7 / 32
……えっと、どゆこと?
しおりを挟む
「……えっと、どゆこと?」
不意に届いた衝撃の言葉に、ただただ呆気に取られる私。……えっと、どゆこと? それとも、いつの間にやら私の耳がおかしく――
「……ああ、誤解なさらないでほしいのですが、決して貴女を不満だと思っているわけではありません。本日お会いしたばかりで、知ったようなことを言うべきではないかもしれませんが……貴女は、本当に魅力的で素敵な御方です。鈴珠さん。何もなさる必要がないと申したのは、あくまで僕側の事情です。なので、お気になさらずゆっくりとお休みになってください。もちろん、代金は既にお支払いしているのでどうかご安心を」
そんな困惑の中、私の疑問に答えるように滔々と説明をする深影さん。……だけど、やっぱり意味が分からない。と言うより、そもそも何もしなくていい理由は説明していない。ただ、自分の事情だと伝えただけで。
……だけど、だとしたらそれで良いのだろう。何もしなくていいなら、いったい何のためにお金を払ってまで来たんだという話だけど……それでも、お客さまの方からそう言っているのならそれで良いのだろう。と言うより、客側からそう言ってるんだから何もしない以外の選択肢なんてない。なので、ここはお言葉に甘え明日に備えるべくゆっくりと睡眠を――
「…………へっ?」
刹那、微かに響く声。そして、すぐ目の前にはポカンと呆気に取られた表情の深影さん。……まあ、そうなるよね。卒然、布団へとそっと彼を押し倒し覆い被さったのだから。
「…………あの、鈴珠さん?」
その後、ややあって私の名を口にする深影さん。だけど、その表情は未だ……いや、いっそう呆然としたままで。……まあ、そりゃそうだよね。大切なお客さまに対し、いったい何をしてるんだろうと自分でも思う。……それでも――
「……そんなの、駄目」
「……へっ?」
「……何もしてないのに、お代金だけもらう? そんなの、貴方が良くても私は駄目。これでも、私は遊女なんだから」
「…………鈴珠さん」
「……でも、遊女といっても私はまだまだ未熟……だから、私で不満だったら遠慮なく他の遊女に変えてくれてもいい。規則しては本来は駄目だけど、そんなのは私次第でどうとでもなるから。……でも、何もしないのは絶対に駄目。だから、もし本当に何もしなかったら……私は、今日の報酬を一切受け取らないから」
「…………」
そう、じっと瞳を見て告げる。ちなみに、規則とは一度指名した遊女は変更不可というもの。と言うのも、指名した遊女とお客さまとの間には『疑似婚姻』なる関係が成立するため、他の遊女に変更することは即ち不倫ということになるわけで。
だけど、不倫はあくまで当事者間の問題。ならば、不倫された側――即ち、この場合は遊女側が問題にしなければいいだけの話で。そもそも、相手が自分のことを気に入らないのに規則なんかで縛ったって悲しいだけ。実際、今のような話――私で不満だったらいつでも遠慮なく変えてくれていいというお話は、これまでのお客さま皆に伝えていることで。
ともあれ、話を戻すと――お代金だけもらって何もしないなんて、私は決して認めないということ。私のことが気に入らなかったら仕方ないし、申し訳ないとも思うけども……それは、是非とも終わった後で判断していただけたらと。
そういうわけで、その綺麗な瞳じっと見つめたまま返事を待つ。すると、少しの間があった後――
「……分かりました、鈴珠さん。不躾なことを申してしまい、大変申し訳ありません」
「……へっ? あっ、いやそんな! その、こちらこそ偉そうなこと言ってごめんなさい……」
そう、言葉の通り甚く申し訳なさそうに告げる深影さん。そんな彼に、少し慌てつつ答える私。……その、決して謝ってほしかったわけじゃなくて……うん、こちらこそごめんなさい。
……でも、受け入れてくれて良かった。本当に良かったの、だけど……うん、また鼓動が劈くくらいに高鳴って……ふぅ、深呼吸、深呼吸。
