祈り

暦海

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本物

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「…………そうか、そんなことが……」


 それから、数十分後。
 そう、沈痛な面持ちで呟く高貴な男性。共感をしてくれた、とまでは思わないけど……それでも、僕の話に心を痛めてくれているのはその表情からひしひしと伝わって。これほどにとうとい人なのに……ほんと、不思議な人だなぁ。

 さて、僕が説明したのは僕の経緯――と言うか、僕の家族の経緯。母とは早くに別れ、その後は父が一人で僕を育ててくれていたのだけど――重税と一定以上の年齢の男性に課される過酷な労役負担による心身の過労により、一年ほど前に他界。それからは、辛うじて縁のあるお家にて育ててもらっていたのだけど、そちらも決して裕福なご家庭でなく僕を養えきれず、最終的にはご家族の願望がんぼうを汲み取り僕が出ていった。そして、行く宛もなく僅かながらの食糧でどうにか繋ぎ彷徨い歩き、すっかり疲れ今ここに腰掛けて……うん、そもそもなんで繋ぐ必要があったのだろう。どうして、こんな無価値な生命いのちを繋ぐ必要なんてあったのだろう。それこそ、今ここで息絶えたって――


「…………へっ?」


 刹那、思考が――いや、呼吸が止まる。何故なら――不意に、彼が僕の身体を優しく包みこんだから。


「……あ、あの……?」


 卒然の思わぬ抱擁に、ただただ困惑する僕。……えっと、突然どうしたのだろ――


「……本当に、辛かったね。だけど……もう、大丈夫だよ。本当に、良く頑張った」
「……っ!?」

 すると、ぎゅっと僕を抱き締めたままそう口にする美麗の男性。それは、抱擁と同じくらいの――陽だまりのように、暖かな優しい声で――

 ……きっと、分かるはずない。もちろん、彼だって辛いことはあるだろう。それでも、その種類は間違いなく違うもの……だから、貧乏人の僕の苦痛なんて、別世界の彼に分かるはずない。……それでも――


「……はい、ありがとう……ございます……」


 そう、抱き締め返し答える。不覚にも、頬に雫を滴らせながら。……分かるはずなんて、きっとない。それでも……この風変わりな男性ひとから伝わるこの温度は、疑う余地もなく本物で。




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