噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?

暦海

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……なんて、そんなわけない。

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「……さて、どうしたものか」


 八月下旬の、ある薄明の頃。
 そんな呟きと共に、一人思案を巡らす私。今、私がいるのは馴染みのない小さな公園。何となくの思いつきでいつもと違う道を彷徨い、その流れでいつもと違う公園へと足を踏み入れ……そして、穏やかな静謐の中、少し古びた木組みのベンチに一人腰掛けているわけで。

 さて、何のお話かと言うと……まあ、言わずもがなかもしれませんが例の件――ある日を境に、外崎とざき先輩との連絡がプツリと途絶えてしまった件で。


 ……まあ、避けられる理由に心当たりがないかと言えば、残念ながらそうでもないのですが。ご自身というより、私のために距離を置く――彼の性格を鑑みれば、そういった判断をなさる可能性は十分にあると思いますから。
 実際、私が遮ったあの日のお話は、その後の彼の反応から見ても別れ話であった可能性が高いでしょうし。これ以上、私を傷つけないようにするための決断だったのでしょう。


 ですが、それでも今回は違うと思……いえ、断言しても構いません。今回は違います。何故なら……いくら私を思っての決断ことだったとしても、仮にも私は恋人――このように、何の報告もなしに一方的に連絡を切るなどといった不実な所業を彼がなさるはずないからです。


 そういうわけで、この異常な状況には何かしらの重大な――それこそ、相当に退っ引きならない事情が深く絡んでいると考えるのが妥当でしょう。……ただ、それにしても――

「……さて、どうしたものか」

 再度、同じ呟きを零す。……いや、ほんと何にもないんですよね。この状況を打開する糸口など、ほんと何にもなくて。そもそも、連絡が取れない時点で私に出来ることなどほぼ皆無。……やはり、ここはご迷惑を承知で再びご自宅へと――


「………………ん?」

 そんな思案の最中さなか、ふと声が零れます。何故なら、顔を上げた私の視界に――


「…………外崎、先輩?」

 そう、ポツリと呟く。そんな私の視線の先には、少しウェーブのかかった栗色の髪を纏う秀麗な男性。少し遠目からではありますが、見紛みまがうはずもありません。

 ですが、それならに距離があったからか、彼の方は私に気付か……いえ、そうでなくても――それこそ、ぶつかりそうなほどの距離ですれ違っていたとしても、今の彼は気が付かなかったかもしれません。何故なら――




「…………あ、その、あはは……」

 そう、引きつった笑顔で呟きそそくさと後方へ走っていく私。具体的には――電柱の裏からコソコソ前方を見つめていた私を、通行人の男性が怪訝そうに見ていた場面にて。……大丈夫ですよね? 通報とかされないですよね? ……うん、きっと大丈夫。

 ともあれ、先ほどの男性が角を曲がり見えなくなった辺りで再びこ……いえ、調査を開始。幸い、調査対象たる先輩の歩みは遅く、見失うことなく再び一定の距離を保ち……いえ、思いますよ? 自分でも、何をしてるのだろうと。……それでも、あの状態の彼を放っておくことなど恋人として――

「…………え?」

 こ……いえ、調査の最中さなか、ふと立ち止まり声を零す私。と言うのも、不意に視線の先の彼がピタリと足を止めたから。……いや、不意にでもないか。それまで以上に歩みが遅くなってて、そろそろ止まりそうな雰囲気もあったし。

 さて、そんな彼の前にはこの辺りにて異彩を放つ立派な邸宅。黒を基調とした大きな建物の前には、遠目からでもその規模感が想像できる立派なお庭が……まあ、別に住みたいとは思いませんが。正直、先輩のお家の方が遥かに好みですし。

 ……まあ、それはともあれ……いったい、このお宅に何の用事が――


「――――っ!?」

 刹那、呼吸が止まる。何故なら……暫し佇む先輩の前に現れたのは、満面の笑顔で彼を迎える見目麗しき女性だったから。


「…………」

 暫し、言葉を失う。その間にも、美女の招きに笑顔で応じ視界の外へと……えっと、どういう関係? もしかして、しんせ……うん、違うっぽい。じゃあ、ひょっとして浮気――

 ……なんて、そんなわけない。それは、先輩がそういう人じゃないということもあるけど――


 ……あんなの、笑顔じゃない。私の知ってる……私の大好きな、あの陽だまりのような笑顔じゃない。


 ――きっと、あの笑顔かおの裏に隠していたのだろう。公園から微かに見えた、俯き歩く先輩のあの痛苦に満ちた表情を、あの貼り付けた笑顔の裏にどうにか隠していたのだろう。

 そして、流石に悟った。もちろん、今のところ事情までは分からない。それでも……私との連絡が途絶えた原因も、間違いなくあの女にあるのだと。




 
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