福音よ来たれ

りりっと

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番外2-04 懺悔と波乱

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「トコエは男性たちにとって決して手を出せない人だったし、他の女性と比べて誰と付き合おうと自分に対する“分け前”が減るわけでもない。だから女性たちの視線を集めてしまう君がトコエに首ったけっていうのはそれだけでリスクが生まれにくいんだ。これがカーリャだったら目も当てられない」


 自分が好きになったのがカーリャだったら。有り得ない想定だが、それでもサンザの危惧は理解できる。
 カーリャは大事なバランサーだ。それが独占されようものなら、ルザに対する憎悪は以前のものとは比にならないだろう。


「だから君とトコエが喧嘩したって聞いたときは肝が冷えたよ。君はカーリャと仲が良かったし調子に乗ってたし、トコエも随分悲観的になってたからちょうどいい、って思ってしまったんだ」


 ここでサンザは一呼吸置く。次に出てきたのは非常に沈んだ声で、どれほど彼が後悔したかを理解する。


「……その結果君たちは上手く収まったとはいえ、君は心と身体双方に傷を負い、トコエを必要以上に怒らせ、クライスには嫌な役目を負わせてしまった。そして踏み止まれたかもしれない彼らに、罪を犯させてしまった。ほんと、自己嫌悪で手首切りそうだった」


 再度サンザは謝罪を口にする。問題が起こることを分かっていながら敢えて見過ごしたことを。


「大を生かすために小を切り捨ててもいいなんて、傲慢だよ。いつ自分が切り捨てられる側になるのかも分からないくせに。本当に……最低な奴だ」


 俯いたままそう語るサンザに、ルザは大きくため息をつく。


「聞くんじゃ無かった」
「……ごめんね。気分の良い話では無かったと思う」
「そうだよ、君の自虐を聞かされる身にもなってくれないかな」


 ふん、と鼻を鳴らしてルザは踵を返す。扉に手をかけたところで立ち止まり、振り返りはせずに独り言のように喋り始める。


「君くらい理性的な人間にはその後悔が一番の罰だ。精々苦しむと良い。ああでも死なれると困るから程々にね。君みたいに狡賢い奴がここには必要だし」
「はは、酷い言い方だな」
「この話をトコエでもクライスでもなく僕にしたのはキツく叱られるためだろう? あの二人ならなんだかんだ言って許してくれるに決まってる」


 クライスなら一発殴られるとは思うけど、と付け加えて。


「あと、……カーリャをとられたくなかったのは君だって同じだろう?」


 振り返りサンザの顔を見ながらルザは不敵に笑う。それに一瞬驚いたように絶句したサンザは、すぐさま声を上げて笑った。


「君はもっと馬鹿だと思っていたよ」
「言うじゃないか。今までの腹いせかい?」
「そうだね……ああ、そうだ」


 サンザの顔は、どこか安心しているように見えた。


「よく、分かったね」
「僕だって嫉妬深いからね。同族嫌悪だ」


 まともに会話したことなどほとんど無かった。けれど先ほどの独白で、ルザは薄々とサンザの本心を見抜いてしまっていた。


「ちゃんと言ってあげたら。カーリャが僕に誰を重ねて抱かれているのか、知ってるんだろう?」
「無理だよ。おれはね……キスとかハグとか、セックスとか、そういうの全然ダメなんだ。同性だろうと異性だろうとね」


 それに、と口にしてサンザは閉口してしまう。けれど再度懺悔をするように言葉にする。


「……カーリャにあの役割を負わせたのはおれだ。そんなおれに、好意を伝える資格なんて無い」


 その言葉にも呆れたようにルザはため息をつく。


「ま、僕にはどうでもいい話だけど。それじゃ、邪魔したね」


 背中を押すこともなく、ルザは部屋を後にする。面倒な話ばかり聞いてしまったと、トコエのことで吐き出せたモヤモヤがまた増して戻ってきてしまった気分だった。


「見つけたわよ泥棒猫くん」


 聞き覚えのある声にルザは視線をぎこちなく移動させる。泥棒猫、そう自分を呼ぶのは一人だけだ。


「……、大嫌いな僕に何か用かな、ヘンタイ」
「嫌いじゃ無いわよ?ムカつくってだけで」


 そう、目の前の女性エムリは言う。高身長の彼女はルザとほとんど背丈が変わらない。それもどこか妙に癪に障るのだ。

 何よりエムリはトコエに対するセクハラの常習犯だった。抱きついた拍子に胸や尻を触ったり、同性であることをいいことに一緒に入浴しようとしたり(下心有り)、どんな男よりも危険な人物だ。


「お誘いに来たのよ。今すごいムシャクシャしてるからヤらせて」
「最低な誘い文句だね。悪いけどこれからカーリャと約束があるんだ。僕も暇じゃ無いんだよ」


 そうはっきりと断るとエムリは逆にぱっと顔を綻ばせる。


「じゃあ三人でしましょ」
「は?」
「カーリャちゃんもいれば性欲発散だけじゃなく心も癒されるし……」
「いや、ふつうに……」
「そうと決まればカーリャちゃんに会いに行きましょ!」


 有無を言わさずエムリは軽々とルザを担ぎ上げると走り出す。強烈な嫌な予感に、それでも対抗手段を持たないルザは逃げ出すことなどできなかった。
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