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吉凶の行方
吉凶の行方
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「――昨日も素敵な夜だったね、姫君。去ってしまうのは誠に名残惜しいが、今宵……今宵こそは必ず逢いに来るよ。そして、今度こそ夫婦の契りを結ぼう」
「ええ、中納言さま。心よりお待ちしております」
それから、一週間ほど経て。
上空に広がる仄かな青が目を惹く夜明けの頃、穏やかに微笑みそうお告げになる中納言さま。物忌みの期間を終え、こうして再び私の下を訪れてくださっているわけでして。
……それにしても、ありがたいものです。これほどの期間、不運にも婚姻を阻まれ続けているというのに……それでも、まるで愛想を尽かすことなくずっと通ってくださっていて。従者に対する扱いはお世辞にも褒められたものではありませんが、私へのその真摯な想いは甚だ感謝に値するものでしょう。どうか、今後とも変わらないでいてほしいと願うばかりです。
「――本日もお疲れさま、四条。恩に着ます」
「……はぁ、大変恐縮です」
冴え冴えと佳月の照らす、その日の宵の頃。
縁側にて、澄んだ空気に身を委ねつつ感謝の意を伝えるも、何とも呆れたような表情で答える可憐な少女。彼女は四条――私と同じ10代半ばの少女で、幼少より私に仕えてくださっている大切な従者です。……まあ、毎度のことですし嫌になるのも尤もですが……それでも、可愛い従者からのその反応は流石に悲しいものがありますね。
ですが、そんな私の心中を余所に再度溜め息を吐く四条。そして、徐に口を開き――
「……全く、もう幾度も申していますが……本来、決して許されることではないのですよ? 本来、神さまに委ねるべき吉凶の行方を人為的に操るなど」
そう、呆れたように言う四条。さて、何のお話かと言うと――なんと、彼女は神さま以外には決して決められないはずの吉凶の行方を操ることが可能で。尤も、どうしてそのような奇怪な能力を宿しているのかは彼女自身も不明なようですが……まあ、理由など分からずとも一向に構いません。そのような奇怪な、素晴らしい能力を宿しているという事実そのものが重要なのですから。
そして、本日もお願いし操作していただきました。なにせ、本日は三日目――結婚成立となってしまうこの夜に、中納言さまがお越しになることがあってはなりませんから。そして、その理由は――
――トントン。
すると、控えめに扉を叩く音。……どうやら、お越しになったようですね。そっと立ち上がり廊下を進み、ほどなく扉の前へ。そして徐に扉を開くと、そこには――
「……大変申し訳ありません、姫さま。本日も、物忌みにて中納言さまは参ることが叶わず……」
そう、例の如く甚く申し訳なさそうに告げる秀麗な男性のお姿が。そんな彼に、そっと首を横に振る私。そして――
「いえ、謝罪の必要などありません。今宵も遠路遥々お疲れさま、朝霧さん。それで、またしばらく中納言さまの下へは戻れないの?」
「……はい、姫さま」
「……そう、それはお気の毒ね」
そう問うと、淡く微笑みお答えになる朝霧さん。いつもながら、本当にお気の毒なこと。そんな可愛そうで可愛い彼へと手を伸ばし、その綺麗な頬へそっと手を添える。そして、些か表情の強張る彼へと微笑み囁くように言葉を紡ぎます。
「――それでは、どうぞこちらへ。今宵も、素敵な時間を過ごしましょう」
「ええ、中納言さま。心よりお待ちしております」
それから、一週間ほど経て。
上空に広がる仄かな青が目を惹く夜明けの頃、穏やかに微笑みそうお告げになる中納言さま。物忌みの期間を終え、こうして再び私の下を訪れてくださっているわけでして。
……それにしても、ありがたいものです。これほどの期間、不運にも婚姻を阻まれ続けているというのに……それでも、まるで愛想を尽かすことなくずっと通ってくださっていて。従者に対する扱いはお世辞にも褒められたものではありませんが、私へのその真摯な想いは甚だ感謝に値するものでしょう。どうか、今後とも変わらないでいてほしいと願うばかりです。
「――本日もお疲れさま、四条。恩に着ます」
「……はぁ、大変恐縮です」
冴え冴えと佳月の照らす、その日の宵の頃。
縁側にて、澄んだ空気に身を委ねつつ感謝の意を伝えるも、何とも呆れたような表情で答える可憐な少女。彼女は四条――私と同じ10代半ばの少女で、幼少より私に仕えてくださっている大切な従者です。……まあ、毎度のことですし嫌になるのも尤もですが……それでも、可愛い従者からのその反応は流石に悲しいものがありますね。
ですが、そんな私の心中を余所に再度溜め息を吐く四条。そして、徐に口を開き――
「……全く、もう幾度も申していますが……本来、決して許されることではないのですよ? 本来、神さまに委ねるべき吉凶の行方を人為的に操るなど」
そう、呆れたように言う四条。さて、何のお話かと言うと――なんと、彼女は神さま以外には決して決められないはずの吉凶の行方を操ることが可能で。尤も、どうしてそのような奇怪な能力を宿しているのかは彼女自身も不明なようですが……まあ、理由など分からずとも一向に構いません。そのような奇怪な、素晴らしい能力を宿しているという事実そのものが重要なのですから。
そして、本日もお願いし操作していただきました。なにせ、本日は三日目――結婚成立となってしまうこの夜に、中納言さまがお越しになることがあってはなりませんから。そして、その理由は――
――トントン。
すると、控えめに扉を叩く音。……どうやら、お越しになったようですね。そっと立ち上がり廊下を進み、ほどなく扉の前へ。そして徐に扉を開くと、そこには――
「……大変申し訳ありません、姫さま。本日も、物忌みにて中納言さまは参ることが叶わず……」
そう、例の如く甚く申し訳なさそうに告げる秀麗な男性のお姿が。そんな彼に、そっと首を横に振る私。そして――
「いえ、謝罪の必要などありません。今宵も遠路遥々お疲れさま、朝霧さん。それで、またしばらく中納言さまの下へは戻れないの?」
「……はい、姫さま」
「……そう、それはお気の毒ね」
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「――それでは、どうぞこちらへ。今宵も、素敵な時間を過ごしましょう」
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