噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?

暦海

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……それでも、やはり――

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「遅くまでお邪魔しました、八雲やくもさん」
「いえ、私としてはもっと居てくださって良かったくらいですし。ともあれ、是非またいらしてくださいね、先輩」
「はい、ありがとうございます」


 それから、一時間ほど経て。
 空がすっかり茜色を帯びる頃、玄関にてお別れの挨拶を交わす私達。大変名残惜しくはありますが、致し方ありません。次のご来訪に期待するとしましょう。

 ……まあ、それはともあれ――

「……あの、外崎とざき先輩。その……本日は、楽しかったですか?」

 そう、些かたどたどしく問い掛けます。まあ、大半が勉強の時間でしたし、楽しいも何もないかもしれませんが――

「……はい、とても楽しかったです。ありがとうございます、八雲さん」

 すると、いつもの優しい微笑で応える先輩。まあ、実際はどうあれ彼ならそう言ってくださることは明白でしたが……それでも、ほっと安堵を覚えてしまう自分は何とも単純で。




「…………さて」

 朧な月が空に浮かぶ、その日の宵の頃。
 窓の外をぼんやり眺めながら、ポツリと呟く私。そっと肌を撫でる微風そよかぜが、今日はやけに冷たくて。

 さて、そんな私の思考を巡るは今日――外崎先輩との勉強会のこと。いや、具体的にはあの瞬間――二人の手が重なり、さっと彼が手を離したあの瞬く間のことで。


 ……今でも、鮮明に思い出せる。あの一瞬とき――あの瞬間、彼の顔に浮かんでいたのは……紛れもなく、嫌悪や恐怖といった類の表情もので。


 尤も、私としては彼を責めるつもりなど毛頭ありません。むしろ、頗る申し訳なさそうな彼の表情に私の方も申し訳ないと感じたくらいです。きっと、彼自身そういう感情――手が触れ合った際に生じた嫌悪や恐怖といった感情が、たったの一瞬であれ表に出てしまったことを自覚したのでしょう。

 ですが、繰り返しになりますが彼を責めるつもりは毛頭ありません。相手に対する好悪に関わらず、男性と物理的に触れることで女性が生理的嫌悪感を抱くことがあるように、男性もまた女性と物理的に触れることで同様の反応を示すこともあるでしょう。なので、彼がこのような反応をしたからといって、即ち私自身に嫌悪を抱いていることにはならない。と言うか、流石にそこまで嫌いなら交際この関係自体、成立していないでしょうし。

 ……ただ、そうは言っても――

「……はぁ、辛い」

 ふと、本音が洩れる。……もちろん、分かっているつもりです。先輩が悪いわけじゃないことは、分かっているつもりです。

 ……それでも、想い人にあのような表情を――彼の意思ではなくとも、あれほど明確に拒絶を示されてしまうというのは、やはり胸にズキリとくるものがあるわけでして。


「……まあ、気にしても仕方がないのですが」

 ぼんやり夜空を眺めながら、ふとそんな呟きを零します。さながら、自身に言い聞かせるように。……まあ、実際気にしても仕方がないですし、それに――

 ……果たして、あれは……彼の女性嫌いは、果たして先天的なものなのでしょうか? だとすれば、中々どうにもならない部分はありますが……もし、後天的なもの――何かしらの辛い経験が原因でそうなってしまったのならば、どうにかする余地があるやもしれません。と言うか、全てとは言わずともある程度は後天的そちらでなくては困ります。もちろん、これが私の身勝手な都合であることは重々承知しておりますが。


「…………全く、前途多難ですね」
 
 


 
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