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茶原の最期

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 茶原との約束の時間になった。

 パーク・ランドの閉園時間は夜七時。 
 園内に人影は無く、辺りは真っ暗になっている。
 オランダ風の風車の前に、祐樹達は既に待機していた。

「やい!出てきやがれ!蜘蛛野郎!」ダンが大声で叫ぶ。その声が園内を声が反響する。

「ダン、静かにして!」レオがダンを静止する。

「作戦通り、皆隠れてくれ」祐樹は言うと暗い園内を歩き始めた。レオ達は影に潜んだ。
暗闇の中にも少しずつ目が慣れてきた。祐樹には、思い出が一杯詰まった場所であった。
 家からも、比較的近い為、子供の頃より母に連れられてパーク・ランドによく遊びに来た。園内を走るモノレール、先ほどレオ達と一緒にいた風車前、車をぶつけ合うアクションカート、全てが懐かしい。
 ラビットコースターの前に来て、母と2人でこれに乗った事を思い出した。
 怖がる幼い祐樹の横で、はしゃぐ母。彼女はアクション系の乗り物は大好きであった。反面、祐樹は母が好む乗り物はことごとく、苦手なものが多かった。
 彼女は彼女なりに、引っ込み思案の祐樹を何とかしようと頑張っていたのかもしれない。
 母の事を久しぶりに思い出し、少し胸が詰まるような気持ちになり、涙が出そうになった。
 レオ達が、家に来てから賑やかな毎日が続き、母が亡くなってから悲しむ暇もなかった。
 レオ達に少し感謝しようと祐樹は考えていた。

「良く来たね! 小松原 祐樹!」突然、暗闇の中から声が聞こえてきた。 

「茶原!約束通り来たぞ、奈緒を返せ!」

「そう焦るなよ!」そう言うと祐樹の目の前に人影が舞い降りた。
 月明かりで人影を確認すると目の前に片目に眼帯をした茶原の姿があった。

「俺と黒岩 瑤子はお前を捕まえて『ユーガー様』の前に差し出すように使命を受けていた」茶原の口が開く。少し笑っているように見えるが、それが不気味さを増している。

「ユーガって何だ?」

「ユーガ様こそ、我々の主だ!・・・・・・しかし、お前のせいで俺は切り捨てられた!」笑っていた茶原の顔が、いつの間にか怒りに打ち震えていた。

「銀河が、どうなろうと知った事では無い!どうせ処分されるのであれば、お前を道連れに全てを消滅してやる!」

「待て!奈緒は一体どこに・・・・・・!」茶原は、ゆっくりと指をさした。
 月明かりを頼りに、茶原の指した先を確認した。その先には、小さない池の中をボートが漂っている。そのボートに乗せられて奈緒が浮かんでいた。

「奈緒!」祐樹は奈緒の元に行こうとするが茶原がそれを制止した。

「お前は俺と心中するんだよ!ヘヘヘヘヘ! 」また茶原は不気味な笑顔に戻っていた。体から二対の足を出し蜘蛛の化け物に変わっていった。

「くっ!レオ、奈緒を頼む!シンクロ・ソラ!」祐樹が叫ぶとソラの体が空中に拡散した。祐樹の体は白銀のメタルガイダーに変身した。
 レオは祐樹に指示されたとおり奈緒を助ける。奈緒は相変わらず意識を失っている。 
 レオは奈緒の体を肩に担ぐとボートの上から脱出した。

「メタルガイダー・ソラ!」ソラの声が勇ましく響く。
 祐樹の眼前のモニターにソラの姿が映される。

「祐樹様、早々といきますよ!超爆激神モード・スタート!」ソラが叫ぶとメタルガイダーの目が白銀に輝き全身が白銀に染まる。
祐樹の体は高速に加速して、茶原の背後に移動した。

「ヒー!」茶原は祐樹の動きを把握することが出来ず、哀れな声で悲鳴をあげる。
 メタルガイダー・ソラの加速は、今まで祐樹が体験した加速より桁違いに早い。祐樹が両手を握ると輝きだした。そのまま手の平を開き茶原に向ける。
 祐樹の手から発せられた光の玉が茶原を攻撃する。

「ギョェー!」祐樹の攻撃が命中し茶原は声を上げる。続けて、片手を天に向けたかと思うと上空に光球を発生させた。その光球からいくつもの光線が発生して茶原の体めがけて襲いかかる。茶原は、まるで虫眼鏡で焼かれる虫のようにもがき苦しむ。

「ソラは凄いな!」祐樹は自分の体を視線でチェックした。

「有難うございます。でも私は短期決戦タイプですので・・・・・・超爆激神モード終了します」ソラが言うと加速が終了した。体の動きが鈍くなった。
 その瞬間、茶原が口から粘着物を吐き出した。

