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バトル・マリア

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「くそー、数が多すぎる!」さすがにこの数には勝てないのではないかと、祐樹は苛立ちの表情を浮かべた。目前には、無数のイアーグ達が各々戦闘スタイルに変身していっていった。

「ご主人様!」祐樹の頭の中に、パンの声が聞こえる。

「パン!大丈夫なのか!」祐樹が驚きと歓喜に入れ混じった声をあげる。

「ニールちゃんが助けてくれました。それよりご主人様、諦めては駄目です。皆で一緒に戦うのです」

「皆で・・・・・・? 」

「はい、メタルガイダー・ゼロに変身するのです!」

「ゼロ・・・・・・?」祐樹はパンの言葉の意味が解らず困惑した表情を見せる。

「でも。あれは・・・・・・」ダンが何か言いたそうな表情を見せた。

「メタルガイダーの究極形態です。私も、パンと同じ考えです。この危機を脱するには、ゼロに変身するしか方法は無いと思います」モニターの中のレオがパンの意見に同意する。

「分かった!セパレート!」祐樹が叫ぶとメタルガイダーの変身が解かれ、祐樹とレオの姿に戻る。

「シンクロ!ゼロ!」叫ぶと、レオ、ダン、パン、ソラの体が粒子に変わり、祐樹の体を包む。

「暖かい・・・・・・」祐樹は今まで感じたことの無い温もりに包まれる。
 イアーグ達の前に、新しいメタルガイダーが姿を見せた。

「超爆激神!メタルガイダー・ゼロ!」メタルガイダーの体が黄金に輝く。祐樹の視界には四つのモニターが現れて、それぞれレオ、ダン、パン、ソラが映し出されている。
 祐樹は、自分の体に強い力が宿ったように感じられた。

「とうとう、ゼロを・・・・・・」紫村は手にニールを優しく包んだまま、空中の様子を見つめていた。

「いくぜ!」祐樹は少し屈んでから空中に飛び上がった。その瞬間、体の回りに黄金に輝くオーラに包まれて、イアーグ達を粉砕していく。空中に停止すると、片手に長剣、片手にトンファーを出現させた。トンファーでイアーグ達の攻撃をかわし、剣で体を切り刻んでいく。その動きは全く無理が無く、効率的にイアーグを撃破していく。それでも、まだ無数のイアーグ達が襲いかかってくる。祐樹は両手の武器を消滅させると、両手で大きな円を描いた。その円の連動するように大きなシャボン玉のようなバリアがイアーグ達を包み込む。イアーグ達は外に脱出しようとバリアの内壁に攻撃を試みるが、全く効果が無い様子であった。
 祐樹は両手の平を重ねると、握りつぶすような仕草をする。イアーグ達を包んだバリアも小さくなり、イアーグ達は悲鳴をあげている。さらにバリアが小さくなり中のイアーグ達は潰された。まだ、イアーグが数人残っていた。
 祐樹は両手に念を込める。その手の中にマシンガンが二丁現れた。イアーグの口が開き、レーザのような光が祐樹を襲う。祐樹は転がりながら攻撃を避けた。転がりながらマシンガンのトリガーを引き銃弾を発射する。銃弾がイアーグ達に命中し絶命していく。

「結局、私だけになってしまったのね・・・・・・ 」最後に残ったのは、女イアーグであった。
 女イアーグは、変身を解くと、もう一度美しいブロンド髪の美女の姿になった。

「貴方を殺す事はできない、銀河を壊しては元も子もないから・・・・・・。ただ、全力で力を出さないと、貴方に勝てそうにないわね」言いながら、女イアーグは唇に二本の指を当てた。彼女の体が光に包まれて姿を変えた。先ほどまでの、無機質な体ではなく全身が武器のようなバトルスーツを着用していた。

「まさか・・・・・あっあれは、アンドロメダのバトル・マリア! 」紫村が叫ぶ。

「バトル・マリア・・・・・・ なんだそれは? 」祐樹は銃を女イアーグに向け構えている。

「あら、私のことを、ご存知なの? 私も、有名になったものね」言いながら右手に剣を出現させた。

「小松原君! 彼女は危険よ! バトル・マリアと戦ったものに生き残ったものはいないと聞くわ!出来るなら・・・・・・逃げるのよ!」紫村が祐樹達に逃亡することを促した。

「まさか、逃げるなんて許さないわ! 」マリアは少し微笑みながら剣を構える。

「逃げるはずないだろう!俺は・・・・・・こいつと戦う!」祐樹は銃を放棄してから、長剣を手にした。剣を上段に構えると、マリアに切りかかる。その攻撃をマリアは剣で受けると横に流してから、祐樹の体に切りかかる。切られた部分から、火花が飛び散る。

「さすがに、タフね!」マリアは嬉しそうに微笑む。祐樹は空いている手にも、剣を出現させた。腕をクロスして二刀流の構えを見せる。その剣が別々の生き物のように、バトル・マリアの体に襲い掛かる。しかし、マリアは余裕の表情を見せて、攻撃を受け流す。

「たぁー!」マリアの背後から、剣を手にした紫村が襲い掛かる。マリアは、軽く頭を傾けてその攻撃を避けてから、ゆっくりとした動作で掌を紫村の胸の辺りにあてる。目まぐるしく動く動作のなかで、スローな動き対して紫村は反応することが出来なかった。

