上 下
11 / 35

パン(黄髪の少女)

しおりを挟む
「小松原君、ちょっといいかな?」案の定、転校生 茶原から行動を起こしてきた。

 茶原が転入してきてから一週間が経過したが、この男は誰とも会話をせずクラスの中で完全孤立の状態になっていた。体全体から発する負のオーラのせいだろう。
 茶原が祐樹に声をかける様子を見て、他の生徒達は驚愕の表情を浮かべた。

「僕の事は判っているよね。 今日の夜十一時に大島公園の境内で待っているから、必ず来てよ!」
 そう言うと茶原は自分の席に戻った。その光景を見て北が駆け寄ってきた。

「おい、なにか言われたのか?」周りに聞こえない位の小さな声で聞いてきた。

「別に、たいした事はないよ」祐樹は答えながら頭を掻いた。

「あいつ不気味だからな、一応気をつけろよ!」北の発する言葉を聞いて、こいつはもしかすると、けっこう鋭い奴かもしれないと祐樹は感心した。

「あいつ、ホモかもしれないぞ!」真顔で呟いた。

「・・・・・・ 」

 祐樹はため息をつきながら、すこしでも北を見直したことを後悔した。

                   

「一体、なんの用だ」神社の境内の上に、祐樹と茶原が向き合っている。
  祐樹の傍らには、レオが猫の姿で座っている。茶原に悟られないように微妙な距離を取っている。

「黒岩 瑤子を殺したのは、君だね・・・・・・」茶原の言葉が祐樹の胸をえぐる。

「なっ、何のことだ」祐樹は茶原の顔を凝視した。茶原は目を逸らさない。

 レオの言ったとおり負のオーラが体中から吹き出ているような感じがした。茶原が普通の転校生であれば、黒岩 瑤子の事を知っているはずは無い。知っているということは、この転校生もやはり・・・・・・。

「貴方も、バンガーなの!祐樹さんは渡さないわよ」唐突にレオの声が聞こえた。レオが猫の姿から、少女の姿に戻っていた。彼女は祐樹を守るように前に出る。

「ガイダーか、少し黙っていてくれないかな」そう言うと茶原は、レオに向けて口を開いた。その口から白い糸が無数に飛び出してレオの体に絡みつく。不意をつかれてレオはかわすことが出来なかった。

「いや! 」糸はレオの口を塞がれて声を発せなくなった。手足も糸で拘束されて身動きすることが出来ない。呪縛から逃れようと、暴れるが糸を取り除くことが出来ない。茶原に足元を刈られて、彼女はその場に丸太のように転がった。

「レオ!」祐樹は彼女の名前を呼び、その糸を剥ぎ取ろうとするが硬く食い込んだ意とを取り除くことが出来なかった。レオはモゴモゴと何かを言おうとしている。

「これで、邪魔者はいない。君を連行する」茶原が長い前髪を上に掻き揚げた。その額にはもう一つ目があった。それは普通の目では無く、ぱっくり横に割れたマブタに間にあった。

「どうして、僕を連れて行こうとするんだ? いったい何をするつもりなんだ!」

「俺達、バンガーの使命は君を確保することだ!それ以外は知らない。ただ、お前を確保できれば銀河を掌握できるそうだからな。俺達以外にも君を狙っている奴らは沢山いると思うよ」言いながら、茶原の脇から新しい腕が四本生えてきた。その足で地を踏みしめると、口から新しい糸を発射した。

 祐樹は近くの樹木の後ろに隠れて糸をかわした。祐樹の変わりに樹木に糸が巻きつく、糸はミシッと幹に食い込んでいる。舌打ちをしてから、茶原は連続して糸を吐き出す。祐樹は左右にステップして攻撃を避けた。茶原の攻撃は尽くかわされた。茶原はイラつきを隠せない様子で、地団駄を踏みしめた。

(なんだ僕って、こんなに運動神経こんなに良かったけ?)祐樹は抜群の反射神経で糸から逃げ続けた。

「ちょこまかと!」茶原が叫んだ瞬間、額の目に向かって小石が飛んでいった。

「グギャー!」どこからか飛んできた小石が茶原の額の目に命中して、人の物とは思えない奇声をあげた。

「いい加減にしなさい!」女の子の声が聞こえた。
祐樹は声のする方向に目をやる。一瞬、レオかと思ったが、未だレオは糸に巻かれて倒れたままである。レオの少し落ち着いた声とは違い少しアニメの、萌えキャラのような声だった。レオの声とは明らかに違う。