不意に届いた衝撃の言葉に、ただただ呆気に取られる私。……えっと、どゆこと? それとも、いつの間にやら私の耳がおかしく――
「……ああ、誤解なさらないでほしいのですが、決して貴女を不満だと思っているわけではありません。本日お会いしたばかりで、知ったようなことを言うべきではないかもしれませんが……貴女は、本当に魅力的で素敵な御方です。鈴珠さん。何もなさる必要がないと申したのは、あくまで僕側の事情です。なので、お気になさらずゆっくりとお休みになってください。もちろん、代金は既にお支払いしているのでどうかご安心を」
そんな困惑の中、私の疑問に答えるように滔々と説明をする深影さん。……だけど、やっぱり意味が分からない。と言うより、そもそも何もしなくていい理由は説明していない。ただ、自分の事情だと伝えただけで。
……だけど、だとしたらそれで良いのだろう。何もしなくていいなら、いったい何のためにお金を払ってまで来たんだという話だけど……それでも、お客さまの方からそう言っているのならそれで良いのだろう。と言うより、客側からそう言ってるんだから何もしない以外の選択肢なんてない。なので、ここはお言葉に甘え明日に備えるべくゆっくりと睡眠を――
「…………へっ?」
刹那、微かに響く声。そして、すぐ目の前にはポカンと呆気に取られた表情の深影さん。……まあ、そうなるよね。卒然、布団へとそっと彼を押し倒し覆い被さったのだから。
「…………あの、鈴珠さん?」
その後、ややあって私の名を口にする深影さん。だけど、その表情は未だ……いや、いっそう呆然としたままで。……まあ、そりゃそうだよね。大切なお客さまに対し、いったい何をしてるんだろうと自分でも思う。……それでも――
「……そんなの、駄目」
「……へっ?」
「……何もしてないのに、お代金だけもらう? そんなの、貴方が良くても私は駄目。これでも、私は遊女なんだから」
「…………鈴珠さん」
「……でも、遊女といっても私はまだまだ未熟……だから、私で不満だったら遠慮なく他の遊女に変えてくれてもいい。規則しては本来は駄目だけど、そんなのは私次第でどうとでもなるから。……でも、何もしないのは絶対に駄目。だから、もし本当に何もしなかったら……私は、今日の報酬を一切受け取らないから」
「…………」
そう、じっと瞳を見て告げる。ちなみに、規則とは一度指名した遊女は変更不可というもの。と言うのも、指名した遊女とお客さまとの間には『疑似婚姻』なる関係が成立するため、他の遊女に変更することは即ち不倫ということになるわけで。
だけど、不倫はあくまで当事者間の問題。ならば、不倫された側――即ち、この場合は遊女側が問題にしなければいいだけの話で。そもそも、相手が自分のことを気に入らないのに規則なんかで縛ったって悲しいだけ。実際、今のような話――私で不満だったらいつでも遠慮なく変えてくれていいというお話は、これまでのお客さま皆に伝えていることで。
ともあれ、話を戻すと――お代金だけもらって何もしないなんて、私は決して認めないということ。私のことが気に入らなかったら仕方ないし、申し訳ないとも思うけども……それは、是非とも終わった後で判断していただけたらと。
そういうわけで、その綺麗な瞳じっと見つめたまま返事を待つ。すると、少しの間があった後――
「……分かりました、鈴珠さん。不躾なことを申してしまい、大変申し訳ありません」
「……へっ? あっ、いやそんな! その、こちらこそ偉そうなこと言ってごめんなさい……」
そう、言葉の通り甚く申し訳なさそうに告げる深影さん。そんな彼に、少し慌てつつ答える私。……その、決して謝ってほしかったわけじゃなくて……うん、こちらこそごめんなさい。
……でも、受け入れてくれて良かった。本当に良かったの、だけど……うん、また鼓動が劈くくらいに高鳴って……ふぅ、深呼吸、深呼吸。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる