玲瓏たる月の下、命懸けの恋を貴方と

暦海

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……えっと、どゆこと?

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「……えっと、どゆこと?」


 不意に届いた衝撃の言葉に、ただただ呆気に取られる私。……えっと、どゆこと? それとも、いつの間にやら私の耳がおかしく――


「……ああ、誤解なさらないでほしいのですが、決して貴女を不満だと思っているわけではありません。本日お会いしたばかりで、知ったようなことを言うべきではないかもしれませんが……貴女は、本当に魅力的で素敵な御方です。鈴珠すずさん。何もなさる必要がないと申したのは、あくまで僕側の事情です。なので、お気になさらずゆっくりとお休みになってください。もちろん、代金は既にお支払いしているのでどうかご安心を」

 そんな困惑の中、私の疑問に答えるように滔々と説明をする深影みかげさん。……だけど、やっぱり意味が分からない。と言うより、そもそも何もしなくていい理由は説明していない。ただ、自分の事情だと伝えただけで。

 ……だけど、だとしたらそれで良いのだろう。何もしなくていいなら、いったい何のためにお金を払ってまで来たんだという話だけど……それでも、お客さまの方からそう言っているのならそれで良いのだろう。と言うより、客側そちらからそう言ってるんだから何もしない以外の選択肢なんてない。なので、ここはお言葉に甘え明日に備えるべくゆっくりと睡眠を――


「…………へっ?」


 刹那、微かに響く声。そして、すぐ目の前にはポカンと呆気に取られた表情かおの深影さん。……まあ、そうなるよね。卒然、布団へとそっと彼を押し倒し覆い被さったのだから。


「…………あの、鈴珠さん?」


 その後、ややあって私の名を口にする深影さん。だけど、その表情は未だ……いや、いっそう呆然としたままで。……まあ、そりゃそうだよね。大切なお客さまに対し、いったい何をしてるんだろうと自分でも思う。……それでも――


「……そんなの、駄目」
「……へっ?」
「……何もしてないのに、お代金かねだけもらう? そんなの、貴方が良くても私は駄目。これでも、私は遊女プロなんだから」
「…………鈴珠さん」
「……でも、遊女プロといっても私はまだまだ未熟……だから、私で不満だったら遠慮なく他の遊女ひとに変えてくれてもいい。規則しては本来は駄目だけど、そんなのは私次第でどうとでもなるから。……でも、何もしないのは絶対に駄目。だから、もし本当に何もしなかったら……私は、今日の報酬を一切受け取らないから」
「…………」

 そう、じっとを見て告げる。ちなみに、規則とは一度指名した遊女は変更不可というもの。と言うのも、指名した遊女とお客さまとの間には『疑似婚姻』なる関係が成立するため、他の遊女に変更することは即ち不倫ということになるわけで。

 だけど、不倫それはあくまで当事者間の問題。ならば、不倫された側――即ち、この場合は遊女側こちらが問題にしなければいいだけの話で。そもそも、相手が自分のことを気に入らないのに規則なんかで縛ったって悲しいだけ。実際、今のような話――私で不満だったらいつでも遠慮なく変えてくれていいというお話は、これまでのお客さま皆に伝えていることで。


 ともあれ、話を戻すと――お代金かねだけもらって何もしないなんて、私は決して認めないということ。私のことが気に入らなかったら仕方ないし、申し訳ないとも思うけども……それは、是非とも終わった後で判断していただけたらと。

 そういうわけで、その綺麗なじっと見つめたまま返事を待つ。すると、少しの間があった後――


「……分かりました、鈴珠さん。不躾なことを申してしまい、大変申し訳ありません」
「……へっ? あっ、いやそんな! その、こちらこそ偉そうなこと言ってごめんなさい……」


 そう、言葉の通り甚く申し訳なさそうに告げる深影さん。そんな彼に、少し慌てつつ答える私。……その、決して謝ってほしかったわけじゃなくて……うん、こちらこそごめんなさい。

 ……でも、受け入れてくれて良かった。本当に良かったの、だけど……うん、また鼓動がつんざくくらいに高鳴って……ふぅ、深呼吸、深呼吸。









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