短編集〜現代文学〜

暦海

文字の大きさ
2 / 12
萌芽

理由

しおりを挟む
「――おはよ、暖斗はるとくん! 今日も――」


 それから、数日経て。
 扉から少し離れた辺りで、今日も今日とて晴れやかな笑顔で挨拶をしてくれる鮮麗な女性。そして、その手にはいつもの通りランチクロスに包まれた長方形の……あの、いつも言ってますけどほんとに結構ですよ? ご存知かと思いますが、ちゃんと食事出ますし、施設ここ


「――それでさ、暖斗くん。今度こそどっか遊びに行こうよ。もちろん、お金は私が全部持つから!」
「……いえ、その、結構です」

 すると、心持ち距離を詰めそう口にする奏多かなた先生。そんな彼女に、たどたどしい口調で断る僕。……いえ、その、結構です。そもそも、僕と遊びにいくなんてこと自体、誰にとっても罰ゲームでしかないはずなのにその上お金まで全部持つなんて、それではあまりに彼女が不憫で――

 ……いや、こんなのはただの口実。ただ、僕の気が進まないから。明け透けに言えば、ただ嫌だから断わっているだけで。 

 ……ほんと、なんでここまで……もしかして、僕に哀れんで? いや、哀れんでいるとしても……でも、だからってここまでするだろうか? だって、僕が受けたような被害は決して僕特有のものじゃない。似たような被害に遭った人は、きっとこの施設だけでも少なからずいる。そもそも、事情は違えどここにいる子達はそれぞれに苦痛を抱えているはず。そういう意味でも、やはり僕だけを特別扱いする理由には到底ならない。……だとしたら、本当に僕のことを――

 ……いや、それはない。それは、僕なんかを好きになるはずがない、と言うのもあるけれど……何より、その晴れやかな笑顔の中に――





「…………ふぅ」


 ある日の夕方の頃。
 敷地内に在する小さな中庭のベンチにて、ただぼんやりと空を眺める。視界には茜が一面に広がり、微かな風が優しく頬を撫でる。こんな何でもない時間が、何故かとても心地が好い。……もう、このままずっと――


「……あの、暖斗くん。なんか、暖斗くんにお客さんが来てるみたいなんだけど……」
「……お客さん?」

 すると、ふと姿を現したのは藤野ふじのさん。どうやら、僕に言伝を頼まれここに来てくれたみたいだけど……お客さん? 僕に? 奏多先生――うん、じゃないよね。だとしたら、お客さんなんて言い方はしないはずだし。

 ともあれ、藤野さんに感謝を告げ施設内のリビングへと少し駆け足で向かう。……うん、ほんと誰だろ。


「――こんにちは、君が比良ひら暖斗くんだね」
「……へっ? あっ、はい……」

 その後、ややあってリビングに到着。すると、そこにいたのはスーツ姿の秀麗な男性。清潔感があり、見るからにとても仕事のできそうな人で。……ただ、それはともあれ……えっと、どちらさま? 僕に、こんな美男子の知り合いなんて――

「――初めまして、僕は桐島きりしま文哉ふみや。突然のことで申し訳ないけれど……それでも、熟考を重ねた結果、君には話さなければならないと思いここに来たんだ。この施設の元保育士、早霧さぎり奏多についてね」

「…………へっ?」









  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...