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06 恋争奪戦!
4 修羅場と
しおりを挟む予約が重なってしまった放課後。どちらから先に用事を済ますか、と言えば先生の方だ。
何やら先生は時間をとめてでもお茶会をしよう、なんて言っていた。正直魔法でそんなことまでできてしまったのだとしたら、先生は多分覇王か何かなのかもしれない。というか、人間の技を軽く超えてしまっている。
そしてそれが冗談だったとしても、また今度の約束にしてもらえないかと頼むことはできる。だからどっちにしてもまずは学園長室へ向かう、そのつもりだった。
「どこへ行くんだ、アリシェール」
「うっ、フェルナン様……」
見つかってしまった。こっそり出てきたつもりだったんだけど、フェルナン様の監視からは逃れられなかったようです。
「えっと、さっき呼び出されたときに、忘れ物をしてしまって……」
「忘れ物?」
「書類、なんですよ、重要書類」
ごまかしを試みる。なんかそれっぽい言い訳ができている気がする。
だがしかし、フェルナン様の顔は信じられないと、そうはっきり書いてある。
そうよね、仲直りしてもまだ信頼は取り戻せてないですよね。
「君の嘘は分かりやすいな」
「うぐっ」
そんなに顔に出てましたか。憎むべきは私の豊かな表情筋。
「……こんなに分かりやすい嘘をつくのに、どうしてあの時僕は君を信じられなかったんだろう」
お叱りを受けるかと思いきや、どこか自分を責めるようにフェルナン様は呟く。
やっぱりまだ気にしているのか。ハッター先生も、優しくしたり大事にしようとしたりするのは、私を信用しなかったことを悔やんでのことだと言っていた。それはきっと、当たりなんだ。
「その……」
なんとなく気になった。もしかしたらハッター先生との件に対して温情をくれているのは、それが関係しているような気がしたから。
「学園長先生のこと……フェルナン様が私を責めないのは、どうしてですか?」
「それは」
一瞬辛そうな顔をして私から視線を逸らす。けれど、すぐにフェルナン様はしっかりと私の目を見て、質問に答えてくれる。
「あの時、君の味方をしてくれたのはきっと、学園長先生だけだった。そうだろ?」
ゆっくりと、私は頷く。
誰がどう見ても、ロサリアをいじめていたのは私だ。それを責めない者は多くいただろうけど、それを擁護してくれる人は、誰もいなかった。先生を除けば。
「君が彼を頼らなければならない状況を作ったのは、君を信用しなかった僕だ。だから僕は、君を責めることはしない。……できない」
「そんな、それはフェルナン様のせいじゃないです。誰が見てもあれは……ハッター先生でもなければきっと、何が起こっていたかなんて、分からなかったと思います」
精一杯フェルナン様のフォローをした、つもりだったのだが、彼は僅かに眉根を寄せて少しだけ不満そうな顔をする。
何か、気に障るようなことを言っちゃいましたでしょうか。
「アリシェール」
「は、はい」
「もう二度と君を疑ったりしない。君を一人にもしない。だから……戻ってきて欲しい」
そう言ってフェルナン様は私に手を差し伸べた。
彼の心遣いは嬉しかった。痛いほどに真っ直ぐな決意も、以前の私だったら泣いて喜んだだろう。
でも、その手を取ることを躊躇ってしまう。私の中の何かが、後ろ髪をずっと引っ張っているような、そんな感覚。
本当に、それでいいの……?
「こんな場所で痴話喧嘩かい? フェルナン王子」
聞こえてきた声に思わずはっとなる。声のした方を向けば、そこにはハッター先生が立っていた。
「優等生の君らしくないね」
そして先生の姿を見るなり、フェルナン様は険しい顔をすると私を背に隠すように振り返った。
「学園長先生、はっきりと申し上げます」
あ、これは。
「アリシェールは、僕の婚約者です。いずれは王家に名を連ね、僕の妻になる女性です。どうか、そのことを忘れないでいただきたい」
あまりにもはっきりとした牽制だった。顔は私からは見えないが、フェルナン様は絶対にハッター先生に対して敵意を向けていた。
どうする。少しだけ身体を横に倒して、フェルナン様の背から顔を出し、先生の様子を伺った。何か目配せでもあるかと思いきや、先生は私の方を一瞥することもなく、にこりと笑った。
「あはは、面白いことを言うね。王子の目からは、僕とリオルさんはそんなに仲が良さそうに見えたのかな」
妙に明るく、彼は話す。それが何だか、私の胸をざわつかせた。
「心配しなくても、君の大事なお姫様をとるようなことはしないよ。そんなことをしたら、リオル公にもヴィンセント王にも睨まれる。あの二人が相手だと、流石の僕もタジタジだ」
「そう、ですか」
「うん」
ずくずくと、胸の奥が痛むような、気がする。どうしてだろう、先生は約束通り、二人の関係が表沙汰にならないようにしてくれているだけ。そもそも今は二人きりじゃないから、恋人ごっこの最中ではない……あれ。
「普通に考えたら、王子様と結ばれるのがハッピーエンドなんだから」
一瞬、息ができなくなったかと思った。
強く心臓が、締め付けられる。痛いほどに。なぜか先生の言葉に泣き出してしまいそうになって、私は必死に顔を伏せた。
先生には、どこからどこまでが、ごっこ遊びだったのだろう。
私が見ていたものは、感じていたものは、どこまでが本当だったのだろう。
何もかもが、分からなくなってしまいそうだった。
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