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お前のせいで……。
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「本当に還るの? ここに居れば貴方は王様のような生活ができるのに、地球に戻れば後悔すると思うわよ」レイが合図をすると、ヘブンズロードが七色の光を放った。
「俺は、地球人だから・・・・・・・、奈緒達を助けたいんだ!」祐樹が拳を握りしめる。その肩の上で同じようにニールが拳を同じように握っている。
「祐樹、行こう!」ニールが祐樹の耳元で叫ぶ。
「えっ! ニール、貴女も小松原君と一緒に行くの? 」レイは驚く。
「当たり前でしょ! 私と祐樹は2人で一緒よ! 」ニールは自分の胸に手を当て、誇らしげに呟く。
「ちょっと待て、聞き捨てならないね!」ダンが両手を重ねてポキポキ鳴らしてから、ニールの首元を掴みヒョイと持ち上げた。
「なにするのよ!」手足をジタバタしてニールが暴れる。
「ニール・・・・・・貴女は無理よ。代わりに私がお供するわ!」そう言うとレイは右手を上げてから、下に手を振り下ろした。レイの体が輝き鎧が消え、スーツに変わる。レイは紫村先生に変身した。
「なにしろ、小松原君の担任ですからね!」腕組をして紫村は立っている。
「教育自習生でしょう・・・・・・」祐樹が突っ込んだ。
「さあ、行きましょう」レオが先陣を切ってヘブンズロードに足を踏み入れた。後ろを祐樹がついて行く。
「きゃ!」ダンが、つまんでいたニールを捨てるように投げた。
「ちっちゃいのは、おとなしくしてな!」ダンは意地悪な笑いをしてから、祐樹に続いた。その後を、紫村、パン、ソラが追いかけていく。
「もー、私も行くの!」ニールは、宙を舞ってからヘブンズロードに飛び込んだ。祐樹に追いつくと、祐樹の肩の上に飛びついた。
「あっ!」ダンが吼える。
「ベー!」とニールが舌を出した。
「ところで、どうしてユーガは俺を連行させたんだ。結局自分で墓穴を掘ったようなものだよな」祐樹は紫村(レイ)に聞いた。
「そうね・・・・・・、貴方を、手元において皆が貴方の紋章に気づく前に紋章を自分の体に戻す方法を探ろうとしたのだと思うわ。ただ、その方法が見つかるまで、貴方を死なない程度に監禁するつもりだったのよ」
「酷過ぎます・・・・・・。ご主人様が可哀想すぎるのです」パンが目を潤ませている。
「ありがとな!パン!」祐樹はパンの頭を優しく撫でた。
「わ~ズルイ!祐樹の紋章を見つけたのはニールなのに!」ニールは頬を膨らませて怒る。
「はいはい!ニールも有り難うな!」祐樹はニールの頭も撫でた。
「わ~ズルイ!祐樹のズボンを下ろしたのはダンなのに~ 」ダンは頭を撫でてもらおうと祐樹に差し出す。
「さあ、急ぐぞ!」祐樹は無視をして先へ進んだ。ダンは頭を前に出したまま、立ち尽くしていた。
ヘブンズロードの出口が見える。さらに足を前に踏み出すと景色が一変した。
「なんなんだ・・・・・・これは?」祐樹は辺りの状況を見て愕然とした。
廃墟となった街、崩れ落ちた校舎。焼け焦げた匂いが漂う。
「アンドロメダの奴ら攻撃しやがったんだ!」ダンが右の拳を左手で受けた。
校舎の中から物音がする。その音に反応してレオが走っていく。
「おい!レオ」祐樹も後を追う。ニールの体を優しく掴み、胸のポケットに収めた。
