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今夜、迎えに行きます……。黒猫のモグ、僕の友達。

俺が守る

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「なあ、あの坊主勘弁したってくれへんか?」青年は両手を合わして懇願する。

「勘弁ってなに?私は別に怒ってなんかないわよ」敦子は惚けたように薄笑いを見せる。

「俺もホンマの事をいうたら、人間は好かんねん……、でもあの家族は違うんや。守ってやりたいねん」彼は立ち上がると敦子の近くまで歩いていく。

「猫又が面白い事を言うのね。たしか猫又って人を食い殺す妖怪でなくって」彼女は憎々しい顔をしている。

「アホな事を言うな。俺らはそんなことせえへん。それに人間が俺らに危害を加えへんかったらなんもせえへんわ。それより、あんたの方こそなかなかの者やろ。死臭がプンプンするわ」青年は鼻をヒクヒクさせた。人間には解らない物を見たり嗅いだり出来るようである。

「ふん、よく言うわ。貴方は何年、何十年、何百年生きているの?あんな人間なんて良く生きてもあと八十年程度の命でしょう。貴方にとっては取るに足らない物。私が貰っても気にならないでしょう」彼女は良く解らない事を言う。

「俺は永遠の十七才や!もう歳を取らんと決めとんねん。命に取るに足らんとかあるんか?みんな平等やろ」彼はキッとキツイ目付をして彼女を睨み付けた。

「私ね、あと一人の魂を食べたら成仏出来るの。だから絶対にゆうちゃんは渡さないわ」彼女も負けじと睨み返した。

「あと一人って……、お前何人食らっとんねん。その口調やったら一人や二人とちゃうやろ!」少し激昂した様子である。

「そうね、ゆうちゃんで二十人目かな」何かを思い出したように薄ら笑いを浮かべた。

「ふざけるな!何であの坊主やねん!ここは病院やし、死にそうなジジイとか一杯おるから、それでええやろ!」ちょっと無茶苦茶な理屈であった。

「誰でも言いわけではないの。十八才までで、ある程度霊との相性がいい男の子じゃないとだめなの」一体そういう知識は何処から仕入れて来るのか不思議だった。

「そうか、こんだけ言うても無理か……」

「無理ね」敦子はもう一度屋上からの景色を眺めた。

「よう解った。俺は全力で坊主を守るからな!お前と全力で戦う!」青年はその言葉を吐き捨てるように呟いてから、姿を消した。

「お手並み拝見ってとこかしら」敦子はニヤニヤしながら、屋上の壁に体重をあずけた。
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