悪役令嬢はミステリアス学園長と共闘せよ!〜恋人ごっこでフラグを回避?〜

りりっと

文字の大きさ
33 / 49
06 恋争奪戦!

1 しかし回り込まれてしまった

しおりを挟む


 大変なことになった、大事なことなので二回。そうこれは板挟みというやつ。

 フェルナン様は今までのことを謝って、今後とも婚約関係を良い方向へ続けていきたいという。
 それに対してハッター先生は、自分から離れれば呪いは解けないなんてことを言って、この関係を続けるよう私に言ってきた。

 どうすればいい、余計に分からなくなってしまう。
 フェルナン様を騙し続けるのもメンタルつらいし、かといってまたロサリアに酷いことをするような日々はごめんだ。


「(思えばハッター先生、恋人ごっこ無しには呪いみたいなやつを解くの、協力してくれないんだなぁ……)」


 どうせならばそれ以外の交換条件を持ち出すべきだった、なんて後になって思った。でも先生はお金には困っていないし先生が欲しいものを私が与えられる気はしない。だからその代償が、恋人ごっこ、なんだ。
 もう十分先生とは仲良くなれた気がするのに、先生はそれでは不足なんだろう。


「(不足、っていっても……もうハグもキスも、それにこの前、のは……)」


 思い出してじわりと顔が熱くなる。まだ口にあの感触が残っているような気がして、変な気分になってしまいそうになる。
 今となっては昨日のことだけど、あのお茶会は当然普段通りとはいかなかった。先生もいつも以上にスキンシップをしてきて、会話だけは普段通り休暇中にあったことを話したのだが、なんだかずっと落ち着かなかった。


「(これから、どうなっちゃうんだろう……)」


 二人のイケメンに挟まれている。字面だけ見れば羨ましい爆発しろ案件なのだが、そんなウフフな気分に浸れないのは後ろめたさがあるせいだと思う。
 もしかしたらこれも破滅ルート、なのかもしれない。けれどなぜか、今はそれが嫌とは思わなかった。
 破滅しても仕方ないなぁ、なんて。


「アリシェール様、今朝はフェルナン様とご一緒でしたよね?」
「ん?」


 お昼休み。庭のベンチで物思いに耽っていたところで、隣にいたロサリアに話しかけられる。


「もしかして、仲直りできたのでしょうか……!」


 お目目をキラキラさせてロサリアはそんな質問を口にした。
 まぁ確かに、フェルナン様を説得しようとしてくれたりと、ロサリアは何かと私とフェルナン様の関係に気を遣ってくれていた。だから今朝一緒に学園に来たところを見て嬉しくなっちゃった、って感じかな。


「仲直り……うん、できたよ」
「良かったです……! これで仲睦まじいお二人が見られるのですね」


 なんだそのカプ厨みたいな反応は。ロサリアはフェルナン×アリシェール推しだったのか知らなかったなぁ!
 公式でも非公式でも存在しないからね。ゲームの中じゃアリシェールは絶対にフェルナン様と破局するし。ある意味、マイナーなカップリングだよ。
 驚くべきことは今それが実現しそうなことですけど。


「そういえば、次の魔法理論の授業は先生が急な出張で自習だとか。よろしければ一緒に……」
「アリシェール」


 そこで聞き覚えのある声が私を呼ぶ。それに私を呼び捨てで呼べる人なんてね、一人しかいませんでしたね。


「フェルナン様、どうかなさいましたか?」
「次の授業が自習と聞いて、その……君は魔法理論は苦手だっただろう。だから」


 つまりそれは、お誘いということでしょうか。その上でフェルナン様、私が魔法理論苦手だって覚えていたんだ、なんて素直な感想が出てしまう。今まで無関心だと思ってたから、余計に。
 ちなみに魔法理論というのはですね、現代でいうところの数学と哲学を足して二で割った代物です。つまり、頭痛がするくらい抽象的且つ複雑なもの、なんです。


「お誘いは嬉しいのですが、先にロサリアが」
「あっ、私のことはどうかお気になさらず!」
「えっ、ロサリア?」


 まるで邪魔者は退散、とでも言いたげにロサリアはそそくさと支度を整えるとその場から逃げ出してしまう。
 その様をフェルナン様とぽかんと眺めていると、彼は小さく笑う。そしてさりげなくロサリアが居た場所に座り込んだ。


「本当に仲良くなったんだな」
「え、えぇ……ロサリアは本当に、優しい子です」
「そうだな」


 そこで会話は無慈悲にも終わる。ああ、気まずいです。
 今まで険悪だったからこそ感じていた気まずさとは、今のそれは違う。なんだかこちらをちらちらと伺ってくるフェルナン様に、私は何て切り出せばいいかを悩み続ける。

 そこでまたフェルナン様の手が私の手に触れる。本当に、一辺倒で可愛らしいスキンシップ、なんですけど和んでいる余裕もない。


「その……自習の件は、構わないか」
「え、あ、……はい」
「ん」


 満足げにフェルナン様は笑うと、重ねただけの手を絡めてくる。それに不覚にも胸が高鳴った。


「(はぁー……マジ顔がいいわ……)」
「まだ慣れないか」


 視線を逸らしているとフェルナン様は首を傾げる。
 そりゃあまだ慣れないですよ。推しの顔面に慣れちゃったらオタクは終わりですからね。


「……照れてる、のか? そんな顔の君は、初めて見た」
「そ、そうですか?」
「ああ」


 なんだこのピンク色の空気。どうしよう、まだハッター先生との空気感はどこか安心感があった気がするのに、フェルナン様だと落ち着かない。青春的な、そんな爽やかさがあるからかな。
 絡まり合った視線をなぜか逸らせなくて、同じようにフェルナン様を見つめる。そうしていると、またゆっくりと顔が近付いてくる。


「あ、フェルナン、さま」


 思わず押し留めるように片手をあげる。そうすればフェルナン様も止まってくれる。


「どう、した」
「一応、学園内ですので……人目があるかと思うと、恥ずかしくて」
「そ、それもそうだな」


 すっごい今更だった。でもまだ放課後ではないし、人目があるのは間違いない。見られたら冷やかされるだろうか。


「でもそうしたら、君に触れられるのは……お互いの部屋にでも行けばいいのか」
「えぇっ」
「……冗談だ。まだ早い」


 まだ早いって、つまりは将来的にそうなることを考えてるってことですか。
 いや昨日言ってたわ。私との未来考えてるって言ってたわフェルナン様。


「なら放課後、またあの場所で」


 本来はヒロインのみに向けられるその優しい表情が、私に向いている。


「二人きりで話そう、アリシェール」


 だんだんと逃げ場がなくなってきました。どうしましょう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...