レオは教室の窓を飛び越えて中に飛び込んだ。その瞬間、人影が逃げようとしたのが見える。
「動かないで!」レオは右手に剣を構えて叫んだ。
「・・・・・・たっ、助けて、殺さないで・・・・・」その場にへたり込んで命乞いをした。
レオの後を追ってきた祐樹達が飛び込んできた。
「レオ・・・・・・、どうした・・・・・お、お前は!」祐樹は驚きの声をあげて屈みこんだ。
命乞いをする男が顔を上げる。男は驚愕の表情を浮かべる。
「小松原!・・・・・・お前、小松原か!今まで一体どこに!」男は祐樹に飛び掛ってきた。その勢いで祐樹は後ろに倒れこんだ。馬乗りになった男は祐樹の顔面を一発殴った。
飛び込んできたダンとレオが男の脇を抱えて後方に引っ張った。レオが剣を男の顔に向けて突き刺そうとした。ダンもその手に銃を握りしめている。
「止めろ、レオ! ダン! 」祐樹の声がレオを制止する。口から流れる血を拭いながら立ち上がった。
「くっ・・・・・・ 」ダンが苦虫を潰したような顔をした。
「北・・・・・・、いったい、何があったんだ」祐樹は男の前に近づいて質問をした。
学生服がボロボロに破れて、顔は泥と墨で汚れており頬も少しこけているように見えるが、男は祐樹のクラスメイトの北であった。
「宇宙人が攻撃する前に、自衛隊が攻撃を仕掛けた・・・・・・。でも全く通じなかった。それで、宇宙人は制裁だと言ってこの辺りを攻撃したんだ。皆、死んでしまった奴や、行方の知れない奴も・・・・・・・。この攻撃は、お前のせいだって皆が・・・・・・。」虚ろな表情を下に向けて北は呟いた。
「てめぇ!」ダンが襟首を掴んで北の体を持ち上げた。
「止めなさい!」紫村の声が教室に反響する。
「紫村・・・・・・先生?」北が目を見開いて紫村の姿を確認し震えながら彼女を指差した。
「・・・・・・」紫村は無言でその視線を受けた。
廊下の辺りから、物音が聞こえる。
「誰ですか!」パンとソラが音の方向に構えた。
音の方向から、ゾロゾロと人影が這い出てきた。その様子は、まるでゾンビ映画のような雰囲気であった。
「お前達・・・・・・ 」それは、生徒達であった。
「先生!」生徒達は紫村めがけて駆け寄ってきた。生徒の数は5人。女子3人と男子2人、皆服は薄汚れていた。祐樹達の服は汚れが無く、逆にその場には不似合いであった。
女子は紫村にしがみついてワンワン泣いている。男子は祐樹をキッした表情で睨みつけた。
「俺の・・・・・・せいなのか? 」祐樹は目を見開いて床を見つめた。
「・・・・・・本当に、これで良かったのかしら・・・・・・?」紫村が小さな声で祐樹に問うた。しかし、祐樹には選択の余地は無かった。地球を見捨てるか、自分だけレオ達と幸せに暮らすか・・・・・・ 地球を見捨てる選択など祐樹には選ぶ事は出来なかった。
別の人影が見えた。夕日が逆光になり、シルエットしか見えなかった。
「祐ちゃん・・・・・・祐ちゃんなの? 」聞きなれた声が聞こえる。祐樹は声のする方向に瞳を向けて、目を細めて顔を確認した。
そこには一人の少女が立っていた。
「な、奈緒・・・・・・? 」奈緒は瞳に涙を溜めている。今にも溢れ落ちそうな勢いである。
「祐、祐ちゃん、祐ちゃん! 」奈緒は全力疾走で祐樹の元に走っていった。瞳から涙が滝のように流れ落ちた。祐樹には、駆けてくる奈緒の姿がスローモーションのように映った。
バッシッ!
