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恵まれた僕の責務
責務
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『――ねえ、京馬。いつか、私の身体が治ったら絶対ここに行こうね!』
『うん、お姉ちゃん! 僕、絶対立派なお医者さんになる! それで、絶対お姉ちゃんを治してあげるから!』
『うん、ありがと京馬!』
あれは、もう10年以上も前のこと。
小物やぬいぐるみに溢れた可愛いお部屋で、分厚い本のページ一面に広がる1枚の写真を見ながらそんなやり取りを交わす僕ら。当時12歳の姉さんと、5歳の僕の2人で。
さて、その写真とはテカポ湖の星空――太平洋の南西に浮かぶ島国ニュージーランドで見られる、世界一綺麗と称されている星空で。煌々と輝く満天の夜空、湖畔に咲くルピナスの花、素朴な羊飼いの教会――それら全てが優しく溶け合う幻想のようなその世界に、いつか2人で行こうと約束した。そんなあの頃の2人を写真にでも写していたら、そこには眩いほどに輝く笑顔があったのだろう。きっともう、並んで見ることの叶わない2つの笑顔が。
「……あ、それは私が――」
「ああ、良いのよ香織。貴女は病気なんだから、ゆっくり休んでて良いの。ほら、京馬」
「……うん、母さん」
中学2年生の、ある休日のこと。
ゆっくりとした足取りでバケツの方へと近づく姉さんを止めつつ、僕に視線を向けそう口にする母さん。もちろん、皆まで言わずとも分かる。僕は軽く頷き、バケツに掛かった雑巾を2枚持って窓へと向かう。無論、不服なんてない。一応は家族の一員なのだから、出来る範囲で家事を担当するのは当然の話で。
そして、僕だけがするのも当然――生来病気を抱えた可哀想な姉さんでなく、健全な身体で生を享けたこの恵まれた僕が彼女の分も担当するのも、これまた至極当然のお話で。
――あれは、小学生になって間もない頃のこと。
『――なあ、京馬。お前ももう、小学生なったんだ。だから、これからは人に甘えてばかりじゃなく、人を助けなきゃいけないんだ。香織のような、生まれつき病気を抱えた不遇な人をな』
『そうよ、京馬。それが、あんたのように何の問題もなく健全な身体で生まれた、恵まれた人の責務なの。分かるわよね、京馬?』
ある春の日のこと。
夕食を終えた後、話があるからと1人リビングに呼ばれた僕。そして、そこで両親から告げられた言葉。
僕の7つ歳上の姉、香織は生来難病を抱えていた。そんな不遇な姉さんを、健全者――つまりは、恵まれた僕が今後はしっかりと支え助けるようにとのことで。それが、恵まれた人間の紛うことなき責務なのだと。
「……その、ごめんね京馬。私のせいで、京馬が怒られて……」
「……ううん、姉さんのせいじゃない。だから、謝らないで」
ある休日の夕さり頃。
リビングにて、言葉の通り甚く申し訳なさそうに謝意を述べる姉さん。でも、姉さんが謝る必要なんてどこにもない。悪いのは、紛れもなく僕なのだから。
『――なにしてんのよ京馬! 香織にこんな怪我なんてさせて! なんのためにあんたが付いてんのよ!』
数十分ほど前のこと。
そう、烈火のごとく怒りを露わにする母さん。と言うのも――さっきまで2人で一緒に買い物に行っていたのだけど、僕が車椅子の操縦を過って姉さんを転ばせてしまって。
『……そもそも、無理言ってついて行ったのは私なんだし……それに、あれは急に飛び出してきた車を避けるために……だから、京馬に感謝こそすれ怒るなんてどう考えてもおかしいよ』
すると、少し怒った様子で告げる姉さん。だけど、姉さんが怒る必要も、申し訳なく思う必要も全くない。全ては、僕の責任――恵まれてる身でありながら、貴女を護れなかった僕の責任なんだから。
『うん、お姉ちゃん! 僕、絶対立派なお医者さんになる! それで、絶対お姉ちゃんを治してあげるから!』
『うん、ありがと京馬!』
あれは、もう10年以上も前のこと。
小物やぬいぐるみに溢れた可愛いお部屋で、分厚い本のページ一面に広がる1枚の写真を見ながらそんなやり取りを交わす僕ら。当時12歳の姉さんと、5歳の僕の2人で。
さて、その写真とはテカポ湖の星空――太平洋の南西に浮かぶ島国ニュージーランドで見られる、世界一綺麗と称されている星空で。煌々と輝く満天の夜空、湖畔に咲くルピナスの花、素朴な羊飼いの教会――それら全てが優しく溶け合う幻想のようなその世界に、いつか2人で行こうと約束した。そんなあの頃の2人を写真にでも写していたら、そこには眩いほどに輝く笑顔があったのだろう。きっともう、並んで見ることの叶わない2つの笑顔が。
「……あ、それは私が――」
「ああ、良いのよ香織。貴女は病気なんだから、ゆっくり休んでて良いの。ほら、京馬」
「……うん、母さん」
中学2年生の、ある休日のこと。
ゆっくりとした足取りでバケツの方へと近づく姉さんを止めつつ、僕に視線を向けそう口にする母さん。もちろん、皆まで言わずとも分かる。僕は軽く頷き、バケツに掛かった雑巾を2枚持って窓へと向かう。無論、不服なんてない。一応は家族の一員なのだから、出来る範囲で家事を担当するのは当然の話で。
そして、僕だけがするのも当然――生来病気を抱えた可哀想な姉さんでなく、健全な身体で生を享けたこの恵まれた僕が彼女の分も担当するのも、これまた至極当然のお話で。
――あれは、小学生になって間もない頃のこと。
『――なあ、京馬。お前ももう、小学生なったんだ。だから、これからは人に甘えてばかりじゃなく、人を助けなきゃいけないんだ。香織のような、生まれつき病気を抱えた不遇な人をな』
『そうよ、京馬。それが、あんたのように何の問題もなく健全な身体で生まれた、恵まれた人の責務なの。分かるわよね、京馬?』
ある春の日のこと。
夕食を終えた後、話があるからと1人リビングに呼ばれた僕。そして、そこで両親から告げられた言葉。
僕の7つ歳上の姉、香織は生来難病を抱えていた。そんな不遇な姉さんを、健全者――つまりは、恵まれた僕が今後はしっかりと支え助けるようにとのことで。それが、恵まれた人間の紛うことなき責務なのだと。
「……その、ごめんね京馬。私のせいで、京馬が怒られて……」
「……ううん、姉さんのせいじゃない。だから、謝らないで」
ある休日の夕さり頃。
リビングにて、言葉の通り甚く申し訳なさそうに謝意を述べる姉さん。でも、姉さんが謝る必要なんてどこにもない。悪いのは、紛れもなく僕なのだから。
『――なにしてんのよ京馬! 香織にこんな怪我なんてさせて! なんのためにあんたが付いてんのよ!』
数十分ほど前のこと。
そう、烈火のごとく怒りを露わにする母さん。と言うのも――さっきまで2人で一緒に買い物に行っていたのだけど、僕が車椅子の操縦を過って姉さんを転ばせてしまって。
『……そもそも、無理言ってついて行ったのは私なんだし……それに、あれは急に飛び出してきた車を避けるために……だから、京馬に感謝こそすれ怒るなんてどう考えてもおかしいよ』
すると、少し怒った様子で告げる姉さん。だけど、姉さんが怒る必要も、申し訳なく思う必要も全くない。全ては、僕の責任――恵まれてる身でありながら、貴女を護れなかった僕の責任なんだから。
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