お后さまの召使い

暦海

文字の大きさ
13 / 14

文化的行事

しおりを挟む
「……ふむ。琴だけに、というわけではないけれど……いつもながら、深く琴線に触れる繊細優美な音色だね、月夜つくよ
「過分にして勿体なきお言葉、痛み入ります帝さま」


 それから、二週間ほど経た昼下がり。
 お言葉の通り、沁み沁みと表情でそうお告げになる帝さま。そして、そんな彼のご称賛を受け恭しい所作でお答えする月夜さま。その後、ややあって皆さんから拍手の音がちらほらと……まあ、お后さま方々は渋々といったご様子だけども。

 さて、今いるのは豊かな自然が優しく織り成す風雅な庭園――そして、帝さまのご主催により定期的に行われているらしい、音楽や和歌などを嗜む文化的行事の最中で。




『――さて、伊織いおり。明日は、帝さまご主催の行事に同行していただきます』


 昨日さくじつ、夕さり頃。
 黄昏の陽が優しく差し込むお部屋にて、神妙なお表情かおでそう口にする月夜さま。お話によると――翌日、庭園にて帝さまご主催による文化的な行事があるようで……うん、さっきも言ったよね、これ。……ただ、それはともあれ――

『……あの、月夜さま。何か、気掛かりなことがおありで?』

 そう、控え目に尋ねてみる。と言うのも、心做しかそのご様子に何処か不安のようなものが――

『……ええ、そのことなのですが――』
『…………へっ?』




 ――さて、そういうわけで本日こうして年齢、性別、身分問わず数多の方々が庭園に集まり、皆さん和気藹々とこの時間を楽しんでいるわけで。……さて、それはそれとして――

「……帝さまも仰っていましたが、とても素敵な音色で深く心に沁み入りました、月夜さま」
「ふふっ、ありがとうございます伊織」

 そう、隣に腰掛ける少女へと告げる。すると、パッと花の綻ぶような笑顔で答えてくださる月夜さま。そんな彼女に、不意に鼓動がドクンと跳ねて……うん、ほんと心臓に悪いね。


 ともあれ、その後しばらくして和歌へと移行。恋愛や友愛、各々に尊き想いを宿した歌を代わる代わる詠んでいく皆さん。そして、聞いている皆さんそれぞれに暖かな感想を送る。そんな素敵な時間に、すっかり心地好く浸っていると――

「――それでは、君の番だよ月夜」

 そう、暖かな眼差しで述べる帝さま。すると、柔和に微笑み頷く月夜さま。そして、鈴を転がすような声で優雅に歌を――




「――ふふっ。本日は皆さん、たいそう感嘆なさっていましたね。それも、中には感動のあまり涙を流していた方も少なくなかったと見受けられました」
「そうですね、月夜さま。帝さまも大変感動していらっしゃいましたし」


 それから、数時間後。
 いつものお部屋にて、何とも満足そうにお話しする月夜さま。彼女の言うように、彼女の詠んだ歌は参席していた皆さんを甚く感動させていて。……ただ、一つ思ったのは……うん、ほんとにあんなふうに泣くんだね、和歌を聞いて。物語では何度か見たことあるけど、あれってほんとだったんだ。

 ……ところで、それはそれとして――

「……ですが、月夜さま。僕などが意見するなど甚だ僭越だと自覚はしておりますが……流石に、あのような方法はいかがなものかと」


 そう、申し訳なくも告げる。と言うのも――


『――実はこの私、和歌だけは本当に苦手なのです。それはもう、この世界から消滅してしまえば良いとすら思うくらいに』 
『……うん、平安この時代の高貴な方とは思えない発言ですね』

 昨日さくじつ、甚く真剣な表情かおでそんなことを仰る月夜さま。いやどんだけ苦手なんですか。いや、苦手は仕方ないにしても発言が物騒にもほどがありますよ。

『――そこで、伊織。貴方に、折り入ってお願いがあるのですが――何か、その時代に名を馳せるほどの名歌をご存じですか? もちろん、現在いまより後の治世の』

 ……とまあ、こんな具合いに時代を越えたカンニングを試みる月夜さま。まあ、断っても良いことはなさそうなので渋々承諾――平安この時代に存在するはずもない、鎌倉時代の名歌をいくつかお伝えしたわけで。……うん、なんか罪悪感。
 

 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...