奈緒は力一杯祐樹の腹に足刀を食らわせた。
「うっ!」祐樹は悶絶してその場に倒れた。
「心配したんだから心配したんだからね!」奈緒は大声で泣きながら祐樹の体を力いっぱい抱き締めた。
「心配したなら・・・・・この蹴りはないだろう・・・・・」祐樹は蹴られた腹を押さえていた。
「祐ちゃん・・・・・・、祐ちゃん・・・・・・」奈緒は泣きじゃくる。
「奈緒・・・・・・、この選択が間違っている筈が無い・・・・・・」祐樹は奈緒を抱き締めながら呟いた。その様子をレオは複雑な表情で見守っていた。
ダンは北の襟首から手を離して彼を解放した。
胸のポケットの中でニールがもがき苦しんでいた。
「もう、死ぬかと思ったわ!」祐樹の肩の上でニールが不機嫌そうに言い放つ。祐樹の肩の上が彼女の専用席になったようだ。
祐樹達は焚き火を囲み、パン達が調達してきた食料を食していた。
「・・・・・・あれからは、宇宙人は攻撃してきませんが、このエリアは立ち入り禁止に指定されたようで、だれも助けに来てくれなかったのです」北が紫村に状況を報告している。ただ、紫村はあまり興味が無いようで、食事を黙々と口に流し込んでいた。
「事情は、なんとなく理解できたけど・・・・・、祐ちゃんが、死ぬと銀河系が無くなるなんて想像つかないわ」奈緒が呟く。
「俺だって、未だに信じられないよ・・・・・・」祐樹は頭を激しく掻いた。
「でも、こんな事になったのは小松原のせいだって・・・・・・皆、言ってたぜ」男子生徒の村上が口を開いた。まだ祐樹に対して蟠りを持っている様子である。
「・・・・・・大人達はさっさと逃げて、私達は置き去りよ・・・・・、小松原君が逃げたから、お父さん、お母さんや・・・・・・先生達も皆・・・・・・」女子生徒の一人、篠原が泣き出した。
生徒達の視線が祐樹に集中する。祐樹は炎を凝視した。
「俺は・・・・・・ 」祐樹は少し申し訳なさそうに地面に目を落とした。
「てめえら・・・・・・! 」ダンが拳を握りしめて立ち上がる。祐樹は立ち上がったダンの腕を掴んで首を振った。
突然、祐樹の肩からニールが飛び上がり奈緒の顔の前で羽をバタつかせてホバーリングした。
「ふーん・・・・・・、そうね・・・・・・」ニールは頬杖をついて納得したような顔をした。
「な、なによ! 」奈緒が不機嫌そうにニールの顔を見つめる。ニールは祐樹の耳元に飛んで行き「たいしたこと無いね」と少し聞こえるくらいの小さな声で囁いた。
「ちょっと、聞こえているわよ! 」奈緒は勢いよく立ち上がりニールを掴もうとする。
ニールは、それをかわして宙を舞った。奈緒から届かない位置に滞空してアッカンベーと舌をだした。
「なんなのよ、あの昆虫は!」ニールを指差し奈緒は大声を上げた。ニールは腕組みをしながら「昆虫じゃないもん!妖精だよ!」と言い返した。
「いい加減にしなさい! ニール!」紫村が叱咤した。
ニールが驚き反省したように、祐樹の肩の上に着地した。祐樹は軽く微笑みながら、ニールの頭を軽く撫でた。ニールは目を細めて気持ちよさそうな顔をした。
「皆さんのお気持ちは判ります。ただ、祐樹さんを責めても何も解決はしません。それに皆さんが、言うように祐樹さんが逃げたのなら、ここに彼が戻ってくる訳がありません。・・・・・・本当の事を言うと私達は、祐樹さんに地球を見捨てるように提案しました・・・・・・」レオがそこまで言った時、北達の表情が固まった。
「でも、その提案を祐樹さんは拒みました・・・・・・皆さんを見捨てる事は出来ないと・・・・・・」レオの言葉はそこで途絶えた。