「ナイス・ボディーね!」そう言いながら、マリアは紫村の胸に押し当てた手に力を込めた。

「キャー! 」その瞬間、紫村は悲鳴をあげながら後方に吹き飛ばされ、地面に激突して気を失う。

「少し大人しくしていてね」マリアは投げキッスをしてから、祐樹の前に移動した。

「仕切りなおしよ!」剣を構えて祐樹を挑発する。

「紫村先生・・・・・・!てめえ!」祐樹は頭に血が昇り冷静さを失い、でたらめに剣を振り回した。その攻撃をマリアは笑いながらかわした。

「そんなに、人が死ぬのが嫌なの!でもね・・・・・・、貴方も沢山の命を奪ってよ!」

「なっ! 」

「イアーグも、アンドロメダの人達も生きているのよ。貴方達だけが生きているのではないのよ!」マリアの剣が祐樹の頭部に襲い掛かる。祐樹はその攻撃を剣で受け止めた。

「そんなこと・・・・・・わかっている! 」マリアの剣を弾き飛ばした。

「祐樹さん、冷静になってください! レイ姉さんは大丈夫です!」レオの声が聞こえる。地面に目をやると、紫村が首を振りながら立ち上がる様子が見えた。ニールが力を使ったようだった。祐樹は胸を撫で下ろす。

「俺は、お前たちを許さない!」祐樹の体が再び金色に輝く。剣を投げ捨て両手を左右からマリアの頭部に向けて激しく挟みこむように攻撃する。マリアは両手を上げてその攻撃を防いだ。2人の腕が重なり合いながら震える。

「私も、貴方たちを許しはしないわ!」マリアの体が赤く輝く。両手の力が増し、祐樹の両手を弾き飛ばした。

「貴方たちの攻撃で、私達の星は滅びた! これ以上の悲しみを生まない為にも、銀河のコアを私達の手中に置かないといけない! 」マリアの体から血管が浮き出て見える。力の限界を超えているようだ。

「一体、何の話なんだ・・・・・・!」

「とぼけないで!アンドロメダの星々は、銀河の侵略により廃墟になった。これ以上の争いを止める為には、貴方を連行して人質になってもらうしか方法はないの!」

「・・・・・・!」祐樹は頭が混乱して言葉が出てこない。

「レオ! どういうことなんだ?」ダンの声が響く。

「私にも、何のことだかわからないわ・・・・・・ 」レオがダンの問いかけに返答する。

「そういえば・・・・・・」ソラが唐突に話に割り込む。「ナユター星の牢獄の壁に、アンドロメダの人達の、恨み辛みが沢山書かれていた・・・・・・ 」相変わらず、台詞を棒読みしてるような喋り方だった。

「どうして、あの時言わないの! 」レオが怒ったように問い詰める。

「別に・・・・・・、聞かれなかったから・・・・・・ 」ソラは悪びれた様子も無く返答した。

「・・・・・・ 」祐樹は呆れた表情を浮かべた。

「そういえば、聞いたことがあるわ・・・・・・ 」紫村が祐樹の元に近づいてきた。

「先生! 大丈夫なのか? 」

「ありがとう!ニールのお陰で、平気よ。 それよりも、たしかユーガ様が、アンドロメダの襲来に備えて、大規模な防衛軍を送るって言っていたわ」紫村が長い髪の毛を掻きあげる。

「防衛軍だと!私達はなにもしていない、一方的に攻撃をしてきたのは、お前たち銀河の兵士たちだ!」マリアは怒り心頭の表情で叫ぶ。「銀河の軍隊は、突然襲来してきて、女子供も容赦なく陵辱し殺した!虫けらを殺すかのように!」両手が震えている。

「それでは、お前たちは・・・・・・!」祐樹は驚愕の表情を浮かべて問いかけた。

「そう、これ以上の犠牲を出さない為に、貴方を捕らえに来たのよ・・・・・・」マリアの体から赤い光が消えた。ゆっくり地面に着地していく。
 祐樹も同じように地に足を下ろす。

「私たちは、銀河に干渉をするつもりなど毛頭なかった。元々、過去の戦いを悔い、私達は他の星への干渉を止め、兵器をすべて放棄して平和に暮らしていたのだ」マリアは悲しげな表情を浮かべている。「話し合いで解決を試みた、アンドロメダの代表をお前たち銀河の兵士たちは話も聞かずに惨殺した。・・・・・・仕方なく、封印していたイアーグ達を目覚めさせたのだ」マリアは悔しさを体全体で表現していた。

「・・・・・・しかし、お前たちは地球人を・・・・・・」祐樹は、辺りの瓦礫の山を見回す。

「私達は、地球人を殺してはいない。街は破壊したが、地球人は保護している」マリアが指さすと上空にフォログラフィーのような映像が映る。そこには牢に入れられた、大人たちの姿があった。

「これ以上、死者を増やさない為に、銀河のコアが我々には、必要なのだ!」マリアのブロンドの髪が揺れる。その必死の瞳に祐樹はドキッとした。

「俺は、どうすれば・・・・・・」祐樹はモニターに映るレオ達を見た。

 レオ達からは明確な返答は返ってこなかった。少しの沈黙が流れる。

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