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「なぜ、俺達はオリに閉じ込められているんだ?」ダンが素朴な疑問を口から発した。祐樹達はシャボン玉に乗せられた後、大きな城のような建物の中に移動させられた。なにも、事情を説明も無いまま、この牢屋の中に祐樹とダン達は押し込まれた。ただ、その中にはレオの姿は無かった。

「だから言っただろう・・・・・・、罠だって」ダンが呟く。彼女は両手で柵を掴みながら外の様子を確認する。周りに人がいる様子は無い。

「パンはショックなのですぅ・・・・・・ レオお姉さまが、パン達を騙していたなんて・・・・・・ 」パンは拗ねた少女のように、オリの隅で体育座りのような姿勢でいる。
 ソラは壁に向かってブツブツ何かを喋っている。お経でも唱えているようにも見えるが、危ない感じだったので、祐樹はそっとしておくことにした。

「何か、事情があったんだろう、レオにも・・・・・・」祐樹は壁にもたれて、遠くを見つめるような目でオリの外を見ていた。その言葉は祐樹自身に言い聞かせているようにパンは感じた。

「でもよ! 俺たちガイダーは、コアである祐樹を守る為に創られた筈じゃないのか?
どうしてレオに姉妹がいるんだよ!おかしいじゃねえか?」ダンが納得いかない様子で柵を叩いた。その音が空間に響く。

「ダンお姉さま、落ち着いてくださいですの。なにか脱出する方法を考えないと・・・・・」パンは檻に背中を預けながら腕組をした。

「おいソラ、壁と喋っていないで何か考えろよ!」ダンが激しくソラを罵倒するが、ソラは気にしない様子で、壁に向かってブツブツと喋っている。

「フフフフ・・・・・」小さな微笑の声を漏らした。

「駄目だ、こりゃ・・・・・・」ダンは、外人のように両手を挙げて呆れるように呟いた。

「お姉さま!あそこに誰かいますよ・・・・・・」パンが振り向き、暗闇の向こうを指差す。パンの指の示す方向に目を凝らして見た。その先には・・・・・・。

「レオか・・・・・・」ダンの声に反応して、祐樹も食い入るように暗闇の中にレオの姿を探した。
 そこには、表情を曇らせたレオが少し俯いて立っていた。いつもと服装とは違い、鎧を連想させる服装であった。カラーリングは赤、胸元、二の腕、お腹の辺り、太ももが露出していて、祐樹は目のやり場に困惑した。

「レオ・・・・・・、一体どうしてこんなことに・・・・・・・。 訳を、理由を教えてくれよ」祐樹は柵を握りしめてレオの顔を見た。祐樹はレオの目蓋が小刻み震えていることを確認した。

「レオお姉さま・・・・・・」祐樹の隣にいるパンの目にも涙が溢れそうになっている。

「私は・・・・・・」レオは祈るように両手を重ねていた。その手が震えている。
 暗闇の中から、何者かの手が伸びて震えているレオの肩を掴んだ。レオが振り返るとそこにはレイこと紫村の姿があった。彼女は、レオに良く似た濃い紫の鎧を着用している。

「私が説明するわ」レイはレオの前に出ると、祐樹達の目の前に歩み出た。

「銀河とコアの関係は知っているわね」レイは髪をかきあげた。長い髪がゆっくり美しく舞った。

「ああ・・・・・・」祐樹は軽く頷いてから、レイの顔を睨みつけた。

「私とレオがお仕えする、銀河の真のコア『ユーガラガー・ナユター』様。小松原君、君はユーガ様のコピーなのよ」レイが勢い良く祐樹の顔を指差した。

「俺が、コピー・・・・・・?意味が解らないんだが・・・・・・ 」訝しげに祐樹は目を細めた。唐突な話に何を言っているのか全く理解することが出来なかった。

「コアには、危険と敵が多いのよ。アンドロメダ、オリオン、マゼラン・・・・・・ 皆、コアを手中に治めて、銀河を征服しようとしているのよ。そこで、ユーガ様は、目くらまし作戦を思いついたの」レイは大げさなジェスチャーで説明を続けた。

