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番外2-03 相談役
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「トコエにギャフンと言わせたい!」
「ん?何だって?」
目の前に座っていた男は冷や汗を溢しながら苦笑を浮かべる。地味にまともに会話をするのは初めてだったのだが、全く予想だにしていなかった会話の内容にサンザは流石に戸惑う。
「僕だってトコエにおねだりされたい」
「あ、うん、分かった分かった」
とにかく落ち着こうとサンザは声をかける。思っていた以上に頭の中がトコエのことでいっぱいなルザに暴走されるといろいろと厄介なことになりそうだったからだ。
「それでライカとの仕事はちゃんとできたのかな」
「そりゃあちゃんとやったさ。それが僕の仕事だからね」
さも当然だというかのようにルザは語る。女性陣からルザに対する愚痴は聞いたことがないため、かなり上手くやっているのだろうとは思う。
「流石だね。でも、辛いなら無理してやらなくてもいいんだよ? 今の男娼のような生活はいろいろと大変だろう。以前のように妬みを受ける可能性もあるわけだし」
「無理してるわけじゃないよ。女性陣から求められて悪い気はしないから。それに……」
ギラリとその瞳にまた決意の炎のようなものが揺らぐ。
「トコエが嫉妬でやめてって言うまで絶対にやめない」
「ああ、そういうこと……」
男娼の仕事はトコエに嫉妬してもらうためにもしているのだと、それを聞いたサンザはまた苦笑いを浮かべる。流石トコエだけが生きる意味だとでも言いそうな男だと思った。
「でもそういう意図なら、トコエは絶対にやめろとは言わないだろうね」
「分かってるよ」
「……なるほど、それも含めて“ギャフンと”か」
一人でに納得したようにサンザは言う。なんとなくこれだけでもルザの言わんとしていることは理解できるのだ。
「でも過ぎたるは及ばざるが如しって言うし、禁止期間に一矢報いたいっていう動機なら感心しないな」
「いいだろ別に」
「君のそれは惚れた弱みって奴だ。仕方ないよ」
「トコエだって僕に惚れてる……!」
「そうだろうけど、彼女はとっても理性的な人だから。それこそ、怒るような事態にでもなれば、既に手遅れと言えるくらいにね」
ぐっとルザは黙り込む。確かにトコエが怒りを見せるときは相当腹に据えかねたことがあった時くらいなものだ。
「だから、もしも本当にトコエに求めてもらうために何かするなら、彼女を怒らせない程度に留めることを考えないと」
「……止めないんだ」
「おれの仕事はよほど不味いことじゃない限り相手を肯定することだから」
ということはサンザからしたら止めるレベルの企みではないのだろう。
「トコエはちゃんとルザのことを大事にしているよ。今までだって、蔑ろにされてたわけじゃないだろう?」
その問いにルザは頷く。
禁止期間に入る前は何だかんだ毎日付き合ってくれたし、その際もちゃんと愛情表現もしてくれた。いっぱい可愛がってくれたし、甘やかしてもくれた。男同士でしたときは自分が下になることに全く抵抗感が無いほど優しかったし、女同士だってたまらなく興奮した。それに嫌な顔一つせず付き合ってくれて、アナルセックスだって、我儘だったのに許してくれた。
「……僕がわがまま言ってるだけなのかな」
冷静になって考えてみればトコエは十分応えてくれている。ならば自分も、彼女の要望を聞いてやるべきなのだろう。
「冷静になって考えることは良いことだよ。まぁ、トコエだって禁止期間は辛いだろうし、終わったら十分甘えてくれると思うよ」
「ん……話したらだいぶ楽になったよ。トコエが偶に君に会いに行くのが嫌だったけど、でもなんとなく理由が分かった気がする」
「それは良かった」
でも長居するのは嫌だとでもいうかのようにさっさと退出しようとするルザをサンザは呼び止める。
「あの件のことはすまなかったね」
「あの件、って何」
「倉庫でのことだよ」
それは彼が受けた暴行のことだろう。
主犯たちは現在クライスとサンザの監視下で更生中だった。混乱を避けるためにと暴行があったということは他の兵士には伏せられているが、トコエを怒らせたことはそれだけで彼らにとっての罰となっただろう。
「コシュマールでは、女性へのレイプを問題行為として皆理解しているだろうけど、同性に対するそれに関しては意識が低い。そういう意味で、おれは問題が起こることが事前に分かっていた。君の来歴を鑑みても、十中八九ああいう展開になっただろうなって」
だから、と続けてサンザは頭を下げた。
「本当に申し訳ないと思っている。おれは君の傷を抉ることを良しとした。軽蔑してくれて構わない」
それを見たルザは表情を変えない。そこには怒りも呆れも無かった。
「君が理由無しにそんなことするとは思わない。それって教えてくれるものなの?」
それにサンザは困ったように眉を下げた。理由を説明しない、ということはあまり口にしたくないということなのだろうが、それでも彼は懺悔するかのように口を開いた。
「君がピンチになればトコエも上手くよりを戻せるだろう……って、そんな恋のキューピッドみたいな理由じゃないよ。コシュマールの平和を保つためには、二人にはくっついてもらっていた方が都合が良かったからさ」
