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空からの来訪者

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 学校の放課後、校舎間を結ぶ渡り廊下で祐樹は一人校庭を見つめていた。
 野球部、陸上部、サッカー部が練習している。
 体育館の窓から舞台が見える。その舞台の上では空手部が練習している。
 空手部は人数が少なく、練習場所が確保出来ない為、舞台の上を活用して練習をしている。
 移動稽古をする奈緒が目に入る、真剣な顔で拳を前に突き出して移動していく。

「小松原・・・・・・」背後から気の抜けた声が聞こえた。祐樹が振り返ると、北の姿があった。北は暗い顔をして下を向いている。

「おぉ、北、どうしたんだ?」気配に気が付かず、突然目の前に現れた北に驚いた。

「すまない、小松原!俺・・・・・・」北は地面に付きそうな勢いで頭を下げた。

「一体、何だよ、北?」唐突に誤る北の様子を見て、祐樹は驚いた。
一呼吸置いてから、北が話し始めた。

「皆が噂しているんだよ。その・・・・・・、黒岩を殺したのは、お前じゃないかって・・・・・・」北は言いにくそうに言葉を発した。

「!」祐樹は目を見開いた。

「それにお前と揉めていた茶原も、急に行方不明になったから、皆、疑心暗鬼になっているんだよ・・・・・・ それに、お前のお母さんも・・・・・・ 」そこで北は言葉を止めた。

「そうか・・・・・・それで皆の様子がおかしかったのか」朝の通学の時から、何故か周りの雰囲気がおかしいと感じていた。 教室に入ってからも、クラスメイトがよそよそしい感じがしていた。確かに、冷静に考えるとあまりにも人の死が多すぎる。転校生が一人、クラスメートの母親が殺害され、更に別の転校生が行方不明。クラスの中に犯人がいると考えるものがいても無理はない。
 奈緒もきっと、此の事を知っていた筈である。
 祐樹と一緒にいることで同じように見られる事を、奈緒は分かっていたであろうに、彼女はいつもと変わらぬ態度で、ずっと接してくれていた。祐樹は改めて奈緒の気持ちに感謝した。

「北、教えてくれて有難う」祐樹は北に対して、真摯な気持ちでお礼を述べた。

「いや、朝は・・・・・、ごめんな・・・・・・小松原」北は申し訳なさそうな表情を見せた。きっと祐樹を話をする事は、北に対するクラスメイトの視線も冷たいものになるであろう。
 それを承知で、状況を説明してくれた北にも祐樹は感謝した。

「気にしていないよ、俺は・・・・・・」祐樹はもう一度校庭を見た。

「なんだ!あれは!」校庭の生徒達が空を指差す。つられて他の生徒達も空を見上げる。

「えっ。まさか? 」誰も目の前の状況を理解するのに時間を要した。

「そんな・・・・・・」生徒達は唖然とした表情で空を見上げている。野球部のピッチャーはグローブの中からボールを落とした。
 騒ぎに驚いて、体育館の中の生徒達も飛び出してきた。 出てきた生徒達も空を見上げて、同じ反応をしていた。空手着を身に纏った奈緒の姿もあった。

「おい。小松原・・・・・・、あれ・・・・・・」北が魂の抜けたような声で確認してきた。指差す右手は小刻みに振動している。

「ああ、UFOだ・・・・・・」、もちろん、祐樹もUFOを見るのは今回が初めてのことであった。
 晴天の空に、無数のUFOが浮かんでいた。
レオ達三人にパンが加わり祐樹の前に姿を見せた。

「えっ、この子達は? 」北が驚く。突然、制服姿ではない美少女が四人も目の前に現れた。 UFOの衝撃を合わせて頭が混乱していた。

「祐樹さん、この場を離れましょう!」レオは北の存在を無視するかのように言った。

「あぁ・・・・・・」祐樹はボーっとソラを見つめながら曖昧な返答を返した。

「ご主人様、早くするのです!」パンは祐樹の手を引き走り出した。その後をレオ達も追いかけていった。
 残された北は呆然と彼女達が消え去った後を見続けた。

 ガガガガと雑音が空から聞こえ、UFOの存在を思い出して空を見上げる。
 複数のUFOの真ん中が赤く輝いたかと思うと、光線が地面に放たれた。その瞬間複数の爆発音が響いた。どうやら攻撃をされたようだ。

「侵略だ!」爆風に驚き、北はその場にガタガタと震えながら座り込み動けなくなった。
2発目が来ると思われた攻撃は、始まる気配が無かった。
 しばらくしてから、自衛隊の戦闘機が数機飛んできて、UFOの周りを旋回している。
数分間経過した後、UFOから機械音のようなものが聞こえてきた。

「ガガガ、ギギギ、ワワワ、ワレワレワレ、我々は、地球人と戦闘するつもりは無い」昔のラジオの周波数を合わせるように、適切な言葉を拾い出してUFOは放送を始めた。

「我々は、一人の人間を探している。今からその、人間の顔を上空に写す。直ちにその人間を我々に引き渡すのだ。隠し立てすると、地球人は後悔することになるであろう」

 晴天の空に、フォログラフィーのような映像が映し出された。上空に一人の男性の姿が映し出される。
 体育館から飛び出した奈緒が唖然とした表情でその男性の姿を見つめた。

「どうして、祐ちゃんが・・・・・・」奈緒は驚きを隠すことが出来なかった。

 同じ時、職員室の窓から空を見上げていた教師達の中に紫村の姿があった。

「あれは、7組の小松原じゃないですか?松下先生!紫村先生!」体育教師が上空に映る小松原 祐樹の姿を指差す。指の先には、祐樹の顔が空いっぱいに大きく映し出されていた。

 紫村は空に映る祐樹の顔を見ながらため息をついた。

「ちっ!思ったより早かったわね・・・・・・」紫村は、舌打ちをすると職員室から飛び出した。

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