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1.プロローグ

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僕、三上薫(みかみかおる)は平穏な学生生活に憧れていた。
信頼できる友達をつくって、遊んだり、話したり

そんな、どこにでもあるような学生生活を送ってみたかった。
しかし、小中学生の頃の僕にはそれは夢のまた夢でしかなかった…



僕の周りには、いつも女子がいた。どこに行くにしても(トイレ以外)ついていき、何をするにしても、一緒にいる。
どうして、ついてくるのか集団の中の一人の女子に聞いたことがあった。

「私達は、薫様をお守りし隊というファンクラブの一員であります。
なので、こうして薫様をお守りしているのです。」

え、僕のファンクラブなんてあるの…?


「薫様が迷惑なのならば、ついていくのは辞めます。しかし、私達は薫様をお守りしたい。」
集団の中でリーダーであろう人物が、僕に言った。

正直、女子から守られる男子というのは如何なものなのか…。

それ以前に、何故僕なんかのためにそこまでしてくれるのかよく分からない。
自分で言うのもなんだけど、容姿はそこまで悪くないと思う。でもそれは、悪くないというだけであって、全体的に見ると中の上くらいだ。周りには僕よりも格好いい人が沢山いる。
それに僕は彼女たちに何かをしてあげた訳でもない。
だから、そんな僕にファンクラブができてることも、守られていることも思いもしなかった。

「だめでしょうか…」
弱々しく彼女から吐き出された言葉。

僕が彼女たちのことを拒絶すれば、気兼ねなく自由に行動できるようになるが、彼女たちはとても傷つくだろう。

良かれと思ってしてくれたことを、拒絶するのは可愛そうだ。

「君たちの話してくれる話はとても面白いし楽しい。まぁ、僕のファンクラブがあるというのは驚いたけど、こんな僕を好いてくれるなんて嬉しい。別に迷惑ではないよ。」
彼女たちを安心させるように、満面の笑顔を向けた。
それに対して、彼女たちから頬を赤く染めながらお礼を言われた。リーダー系の彼女に至っては、涙を流していた。

そして、薫はこのあと後悔することとなる。




それからというもの、前に比べて集団の人数が多くなった。しかも、前までは「一人にさせて?」とお願いすると退散してくれた彼女たちだったが、そのお願いが効かなくなった。「いえ、薫様をお守りするためついていきます。」
と、返されるようになった。

でも、自分から迷惑ではないと言った反面、今更断ることもできず中学卒業までこれが続いたのであった。



また、僕は負けず嫌いだった。誰かに1位を取られるのが嫌で、人一倍努力した。
そして、毎回1位だった。勉強も運動も。
初めの頃は嬉しかった。頑張ったぶん結果がでて。

僕にはライバルと呼べる人が、誰一人としていなかった。僕と肩を並べて競ってくれる人物が。

だんだん結果を出すにつれて、嬉しかった感情がつまらないという感情に変わった。何をしても一位。頑張っても無駄なのかもと思うようになった。

そんな薫に対して、教師たちは大きな期待を寄せるようになった。どの教科でも薫は注目された。

僕は、その期待がとてもうっとおしかった。



あまり男子と関わることがなかった僕は、信頼できる友達だけではなく、友人と呼べる人物すらいなかった。
また、教師から色んなところで注目され平穏で普通な学生生活を送ることができなかった。






☆ ☆ ☆



「進路かぁ…」


手元には進路用紙。
中学3年の2学期。もう進路を決める時期になった。


「高校では、友達をつくって、楽しい学校生活を送りたいな」

「ふふふ。そうねぇ、お母さんも薫ちゃんがめいいっぱい頑張れる高校に行ってほしいわ。」

自分の部屋で自分にしか聞かれていないと思った言葉は、いつの間にか僕の部屋に入っていた母親に聞かれていた。


「もう、お母さん!入るときはノックぐらいしてよ」

「ごめんなさい、薫ちゃんを驚かせたくて。ふふっ。」
全く、本当にこの人は大人なんだろうか…


「青条学院なんてどうかしら?あそこなら男子校だし、トップクラスの人が集まる所だから、薫ちゃん頑張れるんじゃない?」
お母さんはそう言って、僕の頭を優しく撫でた。

一回、学校でのことを兄さんに相談したことがあった。

ファンクラブのこと。
教師のこと。
友達ができないこと。

その時に、どこからとなくお母さんがやってきて、結局お母さんにまで聞かれることとなった。
だから、僕の学校でのことをお母さんは知っているのだ。

「青条学院かぁ…」
周りに凄い人が沢山いるところなら、
ライバルだって見つかるかもしれない。
ただ、あまり男子と関わってこなかった僕だ。男子校で、友達ができるだろうか。

ふぅ…なんか、僕ってこんなことで悩んで小心者だな…

「まぁ、薫ちゃんが行きたいところに行けばいいわ」
それだけ言って、何もせずにお母さんは部屋を出ていった。

あの人は、驚かすためだけに僕の部屋に来たのか?
そんなことを思いながら、もう一度、紙に視線を戻す。

筆箱の中から、一本のシャーペンを取り出した。


『私立青条学院』


第一希望の欄に書かれた、それを見て
微笑む。

「なんか、楽しみになってきた。」

まだ、受験すらしていないのに、とても楽しみになっている自分がいた。



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