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樹心館
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一週間ぶりに、所属する樹心館に顔を出す。
仕事の都合もあり、なかなか練習に参加する事が出来ないのが実情ではあるが週に一度は無理やりにでも参加するようにしている。
この樹心館は俺が尊敬する竜野師範が代表を努める空手道場である。それほど有名ではないが、他の空手道場とは一線を引いた練習を行う事で、一部のマニアの間では名前が知れているらしい。
元々、竜野師範は機械体操の選手であったが、練習中の怪我が原因で現役を退き二十歳《はたち》から空手の修行を開始されたそうだ。
空手を始めてから、一年ほどで黒帯を取得し現役時代は有名な空手団体の試合に単独で出場し、単独入賞した経験もあるそうだ。
樹心館の空手は、試合ではフルコンタクト空手である。
しかし、道場内で練習する内容は、よく言われる寸止め空手でもなく、フルコンタクト空手でもなく、その間といったところのようである。
いざというときに、本当に使える格闘技というのが竜野師範の口癖である。
「こんばんわ」道場のドアを開けてお辞儀をしてから中に入ると、師範が1人で練習場していた。
「おう、来たか」師範がなにやら嬉しそうに微笑む。
師範は砂袋を蹴り足の脛を鍛練している最中であった。
砂袋を蹴る音は道場内に響き渡っていた。毎日、左右千回蹴る事を日課にされているそうだ。この足で、本気で蹴られたら、間違いなく俺の足の骨は砕けるだろう。
「今日は、練習生は……」見回したが俺と師範以外、誰もいる様子はなかった。少し失敗したという思いが俺の頭の中を過《よぎ》る。
「それでは今日はマンツーマンでやるか」師範は嬉しそうにいうが彼がこの言葉を口にした日はキツイ練習になる事を俺は知っている。
こういう時は、俺の練習というよりは師範の技の研究の為、モルモットになると言ったほうが正解なのかもしれない。
少し憂鬱《ゆうつ》な気持ちを抱きつつ、空手道着に着替えて腰に黒帯をまいた。
一礼してから師範の前に立つ。
基本稽古、移動稽古、型稽古を短めにこなし、久しぶりに師範と組手をする事になる。 師範といっても、歳は俺より少し上なだけで、まだまだ現役である。
「今日は試合用じゃない技を教えてやるよ」そういうと師範は、両掌を開いて俺の目線を覆うように構えた。「どこでも攻撃してきな」師範は鋭い目つきで俺を威嚇する。
「やー」気合いを入れて師範の顔面めがけて右上段回し蹴りを放った。
その瞬間、少し師範の体が下に沈《しず》んだかと思うと蹴った足を下から上へと跳ね上げ、軸足を刈り取るように蹴り払われた。
俺の体は宙に浮かび、勢いよく道場の畳の上に叩き落とされた格好であった。
師範の指が俺の頸動脈《けいどうみゃく》の辺りに突き刺さり、猛烈な痛みが駆け巡る。
畳をタップして解放してもらう。
俺の目からは涙が滲む。
「腰から上の蹴りは、相当な実力差があるか、相手が弱っている時以外は避けるべきだ。攻撃は手技を中心に練習するんだ。あと……」言いながら、倒れている俺の顔面めがけて抜き手を放ち寸前で止めた。
「空手だからって正拳に拘《こだわ》る必要はないんだ。
致命傷を与えるなら、顔へは抜き手、もしくは熊手《くまで》のほうが効果的だ」そう言った後、おれの右腕を掴み引き上げてくれた。
「今教えた事は試合で使ってはいけない技だから若い選手に教えてはいけないよ」師範は鋭い抜き手を見せた。
その突き出した手のスピードに俺は驚く。
「あと、本当に暴漢に襲われた時は、とりあえず逃げる事。中途半端に習った護身術を使おうと思ったら、逆に危ないからね。いくら鍛えても素人が使うナイフで簡単に殺されてしまう事なんて普通のある事なのだから……」師範の言葉を聞いて、俺は納得するように大きくうなずいた。