沈黙の時間が流れる。
「祐ちゃん・・・・・・ 」奈緒が少し涙ぐみながら、祐樹の名前を呼んだ。
「皆、認めてもらえないかもしれないけれど・・・・・・、俺の故郷は地球のこの町だし、俺は地球人なんだよ。他の星の奴らには悪いけれど・・・・・・、見捨てるなんて出来ないよ」祐樹は皆の顔を見回した。
「私達も小松崎君が守ると言ったのだから、徹底的に地球を死守するわ。私も担任だしね!」紫村が目の前で拳を握りしめた。
「だから、教育実習生だって・・・・・・。」祐樹が突っ込むと生徒たちに笑いがこぼれた。
「俺は、地球人だから・・・・・・・、奈緒達を助けたいんだ!」祐樹が拳を握りしめる。その肩の上で同じようにニールが拳を同じように握っている。
「祐樹、行こう!」ニールが祐樹の耳元で叫ぶ。
「えっ! ニール、貴女も小松原君と一緒に行くの? 」レイは驚く。
「当たり前でしょ! 私と祐樹は2人で一緒よ! 」ニールは自分の胸に手を当て、誇らしげに呟く。
「ちょっと待て、聞き捨てならないね!」ダンが両手を重ねてポキポキ鳴らしてから、ニールの首元を掴みヒョイと持ち上げた。
「なにするのよ!」手足をジタバタしてニールが暴れる。
「ニール・・・・・・貴女は無理よ。代わりに私がお供するわ!」そう言うとレイは右手を上げてから、下に手を振り下ろした。レイの体が輝き鎧が消え、スーツに変わる。レイは紫村先生に変身した。
「なにしろ、小松原君の担任ですからね!」腕組をして紫村は立っている。
「教育自習生でしょう・・・・・・」祐樹が突っ込んだ。
「さあ、行きましょう」レオが先陣を切ってヘブンズロードに足を踏み入れた。後ろを祐樹がついて行く。
「きゃ!」ダンが、つまんでいたニールを捨てるように投げた。
「ちっちゃいのは、おとなしくしてな!」ダンは意地悪な笑いをしてから、祐樹に続いた。その後を、紫村、パン、ソラが追いかけていく。
「もー、私も行くの!」ニールは、宙を舞ってからヘブンズロードに飛び込んだ。祐樹に追いつくと、祐樹の肩の上に飛びついた。
「あっ!」ダンが吼える。
「ベー!」とニールが舌を出した。
「ところで、どうしてユーガは俺を連行させたんだ。結局自分で墓穴を掘ったようなものだよな」祐樹は紫村(レイ)に聞いた。
「そうね・・・・・・、貴方を、手元において皆が貴方の紋章に気づく前に紋章を自分の体に戻す方法を探ろうとしたのだと思うわ。ただ、その方法が見つかるまで、貴方を死なない程度に監禁するつもりだったのよ」
「酷過ぎます・・・・・・。ご主人様が可哀想すぎるのです」パンが目を潤ませている。
「ありがとな!パン!」祐樹はパンの頭を優しく撫でた。
「わ~ズルイ!祐樹の紋章を見つけたのはニールなのに!」ニールは頬を膨らませて怒る。
「はいはい!ニールも有り難うな!」祐樹はニールの頭も撫でた。
「わ~ズルイ!祐樹のズボンを下ろしたのはダンなのに~ 」ダンは頭を撫でてもらおうと祐樹に差し出す。
「さあ、急ぐぞ!」祐樹は無視をして先へ進んだ。ダンは頭を前に出したまま、立ち尽くしていた。
ヘブンズロードの出口が見える。さらに足を前に踏み出すと景色が一変した。
「なんなんだ・・・・・・これは?」祐樹は辺りの状況を見て愕然とした。
廃墟となった街、崩れ落ちた校舎。焼け焦げた匂いが漂う。
「アンドロメダの奴ら攻撃しやがったんだ!」ダンが右の拳を左手で受けた。
校舎の中から物音がする。その音に反応してレオが走っていく。
