『上条樹短編集』電車の通勤、通学の途中、短時間で読める作品を集めてみました。

上条 樹

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上条賃貸ハウジングの事件簿

一緒にいかがですか?

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 数か月後、メゾン・ド・リープの申し込みがあり、単身の女性が入居したそうだ。

 大西はかなり貸主さんに搾られたようで、必死に駅前の賃貸仲介業者にお客さんを紹介してくださいと挨拶に回っていた。

 前回は若い二十代前半の女性であったが、今回は水商売にお勤めの三十路の入居者だそうだ。

 なかなか夜の仕事にお勤めの方は、生活のリズムの関係もあり入居を断られる事が多いが、今回は長期的に空室リスクが発生しそうな雰囲気があったので、大西も貸主さんに半分強引に捻じ込んだと言っていた。

 それでも保証人もいて、尚且つ保証会社にも加入してもらったようなので、賃料の取りっぱぐれは無いだろうと高を括っている。

「貸主さんにも、紹介料を多めにしてくれるようにお願いしたので賃貸仲介業者の若い従業員が必死になってお客さんを探してくれました」肩の荷が降りたかのように大西は微笑んだ。
 
 宅建業法では貸主・借主から月額賃料の0.5ヶ月ずつを受け取り、合計金額を賃料の1ヶ月以内にしなくてはいけないという決まりがある。
 しかし、この法律を守っていては、ほとんどの不動産会社は賃貸事業をしなくなるだろうし、倒産する会社もでてくる。
 そこで各社総意工夫をして、貸主さんから紹介料という名目で賃料の2ヶ月とか3ヶ月、なかなか決まりにくい物件になると賃料の5カ月なんていう紹介料を払う貸主さんもいる。
 同じ3万円の同じような物件で借主さんからは1.5ヶ月でも、貸主さんから0.5ヶ月しか手数料を貰えない物件と、賃料の5ヶ月貰える物件では、おのずと営業マンの物件への執着も変わってくるものである。

「そうだ、賃料を滞納している、こぼれみ荘の稲垣さんってどうなっている?回収難しいようだったら保証会社に連絡して督促してもらえよ。念のため言っておくけれど四十日以上過ぎたらの免責で保証してもらえなくなるから気をつけとおけよ」今月の集金帳簿を確認する。

 各住戸の賃料・管理費は引落若しくは、借主が毎月銀行口座に振込する形になっている。

「はい、稲垣さんはルーズで毎月入金が遅れるんですが、督促すると振込してくれますんで、今晩連絡してみます」大西はパソコンの画面を見ながら返答をする。

 借主の賃料滞納にも色々な事情がある、先般の借主のようにルーズなだけの人と、生活がひっ迫して賃料までお金が回らない場合もある。この場合が速やかに保証会社に連絡して賃料の督促と契約解除の処理を依頼する。

 俺も若い時は、情に流されて入金を待ってあげたりしたが、そこに漬け込んで結局、賃料を踏み倒して夜逃げなんて輩もいた。中には払えない事を開き直ってこちらの電話対応・督促状に憤慨したから慰謝料を払えなんて奴もいた。
 やはり、お金絡みの事にはドライに割り切って対応しないといけないとつくづく勉強させていただいた始末だ。

「ル―ズな奴も督促を怠ると、こちらの事を舐めてかかる奴もいるからな気をつけろよ」人間楽な方向に逃げるものだ。

「はい、その辺は気をつけます」大西は笑顔で軽く敬礼をした。



「社長、お昼一緒にいかがですか?」益留のその言葉で、時間が正午になっている事に気が付いた。

「もう、そんな時間が・・・・・・、よし、なにが食べたい?」俺と一緒に行くと昼飯代を節約できるという算段か、しっかりした娘だ。

「私は社長の好きなものでいいです」なぜか、頬を赤くしている。店の温度設定が高いのかもしれない。

「岡田さんも一緒にどう?」事務の百合子にも声をかける。なぜか益留が驚いたような顔をする。

「いいえ、私はお弁当を持参してますので・・・・・・・、それにお邪魔みたいですし」彼女はひょこひょこと頭を下げた。その言葉の意味がイマイチ理解出来なかった。

「じゃあ、大西は?」

「俺もいいっす、この仕事仕上げて巡回の途中で頂きますんで」大西もなにか余所余所しいい感じで辞退した。

「そうか・・・・・・・、それじゃあ二人で行くか」

「はい!」益留は満面の微笑みを見せて頷いた。
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