どういうわけか源氏物語の世界に迷い込んだ私ですが……とにかく、幸せになるべく奮闘します!

暦海

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再結成?

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「…………はぁ」
「ん、如何なさいましたかむらさききみさま」
「ううん、何でもない」


 それから、数週間経て。  
 どこか寂しげな秋風の吹く海を眺めながら、そっと溜め息をつく私。そして、そんな私に不思議そうな表情かおで問う端正な青年。そんな私達がいるのは、須磨の浦――とある騒動により、京都みやこを離れた源ちゃんが一時的に住んでいた場所で。

 ……いや、なんで油断してたんだろ。ちょっと考えれば分かったよね……あの神様が、そんな悠長な時間を与えてくれるはずないって。なにせ、あの翌朝には既に手遅れ……なので、正確にはげんちゃんの須磨行きが決まってから数週間経たということで――

 ……ところで、もう随分と慣れてしまった私ではあるが……いや、流石に今回は戸惑いましたよ。だって、成長の幅がハンパないもん。現代むこうだと、昨日までランドセル背負しょってたのに今日覚めたらなんか成人になってるくらいの……うん、義務教育どこいった?


 ともあれ、起きてしまったことは仕方がない。……いや、仕方がないこともないけど……まあ、何を言ったところで何も変わんないし。なので――


「――さて……こうしてコンビを組むのも久しぶりだけど宜しくね、惟光これみつくん」
「……えっと、きみさま。その、申し訳ありませんが……コンビを組むなど、私の記憶には――」
「ああううん、何でもないの!」
「……?」

 あの頃――藤壺ふじつぼとしてコンビを組んでたあの頃から随分と成長した青年、惟光へそう伝えるもキョトンとした表情で返事が届く。……そっか、そりゃそうだよね。そうなんだけど……うん、やっぱり淋しいなぁ。


 まあ、そんな感傷はさて措き――今回、彼に協力してもらったのは例により邸宅やしきからの外出、そして須磨への案内。そして、先の二件――空蝉うつせみ六条ろくじょうさんの時とは違い、今回はこれといった策もない。ただ、逢いに行くだけ――ただ、紫の上わたしげんちゃんに逢いに行くだけ。彼女と――明石あかしきみとはまだ逢っていないだろうし、きっとそれだけで十分だと思う。

 ところで、実際のところ二人の――源ちゃんと明石の君の逢瀬を防ぐ必要があるのかと言えば、これと言って別に……と言うか、むしろ紫の上かのじょにとっても最終的には良かったのかもしれない。

 ――だけど、それはあくまで本物の紫の上かのじょの場合。よもや、夫が別の女との間に儲けた子であっても心から愛せる彼女の場合であり、帆弥わたしにはまず無理だろう。


 ところで、ついでと言うにはあまりに不謹慎な話だけど――この壮大な時短の間に、あおいうえは帰らぬ人となってしまった。……まあ、そうなるよね。なにせ、藤壺の頃の行動が全てなかったことになっ……いや、でもどの道かも。今思えば、やっぱり抑え切れなかった気もするし。


 ……それに、帰らぬ人と言えば、他にも――


「……あの、大丈夫ですか君さま」
「……へっ? あ、ごめん大丈夫大丈夫!」
「……でしたら、良いのですが」

 そんな思考の中、不意に届いた心配そうな声で我に返る。すると、声音に違わぬ心配そうな表情の惟光。そんな彼に、少し慌てて答え……うん、今は切り替えなきゃね。


「……ところで、改めてありがとね惟光くん。いろいろ頼んじゃったのもだけど……本当は源ちゃ――光君ひかるきみと一緒に行きたかったはずなのに」
「いえ、ご心配には及びません君さま。確かに、私は光君にお供することを切に望んでおりましたが――他でもない君さまが、光君に逢いに行きたいと仰っているのです。それは、光君にとって最も喜ばしいこと……微力ながらも、私がお力添えしないはずはありません」
「……うん、ありがとう惟光くん」

 ともあれ――改めて感謝を伝えると、軽く首を振りつつ恭しく答える惟光。本作にて源ちゃんが須磨へ向かう際、本当に近しいお供の人達を数人だけ連れて行ったのだけど、当然ながら惟光もその一人に含まれていて。

 だけど、私の事情でどうにかこうにか京都みやこに残ってもらった。そして、数週間ほど要したものの、どうにか私が邸宅やしきを出ていく手筈も整えてくれて……うん、ほんと感謝しかないよね。

「……あの、ところで君さま。その、今更ではあるのですが……本当に、差し障りないのでしょうか?」
「……ああ、そのことね」

 すると、少し躊躇うような口調で尋ねる惟光。なかなかに漠然とした質問といだけど、何のことかは容易く察せられる。と言うのも――たった一夜のみだった先の二件とは違い、今回はそれなりの期間を要する。――即ち、それなりの期間、紫の上わたしが何処にもいないという異常事態が発生してしまうわけで。

 だけど、もちろんそこは抜かりない。私とて、そこまで考えなしじゃない。そういうわけで――甚く不安そうな彼へ、花の咲く笑顔で告げた。


「――うん、それこそ心配に及ばないよ惟光くん。ちゃんと、身代わりをおいてきたから」
「誰を!?」





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