「おい!レオ」祐樹も後を追う。ニールの体を優しく掴み、胸のポケットに収めた。
レオは教室の窓を飛び越えて中に飛び込んだ。その瞬間、人影が逃げようとしたのが見える。
「動かないで!」レオは右手に剣を構えて叫んだ。
「・・・・・・たっ、助けて、殺さないで・・・・・」その場にへたり込んで命乞いをした。
レオの後を追ってきた祐樹達が飛び込んできた。
「レオ・・・・・・、どうした・・・・・お、お前は!」祐樹は驚きの声をあげて屈みこんだ。
命乞いをする男が顔を上げる。男は驚愕の表情を浮かべる。
「小松原!・・・・・・お前、小松原か!今まで一体どこに!」男は祐樹に飛び掛ってきた。その勢いで祐樹は後ろに倒れこんだ。馬乗りになった男は祐樹の顔面を一発殴った。
飛び込んできたダンとレオが男の脇を抱えて後方に引っ張った。レオが剣を男の顔に向けて突き刺そうとした。ダンもその手に銃を握りしめている。
「止めろ、レオ! ダン! 」祐樹の声がレオを制止する。口から流れる血を拭いながら立ち上がった。
「くっ・・・・・・ 」ダンが苦虫を潰したような顔をした。
「北・・・・・・、いったい、何があったんだ」祐樹は男の前に近づいて質問をした。
学生服がボロボロに破れて、顔は泥と墨で汚れており頬も少しこけているように見えるが、男は祐樹のクラスメイトの北であった。
「宇宙人が攻撃する前に、自衛隊が攻撃を仕掛けた・・・・・・。でも全く通じなかった。それで、宇宙人は制裁だと言ってこの辺りを攻撃したんだ。皆、死んでしまった奴や、行方の知れない奴も・・・・・・・。この攻撃は、お前のせいだって皆が・・・・・・。」虚ろな表情を下に向けて北は呟いた。
「てめぇ!」ダンが襟首を掴んで北の体を持ち上げた。
「止めなさい!」紫村の声が教室に反響する。
「紫村・・・・・・先生?」北が目を見開いて紫村の姿を確認し震えながら彼女を指差した。
「・・・・・・」紫村は無言でその視線を受けた。
廊下の辺りから、物音が聞こえる。
「誰ですか!」パンとソラが音の方向に構えた。
音の方向から、ゾロゾロと人影が這い出てきた。その様子は、まるでゾンビ映画のような雰囲気であった。
「お前達・・・・・・ 」それは、生徒達であった。
「先生!」生徒達は紫村めがけて駆け寄ってきた。生徒の数は5人。女子3人と男子2人、皆服は薄汚れていた。祐樹達の服は汚れが無く、逆にその場には不似合いであった。
女子は紫村にしがみついてワンワン泣いている。男子は祐樹をキッした表情で睨みつけた。
「俺の・・・・・・せいなのか? 」祐樹は目を見開いて床を見つめた。
「・・・・・・本当に、これで良かったのかしら・・・・・・?」紫村が小さな声で祐樹に問うた。しかし、祐樹には選択の余地は無かった。地球を見捨てるか、自分だけレオ達と幸せに暮らすか・・・・・・ 地球を見捨てる選択など祐樹には選ぶ事は出来なかった。
別の人影が見えた。夕日が逆光になり、シルエットしか見えなかった。
「祐ちゃん・・・・・・祐ちゃんなの? 」聞きなれた声が聞こえる。祐樹は声のする方向に瞳を向けて、目を細めて顔を確認した。
そこには一人の少女が立っていた。
「な、奈緒・・・・・・? 」奈緒は瞳に涙を溜めている。今にも溢れ落ちそうな勢いである。
「祐、祐ちゃん、祐ちゃん! 」奈緒は全力疾走で祐樹の元に走っていった。瞳から涙が滝のように流れ落ちた。祐樹には、駆けてくる奈緒の姿がスローモーションのように映った。
バッシッ!
