玲瓏たる月の下、命懸けの恋を貴方と

暦海

文字の大きさ
18 / 32

お休み

しおりを挟む
「…………さて、どうしようかな」


 穏やかな風が頰を撫でる、ある秋の日のこと。
 そう、ポツリと呟く。そんな私がいるのは、瓦や茅葺きの家屋がゆったりと並ぶ風情溢れる街の中。こうしてのんびりこういう景色を見ながら歩くのも、もう数ヶ月ぶりのことで。と言うのも……まあ、文字通り毎日が仕事だから。

 そして、今日は久方振りのお休み――年に二日ある公休の内の一日で。……いや、少ないよ休日。まあ、公休それ以外にも申し出が認められれば休みが取れなくもないけど……いや、いずれにせよ極めて少ないことには変わりなく……うん、せめて今日だけでものんびり過ごそ。

 さて、話は戻るけど……さて、どうしようかな。このまま宛もなく歩いていてもいいんだけど、やっぱり行きたい場所がないわけでもなく。……なので――


「……うん、やっぱりあそこかな」




「――おお、久しぶりだな鈴珠すずちゃん! 今日はお休みかい?」
「はい、ご無沙汰です義郎よしろうさん。いつものでお願いできますか?」
「おう、ちょっと待ってな!」


 それから、数十分経て。
 和の風情漂う素朴なお店『明葉めいよう』にて、快活な笑顔で挨拶をしてくれる精悍な男性。その明るい笑顔やお人柄に、こちらまで明るくなる気がして。

 さて、こちらは行きつけの水茶屋さん――温かなお茶を出してくれる簡素な休憩所で、彼は水茶屋こちらの店主さんで。……いや、行きつけと言うほど来てない……と言うか、来れないけど。そもそも、年に二回しか休みないんだし。



「――どうぞ、鈴珠さん。お久しぶりね、来てくれて嬉しいわ」
「はい、ご無沙汰です。ありがとうございます、菊乃きくのさん」


 それから、数分経て。
 そう、柔らかな微笑で温かなお茶を差し出してくれるのは、華やかな衣装を纏う若い女性。驚くほどに綺麗な女性ひとで、数多のお客さまが見蕩れているであろうことが見なくても察せられる。そして、それもそのはず。と言うのも、彼女はこの辺りでもひときわ評判の綺麗な女性ひとで、そもそも彼女に会いたいがために来店なさるお客さまも数多くいるみたいで……あっ、私は違うよ? もちろん菊乃さんは好きだけど、義郎さんも明葉こちらのお茶も好きで……うん、誰に言い訳してんるだろ。


「……うん、美味しい」


 ともあれ、数ヶ月ぶりのお茶をゆっくりと頂く。義郎さんの淹れてくれた、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる温かなお茶を。……うん、やっぱり美味しい。妓楼あそことは雲泥の……いや、比較すること自体失礼極まりないか。

 ……ただ、それはそうと……今、何してるのかな。いつか、一緒に来れたり……なんて、まあ無理だけど。






 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...