「ふぅん?」
いまいち理由に納得がいかず、ルザは首を傾げる。
「ん?何だって?」
目の前に座っていた男は冷や汗を溢しながら苦笑を浮かべる。地味にまともに会話をするのは初めてだったのだが、全く予想だにしていなかった会話の内容にサンザは流石に戸惑う。
「僕だってトコエにおねだりされたい」
「あ、うん、分かった分かった」
とにかく落ち着こうとサンザは声をかける。思っていた以上に頭の中がトコエのことでいっぱいなルザに暴走されるといろいろと厄介なことになりそうだったからだ。
「それでライカとの仕事はちゃんとできたのかな」
「そりゃあちゃんとやったさ。それが僕の仕事だからね」
さも当然だというかのようにルザは語る。女性陣からルザに対する愚痴は聞いたことがないため、かなり上手くやっているのだろうとは思う。
「流石だね。でも、辛いなら無理してやらなくてもいいんだよ? 今の男娼のような生活はいろいろと大変だろう。以前のように妬みを受ける可能性もあるわけだし」
「無理してるわけじゃないよ。女性陣から求められて悪い気はしないから。それに……」
ギラリとその瞳にまた決意の炎のようなものが揺らぐ。
「トコエが嫉妬でやめてって言うまで絶対にやめない」
「ああ、そういうこと……」
男娼の仕事はトコエに嫉妬してもらうためにもしているのだと、それを聞いたサンザはまた苦笑いを浮かべる。流石トコエだけが生きる意味だとでも言いそうな男だと思った。
「でもそういう意図なら、トコエは絶対にやめろとは言わないだろうね」
「分かってるよ」
「……なるほど、それも含めて“ギャフンと”か」
一人でに納得したようにサンザは言う。なんとなくこれだけでもルザの言わんとしていることは理解できるのだ。
「でも過ぎたるは及ばざるが如しって言うし、禁止期間に一矢報いたいっていう動機なら感心しないな」
「いいだろ別に」
「君のそれは惚れた弱みって奴だ。仕方ないよ」
「トコエだって僕に惚れてる……!」
「そうだろうけど、彼女はとっても理性的な人だから。それこそ、怒るような事態にでもなれば、既に手遅れと言えるくらいにね」
ぐっとルザは黙り込む。確かにトコエが怒りを見せるときは相当腹に据えかねたことがあった時くらいなものだ。
「だから、もしも本当にトコエに求めてもらうために何かするなら、彼女を怒らせない程度に留めることを考えないと」
「……止めないんだ」
「おれの仕事はよほど不味いことじゃない限り相手を肯定することだから」
ということはサンザからしたら止めるレベルの企みではないのだろう。
「トコエはちゃんとルザのことを大事にしているよ。今までだって、蔑ろにされてたわけじゃないだろう?」
その問いにルザは頷く。
禁止期間に入る前は何だかんだ毎日付き合ってくれたし、その際もちゃんと愛情表現もしてくれた。いっぱい可愛がってくれたし、甘やかしてもくれた。男同士でしたときは自分が下になることに全く抵抗感が無いほど優しかったし、女同士だってたまらなく興奮した。それに嫌な顔一つせず付き合ってくれて、アナルセックスだって、我儘だったのに許してくれた。
「……僕がわがまま言ってるだけなのかな」
冷静になって考えてみればトコエは十分応えてくれている。ならば自分も、彼女の要望を聞いてやるべきなのだろう。
「冷静になって考えることは良いことだよ。まぁ、トコエだって禁止期間は辛いだろうし、終わったら十分甘えてくれると思うよ」
「ん……話したらだいぶ楽になったよ。トコエが偶に君に会いに行くのが嫌だったけど、でもなんとなく理由が分かった気がする」
「それは良かった」
でも長居するのは嫌だとでもいうかのようにさっさと退出しようとするルザをサンザは呼び止める。
「あの件のことはすまなかったね」
「あの件、って何」
「倉庫でのことだよ」
それは彼が受けた暴行のことだろう。
主犯たちは現在クライスとサンザの監視下で更生中だった。混乱を避けるためにと暴行があったということは他の兵士には伏せられているが、トコエを怒らせたことはそれだけで彼らにとっての罰となっただろう。
「コシュマールでは、女性へのレイプを問題行為として皆理解しているだろうけど、同性に対するそれに関しては意識が低い。そういう意味で、おれは問題が起こることが事前に分かっていた。君の来歴を鑑みても、十中八九ああいう展開になっただろうなって」
だから、と続けてサンザは頭を下げた。
「本当に申し訳ないと思っている。おれは君の傷を抉ることを良しとした。軽蔑してくれて構わない」
それを見たルザは表情を変えない。そこには怒りも呆れも無かった。
「君が理由無しにそんなことするとは思わない。それって教えてくれるものなの?」
それにサンザは困ったように眉を下げた。理由を説明しない、ということはあまり口にしたくないということなのだろうが、それでも彼は懺悔するかのように口を開いた。
「君がピンチになればトコエも上手くよりを戻せるだろう……って、そんな恋のキューピッドみたいな理由じゃないよ。コシュマールの平和を保つためには、二人にはくっついてもらっていた方が都合が良かったからさ」
「ふぅん?」
いまいち理由に納得がいかず、ルザは首を傾げる。
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