「パンのご主人様に、酷い事をしたら許さないですわよ!」境内の鳥居の上に人影が見えた。シルエットと声からして、その人影は少女のようであった。

 その人影は鳥居を飛び降りるとクルッと身をひるがえして、地面に膝と手をついて着地した。少しの余韻を残してから、少女は体を起こした。

 黄色い上着に黒い短いフレアのスカートにブーツ。レオによく似た服装。髪の色は黄色く腰までの長さ。レオより体は、一回り小さいく、その風貌はまるで中学生位のように見える。それでも胸は大きくスタイルは良い。風で短いスカートがヒラヒラ揺れている。

「レオお姉さま!ひどい!」転がるレオの姿を見て少女が悲鳴をあげる。

「モグモグ!」レオは体をクネクネしながら何かを言おうとしている様子であった。その様子を見たが、黄色い少女は、レオを助けることを後回しにしたようだった。

「貴方をゆるしませんから!ご主人様、シンクロ・パンなのです!」

「えっ? ご主人様って・・・・・・」唐突に言われて祐樹は戸惑いながら、自分の顔に人差し指を指した。

「シンクロ・パンって叫んでください! 早く!」黄色い少女は、早く叫ぶように祐樹を即した。

「あぁ、シンクロ・パン!」祐樹が叫ぶと、少女の姿は黄色く輝き宙に消えた。 次の瞬間、祐樹の体は、メタルガイダーに変わっていた。

「メタルガイダー・パン!」祐樹の体は、黄色く輝いていた。祐樹は少し体の重心を落とした後、下半身に力を込めて勢い良く宙に飛び上がった。

「ガイダーめ!逃がすか!」茶原は宙を舞う祐樹に向かって新しい糸を飛ばした。その瞬間、祐樹の体にバリアのような物が発生して、飛んでくる糸を跳ね返した。

「パンの能力は守備力の強化なのです。攻撃する場合は直接攻撃になります!ご主人様!」目の前のモニターに先ほどの少女の顔が写しだされている。 

 彼女の名前はパンと言うらしい。

「直撃攻撃って?」祐樹は言葉の意味が分からずパンに質問する。

「殴るのです!」

「・・・・・・なるほど!」祐樹が腕に力を込めると、両腕が黄色く輝いた。

「おのれ!」茶原は自分の攻撃が有効でないことに、苛立っている様子であった。

「ご主人様、超爆激神モード、スタートなのです!」メタルガイダーの目が黄色く輝いた。彼の体は更に輝きを増して動きを加速した。茶原が吐き出す糸を避けて、その懐に入り込む。鳩尾の辺りがガラ空きの状態である。茶原の腹に向かって祐樹は渾身の力を込めて両手を突き出した。
 茶原の体が土煙をあげながら後方にはじけ飛ぶ。境内の石垣に体がめり込む。

「やりやがったな!」言うと茶原は空中に飛び上がり体を竦めて力を込める。

「一体何をしているんだ、あいつ?」奇怪な行動を見せる茶原を見て祐樹は疑問を口にする。

「次の攻撃が来ます!超爆激神モード、継続中!メタル・トンファー装備!」モニターの中で少女が叫ぶ。祐樹の両手に、中国映画でよく見るトンファーが現れる。

 祐樹はトンファーをクルクルと勢い良く回したと思うと、目の前でクロスした。

 上空の茶原の体から、無数の針のようなものが祐樹に向かって発射された。その攻撃をトンファーでかわしながら、茶原の目の前に移動する。 下から上にトンファーを回転して、茶原の顔面を攻撃する。その攻撃を避けて、茶原が地面に向かって降り立った。
祐樹も続き、境内の上に降りた。

「なんだ、凄い音がしたぞ!」騒ぎを聞きつけた近隣の住人が集まってきた。

「面倒な事になったようだ。今日のところは、この辺で失礼するよ」茶原は前髪を下ろして、学生の姿に戻った。グッと屈んだかと思うと、闇夜に姿を消した。

「くそ! あいつ逃げやがった」祐樹は悔しそうに両手を握り締めた。
 境内の下から、人が近づいてくる気配がする。大人たちの声と懐中電灯の光が見える

「私達も行かないと」パンがこの場を去るように提案する。

「ああ、そうだな・・・・・・」祐樹は、転がっているレオの体を肩に担ぐと、ジャンプしてその場から逃げるように去った。

「これは一体なんだ!」近所の住人達は、神社の境内をみて唖然とした。
地面はめくれ上がり、大きな大木が数本倒れている。

「人間の仕業じゃないぞ、これは!」年配の男性が呟いた。
しおりを挟む

処理中です...