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紫村の正体

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 自宅謹慎が昨日で終わった。 
 祐樹は玄関に座り靴紐を結ぶ。

「ご主人様、学校に行かれるのですか・・・・・・パンは少し寂しいのです」口を尖らしてパンは呟く。祐樹はパンの頭を撫でて微笑んだ。

「ありがとう!行ってくるよ!パン」
手を振ると、祐樹は玄関のドアを開けて出て行った。その後を、三匹の猫が追いかけていく。祐樹が飛び出すと、目前の電柱に奈緒が待っていた。

「おはよう!祐ちゃん」手を振りながら、祐樹の元に奈緒が近づいてくる。

「おはよう・・・・・・」愛想の無い返事を返した。
 以前と同じように奈緒が祐樹の横に並び、学校への道を歩いて行く。ただ、動作は同じであっても。祐樹の心は以前とは、全く違うものに変わっていた。

「ねえ、あれがレオさんたちの変身した姿なの?」後ろをついてくる三匹の猫を指差して奈緒は祐樹に問いかけた。

「うん、そうだ・・・・・・ 」小さな声で、奈緒の質問に答えた。
 昨晩、眠りから覚め落ち着いた奈緒に、今までの出来事、事情を洗いざらい説明した。
 奈緒は「またまたまたー」と言って信じなかったが、メタルガイダーに変身した姿を見せてやる事により、やっと納得した。

「結局、黒岩を殺したのは俺なんだな・・・・・・」小さな声で、祐樹は呟いた。

「えっ、何?」先ほどの祐樹の声を奈緒は聞こえなかったようだ。

「いいや、別になんでもない」祐樹はソラを見上げながら歩いた。
 今日は天気が良くて、雲が一つも無い言葉通り快晴である。
 学校に到着、奈緒と別れて7組の教室に入る。 
 祐樹が現れると教室の中は沈黙に包まれる。祐樹は、そんなに謹慎明けが珍しいのかと思った。

「北、おはよう」自分の席に座る北に向かって朝の挨拶をする。

「・・・・・・おはよう・・・・・・」うつむいたまま、北は返答した。なにやら隅の方では、祐樹の顔を伺いながらヒソヒソ話をしている者がいる。
 祐樹は訝しげな表情のまま、窓際の自分の席に座った。窓の向こう側の木には、3匹の猫が座っている。
 始業のチャイムが響くと、生徒達は自分の席に戻った。
 教室のドアが開くと紫村 弥生が教室に入ってきた。
 担任の松下は、後方のドアから入室し様子を確認しているようだ。教育実習生のお手並みは意見というところであろう。
 紫村は大きな胸が窮屈に思えるブラウスと、黒のタイトスカートを着用している。これでメガネでも掛けていたら、マニアックなゲームのキャラクターだと祐樹は思った。スタスタと歩く紫村の姿は、まるでモデルのように優雅であった。紫村が教壇に立つと、本日の日直が号令をかけた。

「起立!」生徒達は立ち上がる。

「礼!」生徒達は一斉にお辞儀をする。

「おはようございます!」生徒達の息の合った声が響く。

「おはよう!」紫村は軽くウインクをして挨拶を返した。祐樹は紫村の顔をキッ!と睨みつけた。紫村は、それに気づかないように平然としている。

 祐樹は窓の外にいる猫達を見ながら、先日の、パーク・ランドの事を思い出していた。

「本来、私達は貴方に危害を加える意図はないのよ」唐突にその言葉は発せられた。

「それなら、あの蛙とさっきの蜘蛛の化け物はなんなんだ!」ダンが紫村に対して声を荒げた。

「彼らには、方法を選んで小松原君を連れてくるようにと指示したのだけど、勘違いしたのかしら。ねぇ」人事のように紫村は微笑んだ。言いながら空の星を眺めている様子であった。

「ふざけるな!あいつは、・・・・・・黒岩は、母さんを殺したんだぞ!」今まで抑えてきた気持ちが爆発しそうになった。祐樹は、今にも紫村に飛び掛りそうな勢いだった。ソラとパンがそれを制止した。

「お母様の件に関しては、申し訳ないことをしたと思うわ。あれも黒岩が独断でやってしまった事、私達の指示ではないわ」全く悪びれた様子も無く、平然とした口調で紫村は謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ないだと・・・・・・そんな言葉、誰が信じるんだ!」ダンが激しい口調を紫村に浴びせた。拳をきつく握りしめている。
「そうです!酷過ぎるのです!」パンが目に涙を浮かべている。
「くっ、シンクロ!・・・・・レオ!」祐樹は叫ぶと、レオの体は空中に消えて、祐樹に纏わりついた。赤いメタルガイダーへと変身した。祐樹は怒りで体が震えるのを押さえることが出来ない。

「メタルガイダー・レオ!」叫ぶと同時に祐樹の手に長剣が現れる。

「超爆激神モード、スタート!」全身から赤いオーラのようなものが噴出する。長剣を頭の上に構えると、祐樹は紫村めがけて突進した。

「馬鹿ね!」紫村は右手を差し出すと、突進してくる祐樹に向けて気合を込めた。

「フン!」その手から祐樹に向かって気のようなものが襲い掛かる。

「うわー!」祐樹は苦痛の声を上げながら後方に吹っ飛んだ。

「ご主人様!レオお姉さま!」ソラとパンが祐樹の元に駆け寄った。ダンは、奈緒を抱えたまま紫村を睨みつける。
 祐樹とレオは、変身を解いてそれぞれの姿に戻った。

「畜生!」祐樹は地面を殴りつけた。 レオは信じられないといった表情で紫村を見た。

「貴方達のシンクロは、まだまだのようね。お互いを信じきれていないわ。さっきの銀色のガイダーのほうが、まだシンクロ率が良くてよ」紫村は、長い紫色の髪を掻き揚げた。

「・・・・・・褒めても、何もでないんだからね! 」ソラが両手で赤く染まった頬を押さえた。

「ソラお姉さま!喜んでいる場合じゃないですよ!」パンがソラをたしなめた。
「私のせいで・・・・・・」レオは視線を地面に落とした。
「とにかく、今は無用な争いはしたくないわ。必ず、貴方からこちらに来る事になるわ。それまでは、可愛い生徒を続けてね。 私は美人教育実習生を演じるから、ね!」微笑みながら小刻みに手を振った、紫村の背中から見事な羽が現れる。 

 その姿は巨大なアゲハ蝶のようだ。
 紫村は羽を開いて宙を舞って姿を消した。

祐樹は消えていく紫村の姿を、歯を食いしばりながら見送った。
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