになってもらうから!」
「……あっ、おはよう暖斗くん! その、今日は――」
「――うん、おはよう藤野さん。それじゃ」
「……あ」
それから、数十分後。
そう、控えめに声を掛ける女の子。彼女は藤野琴水さん――僕の三つ歳下の、きっと一般的にはいわゆる庇護欲をそそられるタイプの可愛い女の子で。だけど、そんな彼女にすら淡泊に答え去っていく僕。我ながら、そしていつもながら愛想も何もない。そして、きっとこの後に――
「もう放っときなよ、あんなヤツ」
「……でも」
「そうそう、流石に感じ悪すぎでしょ。みんなに対してだけど、女子には特に」
「あいつ、あれじゃない? 最近よく聞く女性蔑視、みたいな」
「うっわ、最悪。ほんと、さっさと出てってくんないかな、施設から」
ややあって、耳に届いたのは藤野さんを含めた数人の女子による会話。どうやら、誰かの悪口を言っているようだけれど……まあ、そうなるよね。そんなふうに言われる態度を取ってる自覚はあるし。なのに、未だに僕のことを悪く言おうとしない藤野さんの方が珍しいくらいで……うん、奏多先生といい、彼女もほんと人が好すぎる。そんな二人にすら嫌悪感は拭えないという、ほんとどうしようもない僕だけど、それでも幸せになってほしいとは思う。
ところで、この状況についての大まかな経緯なのだけども――僕、比良暖斗はおよそ二年前、15歳の頃にとある事情でここ児童養護施設に預けられ、今に至るまでお世話になっているわけで……うん、大まかにもほどがあるね。ほぼ説明するまでもないくらいに。
ともあれ、そこで知り合ったのが当時保育士を務めていた鮮麗な女性、早霧奏多さんで。当時から愛想なんてまるでなかった僕に、それでもいつも朗らかな笑顔で声を掛け、いつも気に掛けてくれて……ほんと、人が好いにもほどがある。
だけど、僕の入所から一年ほど経過したある日のこと――卒然、奏多先生が退職し施設を去っていくことに。明るく優しい保育士さんとの突然のお別れに、当然のことみんなが悲しんだ。……まあ、僕を除いて、という話ではあるけれど。
……だけど、それ以上に驚いたのが――なんと、施設を去って以降、たびたび僕にその種のアプローチを掛けてきて。突然とは言え、退職に関しては何かしら退っ引きならない事情があったにしても……うん、接近は全く以て分からなくて。……それでも、一つ分かることがあるとすれば……うん、本当にすごく困る。
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