「セパレート!」ソラが叫ぶと、変身が解けて祐樹は元の姿に戻った。その瞬間、ソラが祐樹の体を突き飛ばした。

「何なんだ!」祐樹はソラに向かって叫ぶ。その先のソラは、粘着物を背中に受けていた。

「あちっ!」ソラは上着を脱ぎ捨てた。ソラの上着はジューと音を立て溶けている。

「惜しかったな・・・・・・もう少しで、お前の息の根を止める事が出来たのに・・・・・・」不気味な声で茶原が呟く。その声に生気は無くフラフラしている。

「シンクロ・レオ!」赤いメタルガイダーが現れた。祐樹は、長剣を手に出現させると、茶原の体を半分に切り裂いた。茶原の体は、二つの物体に変わったかと思うとその場に転がった。

「・・・・・・」黒岩 瑤子の時のように、茶原も人間の姿に戻っているかもしれない。そう考えると祐樹は、自分が倒した茶原 縛の姿を見ることは出来なかった。

「ソラ!大丈夫か?」変身を解いた祐樹は、ソラの元に駆け寄った。そこには、上着を脱ぎ捨ててタンクトップのようなシャツを着たソラがいた。
 祐樹は自分の着ていた上着をソラに掛けてやった。

「祐樹様は優しいのですね・・・・・・」ソラが、天使のように微笑んだ。祐樹は照れたように頬を指でかいた。次の瞬間、本来の目的であった奈緒の事を思い出した。

「そうだ、奈緒!奈緒は?」奈緒の名前を呼ぶと、祐樹は保護された奈緒の方向に駆けていった。
「もう!」ソラは少し頬を膨らませた。その頭をレオが微笑みながら、ヨシヨシするようになでた。
 奈緒はダンの腕の中で眠っていた。その横には、パンが待機している。

「奈緒・・・・・・」奈緒が無事であることを確認して、安堵のため息をついた。

「うっ、う・・・・・・ん」奈緒がゆっくり目をあける。目の前にある、ダンの巨乳にギョ!っと驚きの声をあげて飛び起きた。

「私、一体どうして!」頭が混乱して、パニックを起こしている様子であった。

「良かった!」そう言うと、祐樹は奈緒の体を抱きしめた。

「ちょ、ちょっと!」奈緒は驚きのあまり、声をあげるが祐樹は離そうとしない。そのまま、頭がボーとなって、祐樹の体を抱きしめ返した。

「あぁ・・・・・・」奈緒は、ボーとなって再び意識を失った。

「う、ううん、うん!」ダンの咳払い。

「ご主人様!過激なのですわ!」パンが悲鳴のような声をあげた。その声で我に返った祐樹は、顔を真っ赤にして奈緒の体をダンに預けた。



「やはり勝手なことをして、自業自得ね・・・・・・」暗闇の中から女の声が聞こえた。
「だっ、誰だ! 」祐樹が叫ぶと、レオ達はいつでも対処出来るように身構えた。奈緒はダンの腕でお姫様抱っこされている。
暗闇の中から、ゆっくり女は歩いてくる。そして、茶原だった肉の塊に右手の平をかざした。
その瞬間、肉の塊は宙に舞い、まるで空気に溶け込むように消えていった。
「明日から、彼の処遇はどうしましょう。 急遽、親御さんが海外に転勤とか・・・・・・ でいいか」女の姿が月明かりで見えた。その顔は見覚えのある顔であった。
「紫村・・・・・・ 先生?」その女は、祐樹のクラスの教育実習生、紫村 弥生であった。
「は~い、小松原君、こんな時間に女の子を連れ出して夜遊び? 感心しないわね」頭を軽く傾げて紫村は微笑んだ。
「先生がなぜ、ここにいるのですか・・・・・・ ?」
「判るでしょ。 私は茶原達の仲間よ。バンカーではないけれど・・・・・・。私は、彼らみたいに強引に君を連行するつもりはないわ」
「・・・・・・どういうことだ? 」ダンが口を挟んだ。
「貴方を探しているのは、ユーガ様、ユーガラガー・ナユター銀河の王、真のコアよ」紫村は背筋を伸ばして胸を張った。

                        

