お后さまの召使い

暦海

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不敵な少女?

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「……あ、あの、月夜つくよさま。本当に、違和感などありませんか? 僕」
「ええ、もちろん。昨日さくじつも申しましたが、とても似合っていますよ。それこそ、綺麗すぎて思わず見蕩れてしまうほどに」


 翌日、小昼の頃。
 優雅に前を歩く月夜さまに、何ともたどたどしい口調で問い掛ける僕。すると、彼女はそっと振り返り笑顔で答え……うん、確かに昨日も仰ってくださってたんだけども。それも、何度も。なので、流石にそろそろ辟易なさっているかも……うん、ごめんなさい。ただ、このような経験は初めてゆえどうしても不安でして……。

 ともあれ、今いるのは『渡殿わたどの』と呼ばれる二つの建物を繋ぐ屋根付きの渡り廊下――そこを、ご主人さまたる月夜さまの後ろをついて歩いているわけで。




『――わぁ、めっちゃ可愛い! これはもう才能ですよ伊織いおり! 全くもう、どうしてもっと早く平安こちらに来てくださらなかったのですか!』


 昨日さくじつ、薄明の頃。
 そう、歓喜の声を上げる月夜さま。何に対してかと言うと、僕――本来の身分ではほど遠い、見るも優雅な衣装を纏う庶民の僕に対してで。数ならぬ身の僕には過分にして勿体なきお言葉に、大変恐縮の思いです。……ただ、どうしても何も僕も来れるなんて思ってなかったですし。気が付いたらなぜか平安こちらにいたんです。

 さて、何が起こっているのかと言うと――女房として仕えることになった僕に、なんと月夜さまが直々に衣装を見繕ってくださっているわけでして。……まあ、途中から着せ替え人形のようになってた気もするけど。

 ともあれ、これにて僕は正式に女房として彼女にお仕えすることに……あっ、女房というのは平安この時代では高貴な方々に仕える女性のことを指します。




 ――さて、前述の通り月夜さま厳選の優雅な衣装を纏い廊下を歩いているのだけど――


(……ねえ、あの人が)
(……ええ、例の……)
(……確かに、頗るお綺麗だけど……いったい、どういうつもりなのかしら。どこの家柄かも知れない新参者を傍に置くなんて……まあ、あの女にはお似合いだけど)


 その最中さなか、そこかしこから届くヒソヒソ声。さっと見渡すと、他のお后さま方々がこちらをチラチラと見つつ声を潜め……いや、まあ聴こえてるし……恐らくは、聴こえるように言っているのだろう。そして、その対象は僕というより――




「……あの、月夜さま。その、申し訳ありません」
「いや、なぜ貴方が謝るのですか。悪いことなど何もしていないのに」
「……それは、そうかもしれませんが……」


 それから、ほどなくして。
 色とりどりの花が咲き誇る雅な庭園にて、たどたどしく謝意を告げる僕。すると、そんな僕に何処か呆れたように微笑み答える月夜さま。……まあ、そうかもしれないのだけど、それでも――

「――まあ、伊織らしい気遣いだとは思いますが……ですが、ご心配には及びません。どころか、先ほどのは随分とマシな方ですよ。以前はもっと直接的な悪口や嫌がらせも日常茶飯事でしたから。なのに、今日この程度で済んだのは貴方がいてくれたから……だから、ありがとうございます。伊織」
「……月夜さま」

 すると、仄かに微笑み告げる月夜さま。……まあ、そう言われてしまえば謝るのも却って申し訳ない気も――


「――あら、ご機嫌よう桐壺きりつぼさん?」


 すると、不意に後方から届いた声。ハッと驚き振り返ると、そこには山吹色の衣装を纏う鮮麗な少女。恐らくは10代半ばから後半くらい――月夜つくよさまより少し歳上うえくらいかなと思うけど、それはともあれ……えっと、この人は――

「――ええ、ご機嫌よう藤壺ふじつぼさま」

 すると、同じく身体ごと振り返り恭しく挨拶を述べる月夜さま。すると、藤壺と呼ばれた少女は何処か不敵な笑みを浮かべ――

 さて、今更ながら月夜さまの通称は桐壺。この名前から、かの大名作『源氏物語』の主要人物たる桐壺更衣が連想されるかもしれないけれど……実は、この桐壺とは平安《この》時代の後宮にてお后さまに与えられたご住居の名称――そして、名称《これ》がそのままそこに住んでいるお后さまの通称となっていたようで。

 なので、桐壺――正式には淑景舎しげいさというのだけど――桐壺というご住居に住んでいる月夜さまは周囲からはそう呼ばれているわけで。そして、それは目の前の藤壺さまも恐らく同様。その通称から、彼女は藤壺――正式には飛香舎ひぎょうしゃというご住居に住んでいるようで……えっ、そんなの知ってるからいちいち説明すんなって? ……はい、ごめんなさい。



 

 


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