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06 恋争奪戦!
1 しかし回り込まれてしまった
しおりを挟む大変なことになった、大事なことなので二回。そうこれは板挟みというやつ。
フェルナン様は今までのことを謝って、今後とも婚約関係を良い方向へ続けていきたいという。
それに対してハッター先生は、自分から離れれば呪いは解けないなんてことを言って、この関係を続けるよう私に言ってきた。
どうすればいい、余計に分からなくなってしまう。
フェルナン様を騙し続けるのもメンタルつらいし、かといってまたロサリアに酷いことをするような日々はごめんだ。
「(思えばハッター先生、恋人ごっこ無しには呪いみたいなやつを解くの、協力してくれないんだなぁ……)」
どうせならばそれ以外の交換条件を持ち出すべきだった、なんて後になって思った。でも先生はお金には困っていないし先生が欲しいものを私が与えられる気はしない。だからその代償が、恋人ごっこ、なんだ。
もう十分先生とは仲良くなれた気がするのに、先生はそれでは不足なんだろう。
「(不足、っていっても……もうハグもキスも、それにこの前、のは……)」
思い出してじわりと顔が熱くなる。まだ口にあの感触が残っているような気がして、変な気分になってしまいそうになる。
今となっては昨日のことだけど、あのお茶会は当然普段通りとはいかなかった。先生もいつも以上にスキンシップをしてきて、会話だけは普段通り休暇中にあったことを話したのだが、なんだかずっと落ち着かなかった。
「(これから、どうなっちゃうんだろう……)」
二人のイケメンに挟まれている。字面だけ見れば羨ましい爆発しろ案件なのだが、そんなウフフな気分に浸れないのは後ろめたさがあるせいだと思う。
もしかしたらこれも破滅ルート、なのかもしれない。けれどなぜか、今はそれが嫌とは思わなかった。
破滅しても仕方ないなぁ、なんて。
「アリシェール様、今朝はフェルナン様とご一緒でしたよね?」
「ん?」
お昼休み。庭のベンチで物思いに耽っていたところで、隣にいたロサリアに話しかけられる。
「もしかして、仲直りできたのでしょうか……!」
お目目をキラキラさせてロサリアはそんな質問を口にした。
まぁ確かに、フェルナン様を説得しようとしてくれたりと、ロサリアは何かと私とフェルナン様の関係に気を遣ってくれていた。だから今朝一緒に学園に来たところを見て嬉しくなっちゃった、って感じかな。
「仲直り……うん、できたよ」
「良かったです……! これで仲睦まじいお二人が見られるのですね」
なんだそのカプ厨みたいな反応は。ロサリアはフェルナン×アリシェール推しだったのか知らなかったなぁ!
公式でも非公式でも存在しないからね。ゲームの中じゃアリシェールは絶対にフェルナン様と破局するし。ある意味、マイナーなカップリングだよ。
驚くべきことは今それが実現しそうなことですけど。
「そういえば、次の魔法理論の授業は先生が急な出張で自習だとか。よろしければ一緒に……」
「アリシェール」
そこで聞き覚えのある声が私を呼ぶ。それに私を呼び捨てで呼べる人なんてね、一人しかいませんでしたね。
「フェルナン様、どうかなさいましたか?」
「次の授業が自習と聞いて、その……君は魔法理論は苦手だっただろう。だから」
つまりそれは、お誘いということでしょうか。その上でフェルナン様、私が魔法理論苦手だって覚えていたんだ、なんて素直な感想が出てしまう。今まで無関心だと思ってたから、余計に。
ちなみに魔法理論というのはですね、現代でいうところの数学と哲学を足して二で割った代物です。つまり、頭痛がするくらい抽象的且つ複雑なもの、なんです。
「お誘いは嬉しいのですが、先にロサリアが」
「あっ、私のことはどうかお気になさらず!」
「えっ、ロサリア?」
まるで邪魔者は退散、とでも言いたげにロサリアはそそくさと支度を整えるとその場から逃げ出してしまう。
その様をフェルナン様とぽかんと眺めていると、彼は小さく笑う。そしてさりげなくロサリアが居た場所に座り込んだ。
「本当に仲良くなったんだな」
「え、えぇ……ロサリアは本当に、優しい子です」
「そうだな」
そこで会話は無慈悲にも終わる。ああ、気まずいです。
今まで険悪だったからこそ感じていた気まずさとは、今のそれは違う。なんだかこちらをちらちらと伺ってくるフェルナン様に、私は何て切り出せばいいかを悩み続ける。
そこでまたフェルナン様の手が私の手に触れる。本当に、一辺倒で可愛らしいスキンシップ、なんですけど和んでいる余裕もない。
「その……自習の件は、構わないか」
「え、あ、……はい」
「ん」
満足げにフェルナン様は笑うと、重ねただけの手を絡めてくる。それに不覚にも胸が高鳴った。
「(はぁー……マジ顔がいいわ……)」
「まだ慣れないか」
視線を逸らしているとフェルナン様は首を傾げる。
そりゃあまだ慣れないですよ。推しの顔面に慣れちゃったらオタクは終わりですからね。
「……照れてる、のか? そんな顔の君は、初めて見た」
「そ、そうですか?」
「ああ」
なんだこのピンク色の空気。どうしよう、まだハッター先生との空気感はどこか安心感があった気がするのに、フェルナン様だと落ち着かない。青春的な、そんな爽やかさがあるからかな。
絡まり合った視線をなぜか逸らせなくて、同じようにフェルナン様を見つめる。そうしていると、またゆっくりと顔が近付いてくる。
「あ、フェルナン、さま」
思わず押し留めるように片手をあげる。そうすればフェルナン様も止まってくれる。
「どう、した」
「一応、学園内ですので……人目があるかと思うと、恥ずかしくて」
「そ、それもそうだな」
すっごい今更だった。でもまだ放課後ではないし、人目があるのは間違いない。見られたら冷やかされるだろうか。
「でもそうしたら、君に触れられるのは……お互いの部屋にでも行けばいいのか」
「えぇっ」
「……冗談だ。まだ早い」
まだ早いって、つまりは将来的にそうなることを考えてるってことですか。
いや昨日言ってたわ。私との未来考えてるって言ってたわフェルナン様。
「なら放課後、またあの場所で」
本来はヒロインのみに向けられるその優しい表情が、私に向いている。
「二人きりで話そう、アリシェール」
だんだんと逃げ場がなくなってきました。どうしましょう。
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