「ユーガって何者なんだ・・・・・・ 」祐樹は自分の部屋のベッドに腰掛けていた。奈緒も隣に座っている。 目の前には、レオ達が床の上に座り込んでいる。
「私達は、祐樹さんを守る為に生まれてきました。前にもお話しました通り、余分な記憶は全て削除されています。貴方を守る事が私達の使命。だからそれ以外の事は判りません」レオが自分達も事情が分からないことを説明した。
「でも、紫村は、そいつの事をコアだといった。 ということは俺は・・・・・・ 違うのか? 」
祐樹の横で、奈緒は何の話か理解出来ずに戸惑っている。
「ご主人様・・・・・・ 」パンが心配そうな顔で祐樹を見た。
ガシャン! とガラスの割れる音がする。祐樹は奈緒の体を覆いガラスの破片から守った。
「何だ、一体! 」部屋の窓を見ると、ガラスが割れている。割れたガラスの破片の中に、石が混じっている。
「人殺し! 」窓の外から声が聞こえる。窓からダンが飛び出して、声の主を捕まえる。
その様子を見て、祐樹たちは外に飛び出していった。
「離せよ! 」ダンに捕らえられた少年が暴れている。年齢は十二、三歳程度、中学生であろう。
「人殺しって、何のことだよ! 」少年の襟を鷲づかみして祐樹が吼える。
「祐ちゃん、落ち着いて! ねぇ、君、どういう事か説明して」奈緒が少年やさしい口調で説明を促した。「ちっ! 」と舌打ちをしてから、祐樹は手を離す。
「だって、こいつが姉ちゃんを殺したんだ! 絶対! 」少年の目から涙が零れ落ちる。その涙を腕で必死に拭っていた。
「姉ちゃんって、お前は・・・・・・? 」祐樹は少年の言葉の意味が理解できずに質問をした。
「僕の姉ちゃんは、黒岩 瑤子・・・・・・ お前に殺されたんだ!」キッとした目で、祐樹を睨みつける。その手をワナワナと震えている。
「ちょっと、待ってよ! 祐ちゃんも、お母さんをころ・・・・・・ 亡くしているのよ。
誰がそんな事を言ったの!」激しい口調で奈緒が聞いた。その気迫に驚き、少年が口ごもった口調で答える。
「皆が言うんだ、小松原 祐樹が絶対犯人だって・・・・・・ 」祐樹を指差した。
「あのなぁ・・・・・・ 」何か言おうかとしたが祐樹はやめた。
「だって・・・・・・、あいつと姉ちゃんが一緒にいたのを、皆よく見たっていっていたし、あいつのお母さんも・・・・・・、同じ日に殺されているし、目撃者の証言からも、背格好はあいつに似ていたと言っていたみたいだし・・・・・・ 警察が、他に不審者が見当たらないって言っていたから・・・・・・ 」
少年の言葉を聞いて、警察が自分を疑っていたのだと思った。思い起こせば、刑事にアリバイなどを執拗に聞かれた。疑われていたのであれば納得がいく。
隙をついて少年が逃げ出した。
「僕は、絶対お前を許さないからな!」そう叫ぶと少年は全速で逃亡していった。
「あのガキ! 」ダンが追いかけようとした。
「いいよ、ダン・・・・・・、でも、どうしてバンカーに家族がいるんだ?」あごの下に拳を置き、考える人のような仕草をした。
「ご主人様・・・・・・ 」パンが心配そうに祐樹を見る。
「パン、いいわ。私が説明するわ」パンの肩に手を置き、レオは目を閉じた。
「バンカーは、人間に寄生するのです。 だから、黒岩 瑤子、茶村 縛も家族肉親がいるはずです」レオは目を見開いた。
「なっ、なんだって・・・・・! 」祐樹は驚きのあまり声が出ない。
「どうしたの、バンカーってなに? どういうことなの! 」奈緒は状況が理解できずに戸惑っている。ダンが奈緒の後頭部をタン! と叩く。 奈緒はガックっと膝を落として意識を無くした。
「・・・・・・部屋に戻りましょう」ソラが祐樹に促した。呆然と立ちすくむ祐樹の背中をパンが押した。階段を上り、祐樹の部屋に戻るとダンは眠る奈緒をベッドの上に横たえた。
レオは髪の毛をかき上げてから、言葉を再開した。
「バンカーは、人間の脳に巣食うのです。寄生された人間の脳は、完全に意識をなくします。知識は寄生したバンカーに移されますが・・・・・、寄生された人は、すでに死んでいるといえるでしょう」
「どうして、その事を黙っていたんだ・・・・・・、どうして教えてくれなかったんだ! 」祐樹は激しくレオ達を罵った。
「それを、知っていたら貴方は戦えましたか? 知っていれば、黒岩 瑤子と茶原 縛を助けることが出来たのですか?」淡々とレオは続けた。
「そっ、それは・・・・・・ 」祐樹は反論することが出来ずに俯いた。
「たとえ、貴方がコアで無くても私達は貴方を守る。それだけが私達の存在意義なのです。 貴方を助ける為でしたら、この体を犠牲にしても戦います。たとえ、他の誰かを傷つけても・・・・・・ 」レオは眠る奈緒の姿に目を向けた。
「・・・・・・ 」祐樹も無言で奈緒を見つめた。
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