「もう解るでしょう。小松原君、貴方はユーガ様のクローン人間なのよ!」

「えっ・・・・・・、俺がクローン・・・・・・人間? 」祐樹の口が斜めに歪んだ。クローン、羊で成功しただの聞いたことはあった。あとは、漫画とか、アニメ・SF映画の中でしか聞いたことが無い言葉。人間のクローンの話など、現実には聞いたことがなかった。

「ご主人様・・・・・・ 」「祐樹・・・・・・ 」「・・・・・・・ 」ダン達が一斉に祐樹を見た。彼女達は一様に驚きで目を見開いていた。

「ユーガ様から、敵の目を逸らすために辺境の星 地球にクローン人間、小松原 祐樹を送り込んだのよ。小松原祐樹がまがい物であることは極秘事項、ユーガ様のご指示で計画を中断して、小松原 祐樹を回収する命令が出たの。でも、回収を指示したバンカー達に、計画の詳細まで教える訳にもいかずに、黒岩、茶原のように無茶をする輩がご迷惑をかける結果となったの。暴走するバンカー達を制御する為にレオを派遣したのよ」レイはレオの背後から、両肩を押して祐樹の前に差し出した。

「レオは、私の正真正銘の妹。ただし、体の遺伝子を組み替えてガイダーになったのよ。生まれながらのガイダー、パン、ダン、ソラとは違う存在よ。記憶の操作もしていない」

「・・・・・・ 」レオは押し黙ったまま何も言わない。

「レオ・・・・・・、初めから俺を騙していたのか? 」祐樹はレオの顔を凝視しながら聞いた。
 レオが少し顔を上げた。少し祐樹の顔を見つめてから無言のまま、斜め下の床を見つめた。その目には微かに涙で潤んでいるように見えた。

「紫村先生・・・・・・、ちょっと、待ってくれよ。俺は・・・・・・子供の頃からの記憶があるぞ。それに、父さんと母さんも・・・・・・」祐樹は頭が混乱して、うまく言葉を発することが出来なかった。頭の中で母と過ごしてきた日々の記憶が蘇ってくる。

「貴方の母、『真紀』は、貴方の乳母として一緒に地球に送られた。父親は元々存在しないわ。『真紀』から聞いた昔話は、全て作り話よ」レイの口元が少し笑ったように見えた。

「はぁ? 作り話だと・・・・・・!」祐樹は体を乗り出した。

「そうよ。『真紀』も遺伝子操作で作られた人工生命体。どちらかといえば、ガイダー達に近い存在よ。計画では、貴方を育てて普通の人間として死んでいくようにプログラムされていた。でも、イレギュラーによって、気の毒な事をしたと思うわ」

「どうして・・・・・・その、イレギュラーが発生したんだ・・・・・・ 」祐樹は感情を押し殺して、レイに質問した。

「それは解らないわ。どうして今になって、ユーガ様が貴方を呼び寄せようしたのかは、私達にも理由を教えていただけなかった」レイはゆっくりと自分の長い髪の毛を掻き揚げた。どうやら髪を掻き揚げるのが彼女の癖のようであった。

「レイ様!」突然、暗闇の中から少女の声が聞こえる。先ほどのニールであった。ニールは飛んできた勢いを制御できずに、壁に激突した。

「ニール、何か用?」レイは、頭を押さえながら肩に舞い降りたニールに目を向けた。

「痛たたた、ユーガ様が、小松原 祐樹を見たいと申されております」ニールは片目をつむり頭をさすった。相当痛かったのか、その目から涙が溢れ出ていた。

「そうか・・・・・・。後ほど謁見させていただくとお伝えして」ニールは痛みを堪えて頷くと羽を広げて飛んでいった。飛び去った後に、花粉のような粉が飛んでいる。

「それでは後で、貴方たちを迎えに来るわ。準備をしておいてね。レオ行くわよ」レイはニールが飛んでいった方向に歩いていった。続いてレオが歩いていく。

「一体、どんな準備をしろっていうんだ?」ダンがレイの言葉に反応して吼えた。
 ダンの言葉を無視して、レイとレオは立ち去っていく。

「レオ!お前は、本当に初めから全て知っていたのか?」祐樹はレオに聞こえるように大きな声で叫んだ。
 レイは祐樹の言葉に反応して立ち止まった。振り向かずに・・・・・・。

「・・・・・・ええ」レイは答えてから再び歩いていった。

 レオの右手には祐樹に貰ったライオンのキーホルダーが握られていた。
 
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