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対策
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「……本当に申し出ありません、月夜さま。ずっとお供していながら、貴女のことをお護り出来なくて……」
「……いえ、謝らないでください。そもそも、伊織は十分に護ってくれています。今日だって、貴方がいなければもっと酷いことになっていたのは、火を見るより明らかですし」
「……月夜さま」
それから、一週間ほど経た夕さり頃。
お部屋にて、僕の言葉に柔らかな微笑で答えてくださる月夜さま。だけど、そのご表情からはやはりお疲れのような様子が見て取れて。
……そして、それもそのはず。内容が内容なだけに、具体的な言及は憚られるのだけど……ここ最近というもの、以前にもまして彼女に対する嫌がらせが酷くなっているのだから。
「………………ふぅぅ」
それから、数時間後。
深く、深く呼吸を整える。そんな僕がいるのは、清涼殿――改めてだけど、かの帝様が日常生活をなさるやんごとなき御殿の前で。
尤も、普段ならここまでの――もちろん、するにはするけれど、ここまでの緊張はしない。だけど、今日は格別で。と言うのも――今、この場に月夜さまがいないから。つまりは、とりわけ格式の高いこの御殿に、初めて僕一人で参上しているという次第で。
さて、その理由はと言うと――今夜、月夜さまがお伺いできない旨をお伝えするため。理由は、体調不良。尤も、月夜さまがご自身で仰ったわけじゃないし、むしろ平時の通りお伺するご意向だったのだけれど、僕が止めた。申し訳ないとは思ったけど、今はご心身をお休めになることが最優先だと僭越ながら僕が勝手に判断したためで。幸い、彼女は異を唱えることなくニコッと微笑み承諾してくださって……まあ、内心ではご不満だったかもしれないけども。
ともあれ、繰り返しになるけども――そういうわけで僕は今、一人で帝さまの御殿の前にいて。……さて、そろそろ行かないと。
「…………ふぅ」
今一度、深く呼吸を整える。そして、ゆっくりと前へ足を踏み出して――
「……なるほど、そういう事情が……ふむ、ご苦労だったね伊織。こうして伝えに来てくれてありがとう」
「あっ、いえそんな! ……その、彼女にお仕えする身として当然のことをしたまででして……」
それから、ほどなくして。
御殿の一室にて、柔らかな微笑で謝意を告げてくださる帝さま。以前から存じてはいたものの、その寛厚なお人柄にほっと心が和らぐ。
「……しかし、どうしたものか。大変淋しく辛くはあるが、しばらくは月夜を呼ばない……いや、それは根本的な解決にはならないだろうね」
「……はい、そうですね帝さま」
すると、深刻なお表情でそう口になさる帝さま。そして、彼の言葉はきっと正しい。その方法で期待できる嫌がらせに対する効果は、きっとそれほど高くないだろうし……よしんば成果を見たとして、それではただ単純に月夜さまがデメリットを蒙ることになる。彼女が今後、帝さまからお声が掛かる頻度が激減……いや、最悪の場合なくなってしまうという計り知れぬデメリットが。どうして、何も悪くない彼女がそんな理不尽を蒙らなくてはならないのか。
……だけど、ご自身で引っ込めなさったものの、帝さまのお考えに検討の余地がないわけでもない。現在の状況を考慮すれば、ひとまずはそうすることで、例え一時的であれ多少なりとも嫌がらせが減少する可能性も皆無とは言えないから。……だけど、それよりもきっと――
「……あの、帝さま。僭越ながら、帝さまにお願いがあるのですが――」
「……いえ、謝らないでください。そもそも、伊織は十分に護ってくれています。今日だって、貴方がいなければもっと酷いことになっていたのは、火を見るより明らかですし」
「……月夜さま」
それから、一週間ほど経た夕さり頃。
お部屋にて、僕の言葉に柔らかな微笑で答えてくださる月夜さま。だけど、そのご表情からはやはりお疲れのような様子が見て取れて。
……そして、それもそのはず。内容が内容なだけに、具体的な言及は憚られるのだけど……ここ最近というもの、以前にもまして彼女に対する嫌がらせが酷くなっているのだから。
「………………ふぅぅ」
それから、数時間後。
深く、深く呼吸を整える。そんな僕がいるのは、清涼殿――改めてだけど、かの帝様が日常生活をなさるやんごとなき御殿の前で。
尤も、普段ならここまでの――もちろん、するにはするけれど、ここまでの緊張はしない。だけど、今日は格別で。と言うのも――今、この場に月夜さまがいないから。つまりは、とりわけ格式の高いこの御殿に、初めて僕一人で参上しているという次第で。
さて、その理由はと言うと――今夜、月夜さまがお伺いできない旨をお伝えするため。理由は、体調不良。尤も、月夜さまがご自身で仰ったわけじゃないし、むしろ平時の通りお伺するご意向だったのだけれど、僕が止めた。申し訳ないとは思ったけど、今はご心身をお休めになることが最優先だと僭越ながら僕が勝手に判断したためで。幸い、彼女は異を唱えることなくニコッと微笑み承諾してくださって……まあ、内心ではご不満だったかもしれないけども。
ともあれ、繰り返しになるけども――そういうわけで僕は今、一人で帝さまの御殿の前にいて。……さて、そろそろ行かないと。
「…………ふぅ」
今一度、深く呼吸を整える。そして、ゆっくりと前へ足を踏み出して――
「……なるほど、そういう事情が……ふむ、ご苦労だったね伊織。こうして伝えに来てくれてありがとう」
「あっ、いえそんな! ……その、彼女にお仕えする身として当然のことをしたまででして……」
それから、ほどなくして。
御殿の一室にて、柔らかな微笑で謝意を告げてくださる帝さま。以前から存じてはいたものの、その寛厚なお人柄にほっと心が和らぐ。
「……しかし、どうしたものか。大変淋しく辛くはあるが、しばらくは月夜を呼ばない……いや、それは根本的な解決にはならないだろうね」
「……はい、そうですね帝さま」
すると、深刻なお表情でそう口になさる帝さま。そして、彼の言葉はきっと正しい。その方法で期待できる嫌がらせに対する効果は、きっとそれほど高くないだろうし……よしんば成果を見たとして、それではただ単純に月夜さまがデメリットを蒙ることになる。彼女が今後、帝さまからお声が掛かる頻度が激減……いや、最悪の場合なくなってしまうという計り知れぬデメリットが。どうして、何も悪くない彼女がそんな理不尽を蒙らなくてはならないのか。
……だけど、ご自身で引っ込めなさったものの、帝さまのお考えに検討の余地がないわけでもない。現在の状況を考慮すれば、ひとまずはそうすることで、例え一時的であれ多少なりとも嫌がらせが減少する可能性も皆無とは言えないから。……だけど、それよりもきっと――
「……あの、帝さま。僭越ながら、帝さまにお願いがあるのですが――」
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