奈緒は力一杯祐樹の腹に足刀を食らわせた。
「うっ!」祐樹は悶絶してその場に倒れた。
「心配したんだから心配したんだからね!」奈緒は大声で泣きながら祐樹の体を力いっぱい抱き締めた。
「心配したなら・・・・・この蹴りはないだろう・・・・・」祐樹は蹴られた腹を押さえていた。
「祐ちゃん・・・・・・、祐ちゃん・・・・・・」奈緒は泣きじゃくる。
「奈緒・・・・・・、この選択が間違っている筈が無い・・・・・・」祐樹は奈緒を抱き締めながら呟いた。その様子をレオは複雑な表情で見守っていた。
ダンは北の襟首から手を離して彼を解放した。
胸のポケットの中でニールがもがき苦しんでいた。
「もう、死ぬかと思ったわ!」祐樹の肩の上でニールが不機嫌そうに言い放つ。祐樹の肩の上が彼女の専用席になったようだ。
祐樹達は焚き火を囲み、パン達が調達してきた食料を食していた。
「・・・・・・あれからは、宇宙人は攻撃してきませんが、このエリアは立ち入り禁止に指定されたようで、だれも助けに来てくれなかったのです」北が紫村に状況を報告している。ただ、紫村はあまり興味が無いようで、食事を黙々と口に流し込んでいた。
「事情は、なんとなく理解できたけど・・・・・、祐ちゃんが、死ぬと銀河系が無くなるなんて想像つかないわ」奈緒が呟く。
「俺だって、未だに信じられないよ・・・・・・」祐樹は頭を激しく掻いた。
「でも、こんな事になったのは小松原のせいだって・・・・・・皆、言ってたぜ」男子生徒の村上が口を開いた。まだ祐樹に対して蟠りを持っている様子である。
「・・・・・・大人達はさっさと逃げて、私達は置き去りよ・・・・・、小松原君が逃げたから、お父さん、お母さんや・・・・・・先生達も皆・・・・・・」女子生徒の一人、篠原が泣き出した。
生徒達の視線が祐樹に集中する。祐樹は炎を凝視した。
「俺は・・・・・・ 」祐樹は少し申し訳なさそうに地面に目を落とした。
「てめえら・・・・・・! 」ダンが拳を握りしめて立ち上がる。祐樹は立ち上がったダンの腕を掴んで首を振った。
突然、祐樹の肩からニールが飛び上がり奈緒の顔の前で羽をバタつかせてホバーリングした。
「ふーん・・・・・・、そうね・・・・・・」ニールは頬杖をついて納得したような顔をした。
「な、なによ! 」奈緒が不機嫌そうにニールの顔を見つめる。ニールは祐樹の耳元に飛んで行き「たいしたこと無いね」と少し聞こえるくらいの小さな声で囁いた。
「ちょっと、聞こえているわよ! 」奈緒は勢いよく立ち上がりニールを掴もうとする。
ニールは、それをかわして宙を舞った。奈緒から届かない位置に滞空してアッカンベーと舌をだした。
「なんなのよ、あの昆虫は!」ニールを指差し奈緒は大声を上げた。ニールは腕組みをしながら「昆虫じゃないもん!妖精だよ!」と言い返した。
「いい加減にしなさい! ニール!」紫村が叱咤した。
ニールが驚き反省したように、祐樹の肩の上に着地した。祐樹は軽く微笑みながら、ニールの頭を軽く撫でた。ニールは目を細めて気持ちよさそうな顔をした。
「皆さんのお気持ちは判ります。ただ、祐樹さんを責めても何も解決はしません。それに皆さんが、言うように祐樹さんが逃げたのなら、ここに彼が戻ってくる訳がありません。・・・・・・本当の事を言うと私達は、祐樹さんに地球を見捨てるように提案しました・・・・・・」レオがそこまで言った時、北達の表情が固まった。
「でも、その提案を祐樹さんは拒みました・・・・・・皆さんを見捨てる事は出来ないと・・・・・・」レオの言葉はそこで途絶えた。
沈黙の時間が流れる。
「祐ちゃん・・・・・・ 」奈緒が少し涙ぐみながら、祐樹の名前を呼んだ。
「皆、認めてもらえないかもしれないけれど・・・・・・、俺の故郷は地球のこの町だし、俺は地球人なんだよ。他の星の奴らには悪いけれど・・・・・・、見捨てるなんて出来ないよ」祐樹は皆の顔を見回した。
「私達も小松崎君が守ると言ったのだから、徹底的に地球を死守するわ。私も担任だしね!」紫村が目の前で拳を握りしめた。
「だから、教育実習生だって・・・・・・。」祐樹が突っ込むと生徒たちに笑いがこぼれた。
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