「まあ、こんな稽古しても使う機会なんて、そうそう無いだろうけどね」もう一度、師範の胸を借りて、先ほどの技を念頭に置きながら組手の練習を続けた。
仕事の都合もあり、なかなか練習に参加する事が出来ないのが実情ではあるが週に一度は無理やりにでも参加するようにしている。
この樹心館は俺が尊敬する竜野師範が代表を努める空手道場である。それほど有名ではないが、他の空手道場とは一線を引いた練習を行う事で、一部のマニアの間では名前が知れているらしい。
元々、竜野師範は機械体操の選手であったが、練習中の怪我が原因で現役を退き二十歳《はたち》から空手の修行を開始されたそうだ。
空手を始めてから、一年ほどで黒帯を取得し現役時代は有名な空手団体の試合に単独で出場し、単独入賞した経験もあるそうだ。
樹心館の空手は、試合ではフルコンタクト空手である。
しかし、道場内で練習する内容は、よく言われる寸止め空手でもなく、フルコンタクト空手でもなく、その間といったところのようである。
いざというときに、本当に使える格闘技というのが竜野師範の口癖である。
「こんばんわ」道場のドアを開けてお辞儀をしてから中に入ると、師範が1人で練習場していた。
「おう、来たか」師範がなにやら嬉しそうに微笑む。
師範は砂袋を蹴り足の脛を鍛練している最中であった。
砂袋を蹴る音は道場内に響き渡っていた。毎日、左右千回蹴る事を日課にされているそうだ。この足で、本気で蹴られたら、間違いなく俺の足の骨は砕けるだろう。
「今日は、練習生は……」見回したが俺と師範以外、誰もいる様子はなかった。少し失敗したという思いが俺の頭の中を過《よぎ》る。
「それでは今日はマンツーマンでやるか」師範は嬉しそうにいうが彼がこの言葉を口にした日はキツイ練習になる事を俺は知っている。
こういう時は、俺の練習というよりは師範の技の研究の為、モルモットになると言ったほうが正解なのかもしれない。
少し憂鬱《ゆうつ》な気持ちを抱きつつ、空手道着に着替えて腰に黒帯をまいた。
一礼してから師範の前に立つ。
基本稽古、移動稽古、型稽古を短めにこなし、久しぶりに師範と組手をする事になる。 師範といっても、歳は俺より少し上なだけで、まだまだ現役である。
「今日は試合用じゃない技を教えてやるよ」そういうと師範は、両掌を開いて俺の目線を覆うように構えた。「どこでも攻撃してきな」師範は鋭い目つきで俺を威嚇する。
「やー」気合いを入れて師範の顔面めがけて右上段回し蹴りを放った。
その瞬間、少し師範の体が下に沈《しず》んだかと思うと蹴った足を下から上へと跳ね上げ、軸足を刈り取るように蹴り払われた。
俺の体は宙に浮かび、勢いよく道場の畳の上に叩き落とされた格好であった。
師範の指が俺の頸動脈《けいどうみゃく》の辺りに突き刺さり、猛烈な痛みが駆け巡る。
畳をタップして解放してもらう。
俺の目からは涙が滲む。
「腰から上の蹴りは、相当な実力差があるか、相手が弱っている時以外は避けるべきだ。攻撃は手技を中心に練習するんだ。あと……」言いながら、倒れている俺の顔面めがけて抜き手を放ち寸前で止めた。
「空手だからって正拳に拘《こだわ》る必要はないんだ。
致命傷を与えるなら、顔へは抜き手、もしくは熊手《くまで》のほうが効果的だ」そう言った後、おれの右腕を掴み引き上げてくれた。
「今教えた事は試合で使ってはいけない技だから若い選手に教えてはいけないよ」師範は鋭い抜き手を見せた。
その突き出した手のスピードに俺は驚く。
「あと、本当に暴漢に襲われた時は、とりあえず逃げる事。中途半端に習った護身術を使おうと思ったら、逆に危ないからね。いくら鍛えても素人が使うナイフで簡単に殺されてしまう事なんて普通のある事なのだから……」師範の言葉を聞いて、俺は納得するように大きくうなずいた。
「まあ、こんな稽古しても使う機会なんて、そうそう無いだろうけどね」もう一度、師範の胸を借りて、先ほどの技を念頭に置きながら組手の練習を続けた。
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